エピローグ
点字ブロックで分けられた線路側とホーム側のふたつのコンクリート。
線路側を歩く人を見ると突き落としたくなるこの感覚。
落としたらどうなるか何となくわかっているから落とさないし行動に移さないけれど、何かのスイッチで落とすことがあるとしたら、どんな時だろうか…
例えば私の場合は…
点字ブロックの上を踏んで歩く人はまだ抑えられるのだが、点字ブロックを越え、各号車の数字を踏んで歩く人は抑えられない。
落とした先の感覚を知ってしまえばもう後には退けない。(ひけない)
落とした時のあの表情と周りの反応。胸の奥が騒ぐ。落とし方にもいろいろあって、色んな落とし方を試したい… 考えれば考えるほど顔がニヤける。心が踊っている。
いつも考えるのだけど、普通ってどういうことだろうか…自分自身にとっては普通であっても他人にしてみれば普通ではないことは多々あるだろう。どこまでが良くてどこからがダメなのか、人それぞれの価値観で決まる。人を落とそうとするその心理は許されるのか否か。基本的には許されないだろう。それでも落とす行動に至るのはなぜか。―ムクゲ―
「お前は、これだけを極めればいい。」低く、重たい声が神様のお告げのように耳元でささやく。自分の左手は5センチ程の釘を握っている。右手には電動ドリル。額を当てるとひんやりと気持ちよさそうなコンクリートで囲われた地下の薄暗い部屋とは反対に体中が熱い。目の前で、人体実験ができるからだ。生きたままの人間に釘を刺すとどうなると思う。考えただけで楽しくなる。目の前で縄に縛られ、怯えている人間は、三十代くらいの男だろうか。笑えてくる。大の大人が泣きじゃくっているんだよ。怯えすぎていて、やめてくれの言葉が声になっていない程、絶望した顔をしている。これは思ったよりも遊び甲斐がある。最近のおもちゃはすぐ冷たくなってしまって面白くなかったのだけど、今回のは生きが良さそうで胸のざわめきが止まらなさそうだ。
あーあ、思ったより持たなかったな。すぐ壊れてしまった。遊ぶおもちゃがまたひとつ無くなってしまった。毎日の三度の飯よりもおもちゃで遊ぶのが趣味だからか、最近は退屈で仕方がない。たまには外にでも出ようかと思うけれど“あの人”はyesとは言わないだろう。そこまで外に出たいかと言われるとそうでもないしな…と。
「おもちゃ、まだ足りないか」と神様のような声で囁かれる。
「足りない。退屈すぎて死にそう~。」
「そうか、じゃあ、もう少し待ってくれ。明日にでもなれば次のおもちゃが届くよ。」
皆様の今日が良い1日となりますように。