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そのルームメイトはベランダで笑う

作者: こぐま

まただ…。

いつもソレは突然やってくる。


「あ、そうそう。マジでうけるよな」


友人2人の視線が自分に向けられているのを感じ、僕は必死に作り笑いをしながら大袈裟に手を叩いて笑ってみせた。


「いや、「テストどうだった?」って聞いて、なんでウケるの?」


「お前さ、話聞いてなかっただろ。どうせ女子のことばっかり考えてたんだろ。あそこにいる岡本さんとか、ちょっとミステリアスだけど可愛いもんな」



友人の涼介はニヤニヤしながら僕を見た。


いや、「聞いてなかった」のではない。


「聞こえない」のだ。


僕にこの症状が現れだしたのは、幼稚園の頃からだった。直前まで聞こえていた会話だけが急にピタッと聞こえなくなるという症状。他の音は聞こえるのに、なぜか人の声だけが聞こえない。色々な病院で検査をしてもらったが、「異常なし」と言われ、「ストレスからくる一時的なものでしょう」と片付けられてしまう。たしかに、この症状は時間が経過すれば何事もなかったかのように、また聞き取れるようになるため、「ストレス」を原因とするのが1番適切なのかもしれない。問題は、その「時間」。10分くらいの短時間で治る時もあれば、数時間に渡る時もある。何の前触れもなくやってきては、僕の世界から「人の声」だけを奪っていく。



自己流で身につけた読唇術で、なんとなく涼介の言っていることがわかった僕は、「あはは…」と乾いた笑いを返す。症状が起きている間は、こうして集中して相手の唇の動きを読んでいれば、なんとなくの会話はわかるのだが、僕の目は2つしかない。大人数で同時に話されると、もうお手上げ状態だ。


「ごめん、ちょっとトイレ…」


2人にそう声をかけて、僕は教室を出た。階段を下り、踊り場の窓から外を見る。


「今日の夜7時22分、ベランダで」


いきなり聞こえた言葉に振り返ると、そこにはクラスメイトの岡本ゆりが立っていた。それは「聞こえた」というより、直接脳内に響いてきたような感じの声で、以前聞いた彼女の声とは違うような気がした。


「えっ?7時?えっ?」


混乱する僕をよそに彼女はくるっと踵を返し、階段を登っていく。その時チラッと見えた横顔は、不気味な笑みを浮かべていた。

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