割れた破片
長い眠りから気が付いたメアリー。アルスの体調もよくなり、ようやく逢えた愛しい人に異変が起きる。
第9話 始まります。
ー王室 高度医療施設ー
「患者は、大量出血より意識なし!」
「血の準備を!早く!」
「蘇生魔法、生命維持魔法を急げ!」
バタバタ走る医者、治癒士が
メアリーを助けようと必死だった。
「ここからは、私たちが全力で治療しますので
ここからは、入れません。」
菌が入らないように結界魔法が貼られ
ユランはただ呆然と外の扉の前で立たずんでいた。
カールがユランに
「今は、待つしか。」
「あの馬鹿は?」
「命に別状がなく、傷を治癒魔法士が手当をし
アルス様は、眠っております。」
「そうか。」
ギリッと拳を握りしめて血がポタポタと
落ちる手をカールがソッとユランの手を掴み
治癒魔法を唱えた。
「メアリーお嬢様は、必ず助かります。信じましょう。」
「ああ。現場検証と刺客を割り出す。行くぞ。」
「はっ!」
全騎士が、黒づくめの刺客の仲間を探して
周ってる中、数日してアルスの意識が戻った。
「メアリー!」
手を見るとあの血の生温かさが
まだ残っているように見えて
アルスは錯乱しながらランドルに
「ランドル、メアリーは?メアリーは?」
「落ちいてください。
あれから、まだ意識は戻ってませんが
峠は超えて、状態安定しつつあります。」
「今すぐ、メアリーに逢わなきゃ...。」
点滴の針を自分で抜いて、ベッドから
降りようとするアルスをランドルが止めるが
「退け!今すぐ、この手を離せぇ!」
暴れるアルスの力は凄まじくランドルも
全力で抑えるが力で負けそうになるくらいだった。
バンッ!飛びが開いて医師とユランが入って来て
「馬鹿野郎が!今は、面会謝絶に決まってんだろうが!」
胸ぐらを掴んでアルスの首を絞める。
カールが慌てて止めるがユランは離さない。
「お前が、暴れてメアリーが目を覚ますのかよ!」
上下に激しくアルスを揺らしながら怒鳴るユラン。
ドサッとベッドに投げ捨てると医師が
鎮静効果と眠る注射を打つとアルスの目から
涙がこぼれ落ちて、スッと眠った。
「冷静なれよな。馬鹿野郎が。」
アルスも数日、不眠不休で犯人の足取りを探して
奮闘していた。カールが
「アルス様も少しはお休みを。」
「嫌、寝てる暇はない。」
アルスの部屋の扉が閉まり
全力で犯人の足取りを追った。
ー3ヶ月後ー
未だに彼女は眠ったままだと聞いた。
俺の変わりに、傷を負わせて目の前の
大切な人すら助けれなかった。
眠ると、彼女が血だらけの姿の夢を見ては
俺は叫びながら目を覚ます。
どれくらいその夢が続いたのだろう。
アルスは事件から
水も食事もほとんど取らず
強制的に栄養剤の点滴、鎮静効果のある薬を
四肢を繋げて暴れないように、拘束されていた。
そんなある日の朝、治癒士がメアリーの
容態を確認をしにベットで眠る彼女の瞼が
少し動いてるのに気付きメアリーの名を
呼びかけると彼女の瞼がゆっくり目が開いたのだ。
「分かりますか?メアリーお嬢様。」
その声のする方に首を傾けて
目がしっかり開いたことを確認すると
病院から呼ばれたユランが急いで病室に向かい
白い防護服を着て口を塞ぐ布を当てて
椅子に座り彼女の手を握った。
「メアリー、誰か分かるか?」
「お、兄様。」
「そうだ。よく頑張ったな。
でも、まだ眠らなきゃいけないよ。」
優しく髪を撫でると、メアリーの瞼は
またすぐに、目を閉じて眠りについた。
それを何度か繰り返すと、だんだんと
メアリーの意識が安定し
蜂蜜の飴が食べたいと言われ
医師に確認し食べて大丈夫と許可が下りた。
さらに、それから数ヶ月が立ち、メアリーは
一般病室に移った。
アルスには、メアリーが目を覚まし
意識も安定したが、今の状態では
メアリーとの面会は無理だとユランに言われて
必死に体と、精神を叩き治した。
5ヶ月ぶりに、アルスがメアリーのお見舞いに行く日。
「メアリーの好きな、蜂蜜飴を持って行こう。」
個室の扉をコンコンとノックをすると
「はい。」
扉を開けるとベッドの上で座る彼女。
窓が開いていて心地よい風がサッと吹き抜けた。
顔色もいいメアリーを見て安心した俺は
「メアリー、よかった。
俺、死ぬほど心配した。
そうだ、メアリーの好きな蜂蜜飴を
持って来たんだ。他に...。」
小さい袋をメアリーに渡そうとしたら
彼女が俺の顔を不思議そうな顔と瞳で
ただ俺を見つめる彼女の瞳が
前に見た瞳ではなくて、遠くの人を見てる
瞳に見えて、俺の喉がヒュッと鳴った。
手に持ってた袋が、床に落ちて
ガシャンッと小瓶が割れる音が響いた。
その音にランドル、ユラン、カールが
病室の外で待ってたが、
慌てて部屋に、入るとアルスの顔が真っ青で
手が震えていた。
「どうした?メアリー。」
「ご機嫌よう、お兄様、カール。
こちらの男性方は、お兄様のお知り合いでしたか?」
「え、あ...。そうだよ、アルス王太子殿下だ。」
「それは、ご挨拶遅れました。
ベッドの上でご挨拶、大変申し訳ありません。
メアリー・アルフォードと申します。
お見舞いありがとうございます。」
アルスを見つめながら、座ったまま軽くお辞儀をし
微笑む彼女を見て、俺は、ふらついてしまった。
「お兄様、殿下の、お顔色が悪いですわ。
従者の方は?お医者様を呼んでください。」
メアリーがハンカチを取り出すと
アルスの額の汗を拭こうとした。
その手をパシッと払い退けると
ヨロヨロと歩きながら、病室をアルスは去った。
「私、気に触ることしてしまったのでしょうか。」
気に病むメアリーにユランが
「彼、混乱してるだけだから。」
「そうなのですね。」
心配そうな顔するメアリー。
その後医者や治癒士が
メアリーの脳の状態を調べた。
「一時的な、記憶障害の可能性が。」
「強く想う人の名を忘れてしまうケースも稀に。」
「何でこんな形に。」
アルスの絶望は計り知れないだろうが
戻るか分からない記憶を待つのかどうかは
アルス次第だと、彼の自室に向かう
ユランなのでした。
愛しい人の名前を忘れてしまうほど、悲しいことはないなと、私は思います。未だに昔好きだった人の名前は覚えてる、頭おかしい作者ですꉂ(ˊᗜˋ*)