好きという言葉
メアリーの愛が花開き、事件に巻き込まれたアルス殿下を、メアリーが命懸けで...。
第8話 始まります。
アルス王太子殿下が我が家に来なくなって
半年くらいが過ぎた。お兄様に聞いたら
お変わりなく過ごしてると聞いて安心したけれど
逢いに来てくれないことに、心が晴れず
半年くらい過ぎてもぼんやりしてしまう。
私は、今、少しずつ歩く練習とリハビリを頑張り
自分の意識以外でも少しずつ歩けるように
なってきました。
「メアリーの様子は?」
夜遅く帰って来る日が度々あって
メアリー付きのメイドのカレンが
「お食事、お茶の時間があまり。
感情が徐々に戻りつつある傾向で
アルス殿下の事が要因なのかもです。」
「あの野郎…。可愛い妹を蔑ろにしやがって。
明日殺るか。殺ろう絶対。」
カールに思いっきりゲンコツを落とされ
悶絶するユラン。最近、一緒に寝れてないことも
あるけれどそろそろ、別々で寝ないとなと
ユランも考え出した時、手紙に目が止まって読むと
「これは...。」
ー翌日ー
「メアリー王室で夜会があるんだが、行ってみるか?」
メアリーの表情がぱぁっと明るくなって
一瞬で、暗くなった。ユランが膝をついて
「あいつに逢いたいんだろ?逢いに来ないなら
逢いに行くのも、いいんじゃないか?」
「……。」
「よし、考えても仕方ない。早速ドレスを新調して
アイツを後悔させてやるわ。フフッ。」
(お兄様、たまに顔の表情が本気なんですよね。)
あれよという間に夜会の日。
朝から湯浴みで全身磨かれ
全身マッサージをされて
髪にはいい匂いの薔薇の香油
(ほんのり香る程度見たいですわ。)
お化粧も、濃くなく薄づきのお化粧に。
ドレスは、アルス王太子殿下の髪色に似た
イエローグリーンのドレス。
胸元はV字に真ん中に大きなリボンに
赤のチョーカー薔薇のピアスに
フワフワのマロン色の髪の毛はお団子にして
大きな生花の薔薇をつけて完成。
「お嬢様、素敵すぎます!」
「王太子殿下も、骨抜きなりましょう!」
あれからリハビリや足のマッサージ
少しだけダンスもできるようになって
準備を物凄くメアリーは、頑張ったのだ。
ー王室 夜会ホールー
「俺はいい。」
「エスコートされる女性がお待ちしております。」
「だから、誰もエスコートしないって。」
バンッとアルス王太子殿下の自室部屋の
扉が開くと従者3人とユランが入って来て
「おい。時間ないから早く用意させろ。」
ユランが顎を上げクイッと従者に指示を出すと
暴れるアルス王太子殿下を無視して
王族の正装服、白を基調とした
スーツに赤のマント、金色の紐に
胸元には、獅子と剣の王族の印のワッペン
猫毛の茶色と白が混ざった髪の毛は横流しに
いつもと違うアルスの完成だ。
「胸元には、薔薇刺しとけ。」
従者に背中を押されてどこかの部屋の扉の前で
「後は、好きにしろ。」
「は?俺なんにも答えてないけど?」
ザッと退散する従者とユランが
はよ行けとヒラヒラと手をあげて去って行った。
「誰が居るんだろうか?」
深呼吸して扉コンコンとノックする。
「…は、い。」
(声が震えてる?緊張してるのかな?
まっ、適当に断ったらいいかな。)
扉をガチャと開けると後ろ向きで
椅子に座る令嬢にどこか懐かしさを感じて
アルスの喉が鳴る。
「メアリー?」
呼ばれて椅子からスッと立ち上がり
ゆっくりゆっくり歩いて、フラつきながらも
カーテシーをしてアルスに挨拶をした。
「お、お、久しぶりです。殿下。」
「…ッ!」
半年ぶりに見た彼女の変貌に思わず見とれて
声が出ないアルス。キョトンとした表情で
アルスを見つめるメアリー。
「ちょ…。待って。」
カッと顔が熱くなり、顔を片手で押さえて
彼女を凝視できない俺が不甲斐ない。
「くそっ。あの野郎やりやがったな。」
フラフラと低いヒールを履いて
アルスの元まで歩くメアリー。
よろけて倒れそうになり
慌ててアルスがメアリーを抱き止めた。
「危なっ!」
「メアリー大丈夫?」
「はい。」
柔らかな笑顔で俺に微笑む表情に
あのメアリーかとさえ思うほどだった。
「メアリーが綺麗すぎて、誰かわからなかった。
しかも歩けて、声まで出せるなんて思わなかった。」
精一杯の褒め言葉がこれかよって自分の
会話の引き出しの無さに、歯がゆさが込み上げた。
「ごほんっ。」
ランドルが俺の後ろで咳払いをすると
「ご令嬢をお待たせした挙句に
夜会の時間まで遅れるのですか?殿下。」
「あ、そ、そうだな。
メアリーそろそろ行こうか?」
アルスが手を差し伸べると、
ソッとメアリーが手を置いて
彼女の歩幅に合わせて夜会ホールまで歩いた。
「アルス・ハイム 第一王太子殿下
メアリー・アルフォード公爵令嬢の入場!」
ガチャッと扉が開きアルスがメアリーに
「メアリー、本当に綺麗だよ。」
ゆっくりゆっくりと彼女と会場を進み
周りの貴族や家臣から色んな声が聞こえた。
「ランドル、何か飲み物を。あと椅子を。」
「畏まりました。」
サッと、ランドルが飲み物と椅子を用意をした。
「さあ、メアリー座って。」
「殿下が、す、座ってください。」
殿下に、エスコートされて
座らされてしまったのだがいいのかなと
思いながら表情が出ないで困惑する
メアリーにアルスがグラスを手渡した。
「果実水だよ。甘くて美味しいよ。」
一口飲むと、スッキリした甘さで
コクコクと飲むメアリーの姿にアルスが
「可愛い。」
(俺、今、素で可愛いって言ったよな。)
チラッと見ると顔が真っ赤なメアリーを見て
半年間、どんだけ頑張って来たのだろうかと
逢いに行かなかった自分に
後悔して謝ろうとした時、ダンスの曲が流れた。
「月より眩しい、レディ是非一曲を。」
「でもあんまり…。」
メアリーの手を取ると
スッとアルスが腰に手を回して
ゆっくりとメアリーをカバーしてダンスを
楽しんだ。会場から惜しみない拍手が響いた。
「メアリーに、見せたい場所があるんだ。」
ランドルとカールが護衛で付き添いながら
アルスがメアリーの手を繋ぎ歩いてると
「疲れた?」
「す、す、少しだけです。」
ヒョイっとメアリーをお姫様抱っこをすると
「もう少しだから、我慢してね。」
顔が赤い彼女を見ながら庭園につくと
真っ白いかすみ草が綺麗に咲いていた。
「わ、わ!」
喜ぶ彼女の声に連れて来て
よかったとアルスも微笑む。
「メアリー。ずっと寂しい想いをさせて、ごめん。」
手を握り謝る彼にメアリーが
「殿下に、あ、逢いにき、来ました。」
俺は、半年間、本当に何してんだろうと思うくらい
目の前の彼女の一生懸命に話そうとする姿に
好きが前より増して、もう我慢なんか必要ないと
強く彼女を抱きしめた。月夜の明かりが
かすみ草の庭園を照らし、俺たちを優しく照らした。
メアリーの顎を少し持ち上げて
唇を重ねようとした瞬間
ランドル達の走る声が聞こえた。
「殿下!危ない!」
俺は、後ろを振り向くと
黒づくめの刺客が背後に現れて剣を振り上げながら
「王太子殿下!死ねっ!!!」
彼女を強く抱き締め目を瞑った。
彼女さえ、無事なら俺なんかどうにでもいいんだ。
「ドンッ!」
押される強い衝撃、彼女の何処に
そんな力が眠ってるんだと思うほどだった。
俺の体は斜めに倒れて
尻もちをつき地面に手がついた。
ハッと頭上を見上げた瞬間
「ザシュッ!!」
と何が切れる音と
びちゃびちゃと赤い生暖かい返り血が
俺の顔にかかりかすみ草の白さが真っ赤に染まった。
「よ、よかった。」
『アルス様、好きです。』
彼女が小さく囁くような声で
静まり返る庭園で俺の耳に響いた。
メアリーは膝から崩れ落ち横に
ドサッと鈍いような音が響いて
倒れるメアリーの姿を俺は目の前で見ていた。
その瞬間、俺の頭が真っ白になって
何かが、プツンっと切れる音がし
気が付いた時には、刺客を黒炭にするぐらいの
火炎魔法を何度も何度も繰り返し唱えていた。
片腕には彼女をきつく抱き抱えて
俺の気は、乱れに乱れていた。
「殿下!!」
カールが大声で俺の肩を揺らしながら叫んでる声に
ハッと正気に戻り片腕には、血だらけで
冷たくなりかけたメアリーを抱き抱えていた。
「あ、あ、メアリーが…。」
「今、ランドルが治癒士を呼びに。
こちらに、今、向かっております
それまで、私が、止血を止める魔法を。」
カールが全力で治癒魔法を唱えていたが
俺はメアリーを抱きながら膝から崩れ落ちた。
ガタガタ体や手が震えて、歯がガチガチ鳴った。
体中の血が一気に引く感覚に
目の前から色が消えて灰色に感じた。
「か、」
「メアリー?」
手を握りメアリー名を呼んだ。
「…お、怪我がなくて、よか。」
「今は、今、何も言わなくていい。」
カールが止血魔法をし
慌てて来た治癒士が急いで傷を塞ぐ
高度魔法を唱えていた。
「メアリー!!」
(あ、お兄様の声。)
「アルスさ…。」
俺の頬に指が触れた瞬間
メアリーの意識がパタッと消えた。
「うわあああっ!!」
彼女を抱きながら、泣き叫ぶ俺の声が
庭園に響いた。もう何もないのかと
何もなく終わるのかと思って絶望的な瞬間に
泣き叫んだ。
治癒士が俺の手首を強く掴んで叫んだ。
「殿下!お気を確かに!
ご令嬢は、辛うじて、私の高度治癒魔法で
一命は取り止めております。
すぐに、王室の高度医療施設に移動させてください。」
首を振るばかりの俺の肩をガッと掴み
ユランが怒鳴り声を上げてアルスに
「アルス!いい加減にしろ!
お前がしっかりしなきゃ、メアリーが死ぬんだぞ!だから、渡せ!その手を離さないまま、メアリーを死なせたら、お前を殺すからな!」
ユランの叫びすら耳に入らず
ガッチリ離さないで抱き抱えたままの
俺にしびれを切らしたユランが
ギリッと歯を食いしばって
アルスの頬を、思い切り殴り飛ばして
俺の体は、吹っ飛んだ。
「メアリーを運ぶぞ。急げ!」
ユランの険しい顔が横切り飛びゆく意識の中で
力無く抱かれるメアリーの無事を
ただただ祈りながら、俺は、目を閉じた。
もう少しだもう少しで!物語が追いつくわ。