名古屋
「もしもし、おはよう。もしもし?」
新幹線を降りた直後の僕は、一向に姿を現さない友人に少し腹を立てていた。
小田原駅から名古屋駅まで。そりゃあ、新幹線を乗り間違えて、全駅に停まった挙句に一時間遅れたのは悪かったと思う。だがそれにしても、そこから更に二時間待たされるとは思わない。携帯の充電が切れてしまうじゃないか。
一旦諦めて駅から出てみた。車が沢山通りそうな横断歩道を渡って、家電量販店をうろつき、近くにある雀荘に入ってみた。
雀荘で涼んでいる時、従業員に話しかけられた。
「どこからきはったんですか?」
あれ?ここってどこだっけ。名古屋って関西なんだっけ。
別の従業員が暇そうに会話に混ざってくる。
「名古屋麻雀はやった事あります?名古屋と言えば名古屋麻雀でしょ」
そうなのか。そうなのか?この人、あれ、名古屋って関東なんだっけ。
すると電話がかかってきた。僕は、ちょっとすいませんと断って、雀荘から出て電話を取った。
「もしもし?ごめんごめん、今どこにいんの?」
友人の声だった。彼はこの近くに住んでいたはずだから、きっとすぐ来れるだろう。
僕は答えた。
「起きたんならよかったけどさ、なに?結構前に、愛知県入ったよ~ってライン送ったじゃん」
「もう名古屋にいんの?」
「え?」
「え、じゃなくてさ、名古屋着いてるの?どうなの?」
僕は、彼が何を言いたいのかが、ちょっと分かる気もしていた。
「ああ、うん。着いてるよ。すぐ駅戻るから」
そうして僕と友人は、名古屋を通り過ぎて、岐阜旅行を楽しんだ。