1000年後の世界
魔王城の玉座に君臨する魔族の頂点、魔王
遥か昔の人魔大戦において人族の勇者を打ち滅ぼし魔族を勝利へと導いた。
この世で最も力を持つと言ってもいい強者を目前にして、背を向けて逃げ出すなんて考えは及ばない。
ただ戦ってみたいという興味本位から、俺は魔王と戦うことになった。
「────────はっ……」
目が覚めると、すべてが終わっていた。
「あっはは…………手も足も出なかったってことかよ」
魔王との戦いの記憶が何一つない。何がどうなったのか、どんな手を使って俺を殺したのか。
この身に感じる魂の根源が別のものになっているということは、この体は以前のものではないということ。
「転生……」
自ら転生することになるとは思ってもいなかったが、なんだが清々しい気分だ。
「生きた証がリセットされるのは残念だが……記憶も力も以前と変わらずか。もしや魔王との再戦も叶うやもしれない」
これは神が俺に与えた祝福だろうか。
「それはそうと……、ここはいったいどこだ?」
あたりを見渡しても見えるのは鬱陶しい木々ばかり。
遠方には目を疑うほどの巨大な木まで立っている。何から何まで全く見覚えのない場所だ。
空を見上げれば、優雅に翼を羽ばたかせて飛んでいる巨大生物が視界に入った。
「おぉ、ドラゴンか。単騎で飛んでいるとは珍しいな……」
あの種は竜族の支配下にあるドラゴンであり、単騎で飛んでいる姿は初めて見た。
光を反射する赤黒い鱗は遠くからでも美しい色をしている。
「ん……近づいてないか?」
直後、けたたましい衝撃音とともに直滑降で降ってきた。
全長20メートルほどの巨体が音速に近い速度で落下すればその衝撃は相当なものとなる。
「危なっ……。いきなり降ってくるのは反則だろ」
「グルルッ……」
降ってきた当のドラゴンも無傷。
俺を睨み、敵意は丸出しだ。
口を広げ、鋭い牙が無数に並ぶ奥から豪炎のドラゴンブレスが発射された。
「戦う意思ありだな?」
向かってくる炎の渦を片手一つで防ぎ、足場を強く蹴りドラゴンに自ら近づいた。
「そっくり返す……よっと」
口を閉じようとしていたところに、先ほどと同程度の火力で獄炎を放り込んだ。
同火力でも炎の質が異なる豪炎と獄炎とでは味わうダメージが桁違いとなる。
喉を逆流する炎を浴びて悶え苦しむドラゴン。
それもそのはずだ。
豪炎を口から吐くドラゴンの喉は強靭に構成されているが、逆流するとなるとそれは違う。
喉を逆流した獄炎がドラゴンの内臓を内側から炙るその痛みはドラゴンとてそう耐えられるものではないだろう。
「それでもさすがはドラゴンといったところか」
自己治癒能力をもつドラゴンは受けた傷を数十秒で治癒して見せた。
やはり生物の頂点に君臨するだけのことはある。
「グルルルルァ……ッ!」
地に足をついた状態から器用に翼を使って猛スピードで突進してきた。
「いいよ、それならお前がどこまで耐えられるかの勝負をしようじゃないか」
ドラゴンに言葉が通じるのかは知らないが馬鹿ではない。力だけでなく知能までずば抜けて高いドラゴンならば理性だけで戦うことはないだろう。
俺が出すことのできる最大火力の豪炎を撃てるだけ連続で撃ち続ける。
俺はこれ以外の攻撃を一切しない。
「お前が耐え切れずに焼き死ぬか、俺の魔力が尽きるのが先か。ただの体力勝負だ!」
豪炎を体外で喰らったところでドラゴンにはほんのかすり傷程度しかならない。
一撃直径30メートルの豪炎の球をドラゴンに向けて投げつければ、けたたましい轟音をあげて大爆発が起きた。
「ほいっほいっほいっ……ほいっ!」
テンポよく、それでいて一切の魔力を躊躇うことなく全力の豪炎を放つ。
これ以上魔力を注いでしまえば性質変化を起こして別のものになってしまうため、これが実質的な出せる最大火力となる。
「…………ッ!」
翼を使って上空へと逃げようとするドラゴン。
「逃がすかよ」
ドラゴンを追って俺も上空へと飛んでいきながら尚も豪炎を繰り放ち続ける。
「!!?」
俺が空を飛べるとは思っていなかったのか、上空で俺の姿を目にして驚きを隠せない様子のドラゴン。
上空でも俺の放つ豪炎による大爆発が一定のテンポで連続して発生している。
どれだけ逃げようとも、俺の魔力が尽きない限り俺はどこまでも追っていく。
そのことを悟ったのか、それとも体力が尽きたのか。
ドラゴンが飛ぶことをやめて地上へ落下していった。
落下直後に一発追撃してやろうと豪炎を放った直後、
「もうやめてくださいお願いします」
「なっ……⁉」
突然ドラゴンから言葉が聞こえてきた。
ドガァァン!!!
「あ……すまん」
追撃した一つが当たってしまい、これが最後の爆発となった。
地上に足をつき、ドラゴンの傍までやってくる。
「す、すまん……大丈夫か?」
「大丈夫です……」
地上に衝突する手前で俺の追撃した豪炎があたったことで加速させてしまい、とんでもない速度で地面に衝突した。
「調子乗ってすみませんでした二度と攻撃しないのでどうか許してもらえると嬉しいです」
どうやら反省しているみたいだが、どこか図々しさが見える。
「そんなこと言って、どうせまた俺を殺そうとするんじゃないのか?人間っぽいからって簡単に殺せると思っているんだろう、お前たちドラゴンは」
竜族にしか従わないドラゴンは下等種族を心底なめている。
「そ、そんなことありません……ょ」
「ダメだな。面倒くさいことになる前に火種は消しておくに越したことはないし、お前は殺す」
「ちょっ……!ちょちょちょっと待ってください!どうか命だけは助けてください。なんでも、本当になんでもしますから!」
人でもドラゴンでもこういうタイプはいるだな……
「信用ならない。悪いな……できる限り楽に消滅させてやるからさ」
「やだやだやだぁ!消滅なんてしたくないです……。グスッ……もういっそのこと奴隷でも何でもいいので消滅だけはやめてください……。なんでもしますからぁ…………」
ドラゴンが号泣し命乞いをしている光景は俺も初めて見た。
「あっ……おい!何勝手に主従関係結んでんだよ!!」
手の甲を見れば、特殊な紋様が刻まれている。
これは特定の人物と主従関係になった証として当人同士に刻まれるものだ。
従う側の当人は自由に奴隷になることを選べるのだが、そんなことを望む者など本来いるはずもない。
そして、この関係は一度作ってしまうと二度と取り消すことができないという。どれだけ力技で崩そうとも、そもそも形として存在していないため不可能だ。
「うっ…………これからよろしくお願いします、ご主人さま」
「ご主人さまって呼ぶんじゃねーよ!」