八月十四日 午前十時三十分 (2)
二時間後、二人は厳原港に降り立った。有紀はたっぷりとパームの練習をしたせい
で、赤くなった掌をさすっていた。
「遠藤さんに水野さんですね?」
二人が並んで立っていると、一人の男に声をかけられた。
「オーナーに頼まれて迎えに来ました。夫婦で別荘の管理人をしています」
声をかけてきた男は古川正行と名乗った。彼に案内されてターミナルを抜け、
駐車場に向かった。観光シーズンということで、ターミナルの中は家族連れで賑わっ
ていた。びっしりと並ぶ車の間を抜け、彼はシルバーのSUVの前で立ち止まると、
テールゲイトを開けて荷物を詰め込んだ。
「どうして僕らだとわかったんですか?」
後部座席に乗り込みながら圭が尋ねると、ジーンズのポケットから写真を取り出して
見せた。一枚の写真が真ん中で二つに切られていた。ややシワのよった写真には、
有紀の姿が写っていた。
「仲が良さそうに歩いていれば、あなたが水野さんだろうという予想はつきます。お
二人は同じ便で着くと聞いていましたからね」
健康的に日焼けした顔がクシャっと笑った。
古川正行は車を発進させた。車は海岸を離れ、島の内部へと入っていく。その様子
を見て有紀が尋ねた。
「どこへ向かうんですか?てっきり島までは船で移動するのかと思っていたん
ですが」
「初めはその予定だったんですけどね、かなり波が高いのでボートは無理なんです。
このまま空港に向かいます」
「空港?無人島に滑走路を敷いたんですか?」
「いえ、さすがに滑走路はありませんよ。空港からはヘリコプターを使います」
まさかと笑い、古川正行が驚いた様子の有紀に答えた。ヘリコプターと聞いて圭が
顔をしかめた。
「相当揺れますか?」
「ええ、私は午前中にヘリで着いたんですが、それはもう」
古川正行はそう言って苦笑いを浮かべた。
「でもまあ、転覆しないだけボートよりはマシですよ」
有紀が不安そうに圭を見つめた。