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八月十六日 午前八時三十五分

 予想外の事態が起こったのは、翌々日のことだった。


 中島健太の遺体を前にして、少しずつ歯車がズレ始めたのを感じた。


 柏木達也と部屋を検め始めて間もなく、圭はこの部屋に中島健太以外の


第三者の痕跡があることに気が付いた。


 どの選択がベストだ?


 選択肢は二つしかなかった。一つはこのまま傍観し、中島健太の死に


ついては警察にまかせること。もう一つは自らが犯人を探し出すこと。


 しかし少し調べれば、この部屋に第三者の痕跡が残っていることくらい、


警察もすぐに掴むに違いなかった。そうなった場合、単に自殺として処理


されるはずだった勇太の死に、再び関心が集まってしまう可能性がある。


 「水野さん聞いてます?」


 柏木達也の質問は聞こえていなかった。圭の頭脳はそれぞれの選択肢を


選んだ場合、そのシミュレートにフル回転していた。


 古川夫妻が食事を用意してくれるまで、少し時間が空いた。圭は薄暗い


娯楽室で、壁を叩きつけた。


 「くそっ。なんでこんなことに」


 室内に思ったより大きな音が響いた。それを聞きつけて、心配そうな


顔をした有紀が入ってきた。


 「どうしてこんなことになってしまったんでしょうか」


 圭が大きなため息をついた。


 「わかりません。ともかく用心しないと」


 こめかみをぐりぐりマッサージしながら圭が呟いた。食事ができたらしく、


食堂から古川正行の呼ぶ声が聞こえた。


 この晩、圭は有紀の部屋を訪れた。


 「中島健太のことですが、恐らく自殺ではありません」


 二人は並んでベッドに腰掛けていた。


 「彼が薬を打ったとき、他の誰かが部屋にいた形跡があります」


 有紀が不安そうな顔を上げた。


 「どうしましょう。一昨日のことまでバレてしまったら」


 「正直に言って、状況は良くありません」


 有紀がうなだれる。


 「事故にしろ殺人にしろ、自殺に見せかけている点が特にまずい。


犯人が気づいているとは思えませんが、僕らと同じことをしたわけです。


しかもかなりお粗末に。警察もすぐに自殺ではないと気づくでしょう。


そうなれば、もう一件も同じ視点で捜査するかもしれない」


 安心させるように、有紀の手を握る。


 「そこで計画を少し変更します」


 「変更?」


 「僕は犯人を特定します。言い逃れできない状況にして、警察に引き渡す。


当然中島勇太は殺害していないのですから、その点は認めないでしょう。


ですが、そうすることで余計な疑いをかけられずに済むかもしれません」


 有紀は顔を上げ、圭を見上げた。


 「本当に?そんなことが可能なのですか?」


 「大丈夫」


 圭が微笑みかける。


 「既に容疑者は絞ってあります。台風が去るまで時間もある。大丈夫ですよ」


 この時点で圭は容疑者を二人に絞っていた。工藤信也と柏木達也の二人である。


過剰摂取という死因からは、中島健太の薬物常習を知っていた者の犯行が


疑われた。このときはまだ柏木達也の薬物常習がわかっていなかったので、


この点から工藤信也が浮かんだ。そしてもうひとつ。前の晩に工藤信也が言った


言葉から、柏木達也が中島兄弟と、そして工藤信也と親しかった可能性を疑っていた。

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