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八月十八日 午前十一時二十分 (6)

 「拾え」


 柏木達也が有紀に命令した。有紀が鍵を拾うためにしゃがむ。喉元に


ナイフを突きつけたままの柏木達也も、自然としゃがむ。


 圭はこの瞬間を待っていた。あっという間に距離を詰めると、ナイフを


握る手を左手で掴んだ。そのまま右ストレートを柏木達也の顔面に叩き込む。


 浅い。


 踏ん張っていた左足が、砂にずぶずぶと沈み、ストレートの威力を半減


させた。ナイフが落ち、砂浜に刺さる。有紀は柏木達也の手を振り解き、


走って逃げた。バランスを崩した圭が膝をついた。その間に柏木達也は


鍵を掴み、バイクに向かって走った。


 立ち上がった圭の左手からは、鮮血が滴っていた。その手にハンカチを


巻きながら、柏木達也の背中に向かって叫ぶ。


 「柏木達也!その鍵ではボートのエンジンはかけられないぞ!」


 それを聞いて、柏木達也が振り返った。視線の先で、圭が一本の鍵を


摘んでいた。


 「寄こせ!」


 柏木達也が引き返し、圭に飛び掛った。


 「ぐうっ」


 鈍い音を立て、圭の左拳が柏木達也の腹部に沈んだ。腹を押え、


柏木達也が体を屈めた。その拍子に顎が前に突き出される。その顎めがけ


て、右フックが繰り出された。圭の右拳が顎の先端を正確に捉え、


柏木達也は砂浜に倒れ込んだ。


 「すみません。私のせいで」


 圭が笑顔で首を振る。


 「遠藤さんのせいじゃありませんよ」


 柏木達也を後ろ手に縛る手伝いをしながら、古川正行がこぼした。


 「まさか鍵を入れ替えてあるなんて。いったい何手先まで読んで、


策を巡らせているんです?」


 圭はしれっと答えた。


 「いや、彼が持っていたのは、本物のボートの鍵ですよ。僕が持って


いた方が遠藤さんの部屋の鍵です」


 古川正行が有紀と顔を見合わせた。


 「一度、彼は鍵のすり替えトリックに引っかかってますからね、今回も


やられたと思ったんでしょう」


 圭がくすくすと笑った。


 圭と有紀はホテルの部屋で、ツインのベッドに腰掛けていた。圭の


左手には包帯が巻かれている。


 砂浜でのもみ合いから三十分後、県警のヘリが到着し、十人近い捜査員が


島に降りた。左手を切っていた圭は病院に直行したが、その傷は浅く、


縫い合わせる必要もなかった。翌日、警察で事情を聞かれることになり、


全員が博多に残ることになった。


 「一時はどうなることかと思いました」


 圭が大きなため息をついた。


 「でも、本当に大丈夫でしょうか」


 有紀が不安そうにこぼした。


 「大丈夫、僕が請けあいます。あなたが勇太さんを刺してしまったことは


バレません」

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