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八月十八日 午前十一時二十分 (1)
「水野さん!」
心配した松田玲子が駆け寄る。それを圭自身が制した。すっくと
立ち上がると、笑みを浮かべた。
「言ったでしょう?これはショーです。ショーで人は死にません。
事故以外ではね」
圭が松田玲子にウインクした。
「でも確かに、薬を飲んだように見えたのに」
不思議がる松田玲子に、圭が左の掌を見せた。そこにはピッタリと
錠剤が収まっていた。
「一番初めに見せたコインマジックの要領です。パーム、と言って開いた
掌にコインを固定する技術ですよ」
圭はどこからか一枚のシーツを取り出し、自分の首から下を隠すように
広げた。その顔には相変わらず笑みが浮かんでいる。
「実はあるんです、証拠」
柏木達也の眉間にシワが寄る。
「お見せしましょう」
そう言うとシーツをパンと鳴らした。
「ワン、ツー、スリー!」
サッとシーツをよけると、そこに一人の女性が立っていた。その姿を見て
柏木達也が短い悲鳴を上げる。そこに立っていたのは紛れもなく有紀であった。