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八月十五日 午後五時 (3)

 食事を済ませたあと、圭は柏木達也の部屋を訪れた。柏木達也はどこかから


椅子を運び入れていた。二人は机を挟んで座った。


 「それでは朝からの行動を教えてもらえますか?」


 体の前で手を組み合わせたまま、圭が話し始めた。


 「今朝は遠藤さんと一緒に朝食を食べました。確か九時過ぎだったと思います。


古川さんの話では、あなたを除けば僕らが最後だったはずです。それから二人で


娯楽室に行き、ビリヤードをしました。昼食を食べるまでは、遠藤さんと一緒に


いました。午後は二時過ぎまで部屋で一人本を読んでいました。残念ながら証明


できる人はいません。それからバイクで海岸に行きました。戻ってきたのは


二時間ほど経ってからです」


 「海岸へ行った?あの天気の中ですか?」


 柏木達也が怪訝そうな表情を浮かべた。


 「三人で立ち寄ったすぐそこの砂浜です。柏木さんは眠っていたから知らないか


もしれませんが、昨日あそこで遊んだときに、遠藤さんが指輪を落としてしまっ


たんです。ざっと探したんですが見つからなくて。遠藤さんは安物だから放って


おいていいと言うんですが、どうにも気になってもう一度探しに行きました。


なんだったら遠藤さんにも確認してみてください」


 「それでその指輪は見つかったんですか?」


 圭は首を横に振った。


 「だめでした。波もかなり押し寄せていましたから、流されたか、埋もれてし


まったのかもしれません」


 柏木達也は会話の内容を逐一メモした。


 「結局指輪が見つからず、別荘に戻るとロビーで古川さんたちと出くわしました。


聞けば勇太さんを探しにいくと言います。外は本当に酷い天気でしたから、手伝う


ことを申し出ました。バイクのガソリンが減ってきていたので、四人でガソリンを


足し、古川さんと二人で探しに出ました」


 「遺体発見時はどんな様子だったんですか?」


 「道路が二手に分かれるところで、古川さんとは別れました。僕が南、古川さん


が北です。もし見つからなければ、島をぐるりと回り、また同じところで合流する


予定でした。バイクを南に少し走らせると、路肩にトラックが停車しているのが


見えました。うーん、たぶん十五分か、二十分くらいは走ったと思います。


なにしろ路面状況が悪くて、スピードは出せなかったし。場所はあなたも知って


いる通りです。近寄ると運転席に人影が見えたので、中を覗き込みました。胸に


ナイフを突きたてた勇太さんが見えたので、助手席の窓を割り、ドアを開けました。


それからすぐに古川さんに電話をして、別荘にあなたを迎えに行ってくれるよう


頼みました。そして遠藤さんにあなたを起こしてくれるよう電話しました」


 話を聞き、柏木達也は満足げに頷いた。


 「なにか他に気づいたことはありませんでしたか?」


 少し考え込んでから、圭が答えた。


 「初めにドアを開けたとき、僅かにアルコールの匂いがしたような気がするん


ですが、車内にアルコールはありましたか?」


 「いや、なかったと思いますが」


 柏木達也はメモを繰り、撮った写真を確認した。


 「だったら僕の勘違いかもしれませんね。鼻水も出ていましたし」


 他にはないと言うと、柏木達也は古川正行にここへ来るよう言って欲しいと


頼んだ。立ち上がり、ドアに手をかけた圭が思い出したように振り返った。


 「そういえば、皆さんに聞いてもらいたいことがあるんです。この島に僕ら以外の


誰かがいる形跡を見なかったか、って」


 柏木達也は質問の意図がわからない、という顔をしていたが、それでも全員に


聞くことを約束した。


 全員の話を聞き終えた頃には、時計の針は十時を回っていた。柏木達也が食堂に


入ってきて、疲れた様子で圭の隣に腰を下ろした。


 「なにかわかりましたか?」


 有紀の質問に、柏木達也は力なく首を振った。古川正行にスコッチを頼んだ。


 「そもそも死亡推定時刻がはっきりしない以上、アリバイもなにもありません。


のちのち死亡推定時刻がはっきりしてからの判断になります」


 そう言って運ばれてきたグラスに口をつけた。


 「実際問題、それも難しいでしょうね。解剖が数日遅れるとなれば、正確な推定は


まず困難です」


 まったく圭の指摘どおりだ、というように酒をあおった。


 「弟さんは認めたくないようですけど、状況から考えれば自殺の方が自然でしょう」


 そう言うと再びグラスに口をつけた。


 「そういえば、水野さんに頼まれてた質問ですが、誰もそんな形跡は見ていない


そうです。この島にいるのは私らだけなんじゃないですかね」


 「そうですか」


 圭が頷いた。


 「もしかして水野さん、あの船のこと考えてます?」


 柏木達也がようやく気が付いたらしかった。


 「あの船で誰かが入ってきている可能性も考えていたんですが、誰もなにも見てい


ないとなると、その可能性は低いのかもしれません」


 何しろ小さな島である。島に十三人も人がいて、その誰にも気づかれずに、何日も


潜伏するのは難しい。サーフィンだ、釣りだと島の中を精力的に動き回っていれば


なおさらだ。ツーリングの間、圭自身も注意深く観察していたが、それらしい形跡は


なにも見かけなかった。


 「ま、自殺で決まりでしょう。今日はいろいろあって疲れました。私は先に失


礼します」


 スコッチの残りを流し込み、柏木達也が部屋へと戻って行った。

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