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八月十五日 午後五時 (2)

 「もちろん構わないんですが、遺体はまだ車庫に置いたままですか?」


 「はあ、そうですが。先ほど県警に連絡したのですが、この天気ではヘリも飛べま


せんから、風がおさまるまではこちらで保管することになりました」


 「だったら車庫に置いたままにはしない方がいい。腐敗が進んでしまいます」


 圭が給仕用の盆を持ったまま立っていた古川正行に聞いた。


 「古川さん、これだけの人数分食料を保管しているなら、冷蔵庫は相当大きいん


でしょう?」


 「ええ、冷蔵庫は四畳ほどの広さがありますが」


 冷蔵庫の中に遺体を預かって欲しい、という提案に対して、もっとも早く反応した


のは工藤奈緒子だった。


 「冗談じゃありません!私たちはまだ数日ここで食事をしなくてはならないんです。


死体と一緒に冷蔵庫に入っていたものを食べるなんて!」


 これについては圭を除く全員が同じ意見のようだった。有紀ですら複雑な表情を


浮かべていた。それでも圭は説得を試みたが、奈緒子は頑として聞き入れなかった。


 「仕方がありませんね。では遺体は私の部屋に運びましょう」


 諦めたように圭が言った。


 「冷蔵庫には劣りますが、クーラーを全開にすればいくらか役に立つでしょう」


 「けれどもう空き部屋はありませんよ。水野さんはどうするんです?」


 心配そうにしている古川正行に、圭が笑顔で答えた。


 「大丈夫。僕はロビーのソファででも寝ますから」


 遺体の運搬を優先し、事情聴取は食事のあと行われることになった。圭の荷物


は有紀の部屋に預かってもらうことになり、遺体を運び込む前に部屋を片付けなく


てはならなかったのだ。階段の途中で柏木達也が追いついた。


 「いろいろ助言や手伝いをしてもらってすみませんね」


 頭をぽりぽりと掻きながら柏木達也が言った。


 さして広げていない荷物はあっという間に片付いた。クーラーを最強にすると、


柏木達也にシーツを持たせて部屋を出た。


 外は相変わらず雨が酷く、外に出れば運ぶ二人も遺体もぐしょ濡れになってしま


う。それでなくてもいろいろと動かしてしまっているのだ。証拠保全の点からも、


遺体を雨に濡らすのは避けたい、と柏木達也が主張した。そこで遺体を運ぶ間、


全員に自室か娯楽室へ移ってもらった。厨房からガレージに降り、圭の部屋へと


遺体を運ぶには、どうしても食堂を通らなくてはならない。いくらシーツで包んで


いるとはいえ、遺体を持って目の前を通過することは望まないだろう、という


配慮からだった。


 有紀を娯楽室に残し、圭は柏木達也と車庫を訪れた。助手席から遺体を下ろすと、


シーツに包んで部屋に運んだ。二人がかりとはいえ、遺体を動かすのは、かなり


の重労働だった。三十分ほどかかって、やっと遺体は床の上に横たえられた。


先ほどシャワーを浴びたばかりだというのに、二人はすっかり汗だくになってい


た。部屋には柏木達也がしっかりと鍵を掛けた。


 二人が娯楽室を訪れると、全員が何をするでもなく、ただバラバラに座っていた。


 「済みましたよ。食事にしましょうか」


 圭に促され、皆ぞろぞろ食堂へと出て行った。圭が最後尾で電気を消し、娯楽


室を出ると有紀が隣に並んだ。有紀は何も言わず、ただ黙って隣を歩いた。


 重苦しい空気の中、食事が運ばれてきた。この日のメニューは魚料理。午前中


に信太郎が釣ってきた魚が調理された。食後に事情聴取を控えているため、アル


コールは出されなかった。

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