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せんぱい、取引のお時間です  作者: シーダサマー
第一章 合理主義は誤魔化せない
9/107

第8話

 *


 華の金曜日。世間一般ではそう言われているけれど、大学生からしてみれば当然のように実感はない。

 毎日のように酒を飲み、飯を食らい、惰眠をむさぼることこそが大学生の特権であると信じている人間にとってみれば、その価値を感じることは難しい。

 人生という長い路の中で、唯一大きなしがらみなく自由を謳歌できる華の時間。

 きっとそのありがたみを知ることこそが大人へのイニシエーションなのだろう。


 美優ちゃんに半ば強制的に視聴させられたドラマをみて、ふとそんなことを考えた。

 30代に差し掛かろうかという社会人が主人公の、どこかで見たようなありきたりなヒューマンドラマだ。前の話との繋がりも知らないので、正直細かい内容はあまり頭に入ってこなかったのだけれど、くたびれた主人公が仕事に忙殺され、唯一心休める金曜日の夜に缶ビールを嚥下するその姿に、ただ漠然と人生への不安を覚えてしまった。

 美優ちゃんに付き合わされた酒のせいでとんだセンチメンタルになったものである。


 ちなみに美優ちゃんは主演の男目当てで観ていたらしい。酸いも甘いも知り尽くしたイケおじの一歩手前、色々な辛さを経験して少しずつ大人の顔つきになってくる年頃がストライクなのだそうだ。

 彼女に言わせれば若さだけを武器にしたキラキラ系男子はジャリガキ臭くて耳がキーンとなるらしい。ホントに今を時めく大学生か?


 しかし、実際のところ3年の後半になれば就活が始まるし、4年には卒論も控えている。自由な時間は思っているよりもずっと少ないのだろう。

 自分はこのままでいいのだろうか。

 もっと楽しまなければすぐにこのゴールデンアワーは終わってしまうのではないか。

 そんな青春の熱にうかされる。時間が有限であるからこその仄かな焦りと甘美な誘惑にはなかなか抗いづらい。

 それでも、一過性の熱さだとわかっていても、たまには溺れてみよう。そんなことを思った。

 俺だって大学生なのだ。たまにはバカになってもいい。


 とまあ長ったらしく前置きしたわけであるが、結論からいえば我が家で宅飲みを開催することにした。

 大学生と言えば宅飲みだよな! てなわけで、先日宅飲みの伏線を張っていた結月さんを中心に招集をかける。


「アハハ、愛澤くんがホントに企画してくれると思わなかったな~。愛澤くんは割と強引に誘われる方がいいのかな?」

「今はちょうどキャンペーン開催中なんだ」

「じゃあログインボーナスもらいに愛澤くんち行こーっと」


 と快諾。

 結月さんのほかは男の先輩一人に、同期の平塚と佐藤さん、そして上郡さんという陣容で固めた。

 上郡さんについては、普段あまり飲まないメンバーとも交流を深めたいと思い立ち、土砂降りの日に借りたハンドタオルを返しに行った際に思い切って誘ったところ、「ありがとうございます。ご相伴に預からせていただきます」と了解の言葉。

 誘われたことをどう思っているのか、いつも通り表情からは本音は窺い知れなかったが、まあ大丈夫だろう。


 そしてこの宅飲み計画には別の目的がある。

 同期の二人――平塚と佐藤さんをくっつけるというアオハル計画である。


 平塚は、文芸部に所属する二年生だ。同じ経済学部生ということもあり、同期の男の中でそれなりに仲の良い方だと自認している。友口のようにスカした感じはなく、常に真摯で実直なタイプだ。かといって真面目すぎてコミュニケーションできないということもなく、個人的に好感度は高い。

 そんな彼は大学一年の頃から、同期の佐藤さんに想いを寄せていた。佐藤さんは明るく闊達な性格で、結月さんと同じく男女にあまり分け隔てなく接するタイプだ。どちらかというと男勝りな一面もあり、男女の友情が成立するかを議論するとしたら恐らく真っ先に検討対象に上がることだろう。

 平塚曰く、友だちだと思っていたのがいつの間にか好きになっていたらしい。期せずして、男女の友情が否定された形となる。


「いつも悪いな、そろそろビシッと決めて見せるから」

「気にするなよ。俺がお前と飲みたいから誘ってるんだ」


 俺が宅飲みに誘うと、申し訳なさそうに平塚が呟いた。

 一年の後半くらいに平塚から恋の相談をされた俺は、さりげなく平塚と佐藤さんを同じ宅飲みに呼ぶなど、偶然を装って二人を引き合わせている。もともと平塚とはよく喋る仲だったし、佐藤さんについても去年の文化祭で文芸部の出し物のリーダーを俺と二人で務めて以来、そこそこ打ち解けた関係になっている。俺が宅飲みに誘っても不思議はない。


 思えばこのプロジェクトをスタートさせてから半年近く経つ。

 閉じられたコミュニティの中での恋愛は非常に難しい。

 付き合えれば最終的には問題ないが、見切り発車で飛び込んで振られた場合にはコミュニティに亀裂が走る可能性だってある。平塚もそれがわかっているからこそゆっくりと事を進めているのだろう。俺としても当然ながら、キューピッドしていることが誰かに知られないよう、慎重を期している。

 平塚曰く、まだ手ごたえらしい手ごたえはないそうだが、傍から見れば結構仲は深まっているように思える。ふとした瞬間に二人で笑いあっていることもしばしば。無責任なことは言いたくないのでこれは平塚に直接伝えてはいないけれど、佐藤さんとしても少なからず意識してるのではと感じる。それが恋愛感情かどうかまではわからないが。

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