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せんぱい、取引のお時間です  作者: シーダサマー
第四章 合理主義には敵わない
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第83話

「ふうん、まあ、上郡がどんなことを考えてたかはよくわかったよ。わかった上でいくつか言わせてくれ」


 俺は一呼吸挟み、上郡の目をまっすぐ見据えながら続ける。


「まず第一にだ、()()()()()は二度とやらないでほしい。誰にだって探られたくない腹の一つや二つはあるだろ。そこを強引につついて無理やり暴くなんてやり方は、何があっても俺はやりたくないし、認めたくない。それに……ああいうのは言葉にする方だって傷ついてるはずなんだ。どんな目的だろうと――たとえそれが俺のためであろうと、言われた方も、言った方も傷つくようなやり方は絶対に看過できない」


 それによって望んだ結果を得られようとも、俺はそのやり方を肯定することは出来ない。

 それを認めてしまえば、きっと俺の二十年間を否定することになってしまうから。


「それに、俺のためにとった行動でお前の評価が下がるのはなんか嫌だ。まあ、お前は確かに口は悪いし、なかなかに良い性格をしてるとは思うけど、でも決して悪い人間なんかじゃあない。こんなことで自分の価値を下げるのなんてもったいないだろ」

「わたしの……価値」


 上郡は噛み締めるようにして、俺の言葉を小さく反芻する。


「……はい、すみません。おっしゃる通り、わたしも焦りすぎていたかもしれません。もっといいやり方はあったと思います」


 何か言い返してくるかもと構えていたが、しかし予想に反して上郡はシュンとした様子で頷くばかりであった。

 ……うーん。なんだかなあ。

 自分から説教をかましといてなんだけど、こうも素直な反応を見せられると調子が狂う。


「まあ、お前の思惑に乗せられるってわけじゃないけど、今回のことは俺にも責任の一端はあるし、結月さんの方にはあとで顔を出しておくよ。フォローが必要な状況かはわからないけど、とりあえず話はしてみるからさ。お前も、今日中に結月さんに謝っておけよ」

「はい、わかりました」

「つーかよ、俺は女性恐怖症をなんとかしたいってのが一番の目的なんであって、別に今すぐに彼女が欲しいとか、そういうことを言ってるわけじゃないからな? 今回のことも俺のためにやってくれたってのはわかるし、いつも感謝はしてるけどさ、ちょっと性急すぎるっていうか、もう少し落ち着いていこうぜ」

「はあ……」


 俺なりに気を遣ってトーンダウンを提案したわけだが、今度もまた予想に反して納得しかねるといった様子で首を傾げる上郡。


 いや、なんでこっちには微妙そうな反応なんだよ。

 お前が反抗的になるポイントがわからねえよ。


「……それと、次から何かアクション起こす時には、できれば先に俺に相談してくれ。じゃないと止められないだろ。俺たちは取引のパートナーなわけだし、それくらいの融通は利いてもいいんじゃねえの?」

「……善処します」


 なんだか善処する気がなさそうな回答だった。

 一刀両断という感じに断られないだけ、こいつなりに反省の色を見せているのかもしれない。


「とりあえず教えてくれよ。お前、今日のレクで一体何を企んでるんだ?」

「秘密です」


 ……やっぱり、そんなに反省してないのかなあ。



「うん、今回は愛澤くんの力も借りずになんとかいけそうだよ~。ありがとね」


 お昼を過ぎたころ、気分転換にぷらぷらと歩いていた俺は、偶然にも大広間近くのソファーで執筆作業を行う結月さんを見つける。

 初日の夜、俺と上郡が二人で会話をしたあのソファーだ。

 午前中から結月さんの姿が見当たらないと思っていたがこんな人気(ひとけ)のないところで作業をしていたとは。


 そんなわけで、何気なく、さりげなく「大丈夫か?」と声をかけてみたのだが、返ってきたのはいつも通りの笑顔であった。


 直接的に訊くのが憚られた俺としてはあわよくば昨日のことを引き出せないかとニュアンスを含んでいたつもりではあったが、なかなかどうして言外の意図は届かないようだった。


「私、ホラーとかサスペンスものって普段から割と読んだり観たりしてるから、どっちかっていうと得意ジャンルなのかも」

「へえ、意外だな。結月さんは、というか女子ってあんまりそういうジャンル得意じゃないイメージなんだけど」

「あはっ、結月さんは意外とそういうのに耐性あるのです」


 Tシャツにジャージの長ズボンというラフな格好をした結月さんはモニターから目線を外し、窓の外を見つめる。


「なんかね、SFとかファンタジーって、あんまり頭にスッて入ってこないんだよねえ。どれだけ熱い展開だったり、泣ける展開だったりしても、ああ、魔法も超能力も宇宙人も妖怪も現実にはいないのになあって心のどこかで考えちゃって、どうしても感情移入できなくなっちゃうんだ」

「それはまた随分と著者泣かせだな」


 世の中の大半の小説家が、いかにリアリティを発揮していくかで悩んでいることだろう。どれだけ凝った設定を練ったとしても、読者からの共感を得られないストーリーでは読み手がつかない。

 特にフィクション要素がどうしても強くなるSFやファンタジーのジャンルでは、如何にフィクションとリアルのメリハリを利かせるかがとても重要な鍵になるわけだが、それ以前に避けては通れない大前提の部分を否定されてしまってはリカバリーのしようもない。

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