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せんぱい、取引のお時間です  作者: シーダサマー
第四章 合理主義には敵わない
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第79話

 二次会として男子部屋にやってきたのは結月さん、佐藤さん、平塚、そして上郡という()()()()であった。

 しかし平塚は部屋に到着するなり、一口も酒を口にすることなく布団に倒れこむ。どうやら限界だったらしい。


「おめでとう、愛澤。お望み通りハーレムの完成だね」

「なんだよお望み通りって」

「えっ? 平塚が潰れて男が自分一人になることがわかってて私たちを呼んだんじゃないの?」

「そんな器用なことができる男に見えるのかい?」


 そもそもいつも通りのメンバー過ぎて女子ばかりなことに全く気付かなかったくらいだ。

 俺の女性不信(トラウマ)もいい具合に快方に向かっているのかもしれない。


「まあ確かに愛澤がスマートな男だったらもっと上手いこと言ってマオぽんの水着くらいさらっと脱がせるよねえ」


 マオぽんというのは上郡のあだ名である。

 佐藤さんしか呼んでいない。

 

「もはやその弄りにも慣れつつあるし今さら弁明するつもりもないけど、せめて自己弁護させてもらうなら俺が脱がせようとしたのは水着じゃなくてTシャツだ」

「脱がせようとしたのは認めるんだね」

「俺が認めることで救われる命があるのであれば、俺はいくらでも罪を被るよ」

「大層かっこいいセリフだけど罪の中身が凄くかっこ悪いよ、愛澤くん」


 うるせえ。


 ちなみに、当の上郡は素知らぬ顔でぐびぐびとレモンサワーの缶を傾けている。俺が目線を向けても可愛らしく小首を傾げるのみである。


「上郡さんも大変だったね~」

「いえ、大したことはないですよ。これくらいは日常茶飯事ですので」

「それもしかして俺のこと言ってる? いや流石に違うよね? 俺なわけないもんね?」


 こいつは今日一日を通して、俺がこのネタで弄られている如何なる時も涼しい顔でノーコメントを貫いていた。

 別に庇ってほしいとまでは言わないけれど、素知らぬ顔をされるとなんだかガチ感が高まってしまうので、出来得るならば一緒になって弄るくらいのことをしてほしいところなんだけどな……。

 彼女の性格を考えればそこまでは望むべくもないことではあるんだけれど。

 やってもいない罪まで被せてくるのは流石に勘弁願いたいが。


「しかし、愛澤はあれだけ飲んだのに意外と元気だね~」

「先月派手にぶっ潰れたばかりだからな。俺は二の轍は踏まねえ。学習できる男なのだよ愛澤は」

「ありゃ、飲ませ足りなかったかな」

「どこかの先輩は毎日のように酔いつぶれてるけどねえ」


 結月さんは俺の布団で気持ちよさそうに眠る相楽さんを見やる。

 そういえば昨日も廊下で寝潰れてるのを見たなあ。

 この人こそマジで危機感持った方がいいよ。



 そんな感じで雑談を繰り広げつつ、俺たちはトランプゲームに興じることにした。

 イカサマで俺に雑魚カードを集めることのない、健全なトランプである。

 皆、あくびを噛み殺しながらも席を立とうとはしなかった(厳密には床に座っているのだから席ではないのだけれど)。

 最後の夜となる明日はBBQとレクリエーションを予定している。基本的にはこうして部屋飲みすることもないだろう。まあ一部の人間はその限りではないかもしれないが。

 だからこそ、少しだけ、この時間が惜しいと感じているのかもしれない。


「ねえ、みーちゃん」

「なあに?」


 佐藤さんがみーちゃん、つまりは結月さんの手札からカードを引き抜き、クイーンのカード二枚を場に捨てた場面であった。

 ババ抜きである。

 佐藤さんの手札は残り三枚。次いで結月さんと上郡の手札が残り五枚という状況であった。

 そして俺だけ十枚。

 ……イカサマしてないよね?


「一個聞いてもいい?」

「どうしたの?」

「勘違いだったら申し訳ないんだけどさあ――愛澤と何かあった?」


 結月さんは上郡の手札からカードを引き抜こうとしたところで動きを止める。

 それは動揺してのものではない。

 あくまで、その真意を訊ねるべく佐藤さんに向き直るための所作。


「どしたの急に。何かってなによ」

「……上手くは言えないんだけど、なんだか愛澤に対する態度がおかしい気がする」


 鋭い発言だと感じた。

 きっと結月さんと誰よりも親しくて。

 俺のことを好意的に想ってくれていた佐藤さんだからこその気づきなのだろう。


 しかし、そこはさすが結月さん。微笑、というか苦笑を崩さない。


「え~、そんなことないよ~? どうしてそう思うのよ」

「ちょっとよそよそしい感じがするもん」

「う~ん、そういう風に言われる理由に心当たりはないけどなあ。()()()()()()、私と愛澤くんの間には何もないよ」

「……そうかな」

「あはっ、サトちゃんって時々不思議ちゃんになるよねえ」


 そう言って上手く佐藤さんを丸め込み、和やかに笑う結月さん。

 けれど、俺には佐藤さんの感じた違和感の正体がわかっていた。


 昨日から今日にいたるまで結月さんと俺はいくつか会話を交わしていたけれど。

 結月さんは一度として、俺と目を合わせることはなかったのだから。

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