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せんぱい、取引のお時間です  作者: シーダサマー
第三章 現実主義は靡かない
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第58話

 お次はペンギンゾーンだ。

 岩場からペンギンが水中に飛び込むと、ギャラリーからは小さく歓声が湧き上がる。


「こうして近くで見るとペンギンって結構大きく感じるね」

「この水族館にいるペンギンは大体70センチくらいだけど、デカイ種類だと100センチくらいはあるからな。ほら、よく言うコウテイペンギンってやつ。昔は170センチくらいのペンギンもいたらしいけど」

「私より身長高い!」


 そのくせ水中だと陸上世界選手並みのスピードで泳ぐペンギンもいるのだから意外と奥が深い動物である。

 そもそも鳥類にもかかわらず飛べない時点で相当奥深い。


 ペンギンを見ながらほんわかしていると、ちょうどエサやりタイムがスタートする。

 オーバーオールを着用した飼育員の方々がバケツを持って登場すると、ペンギンたちがその足元に群がっていく。

 その中にはヒナも混じっており、まだ毛が生え変わりきっていない灰色のモコモコがヒョコヒョコと岩場を跳ねていった。


「……私、結構ペンギン好きかも」


 ガラスの向こう側を眺めながら、結月さんがぼそりと呟く。

 ふと、悪戯心が湧き上がる。


「結月さん、あのアクビしてるペンギンの口の中、みてみ」

「えっ? ……わっ、なにあれ、剣山みたいになってる!」


 ペンギンには歯がない。

 代わりにというわけではないが、鋭くとがった棘が無数に生えている。丸飲みした魚が逃げないための仕組みらしい。

 表現としては、映画に出てくるエイリアンの口内に近い。確かに一度口の中に捉えられたら逃げられないであろうことは想像に難くない。

 見た目も仕草も可愛らしいペンギンの唯一野性味を感じる部分かもしれない。


「なんか、逆に可愛いね」

「えっ」


 想定外の答えに俺は思わずギョッとして結月さんの顔を見ると、彼女はくすくす笑いながら視線を返してくる。


「なんちゃって。愛澤くん、私にイジワルしようとしたでしょ」

「……バレましたか」

「まるっとお見通しです」


 俺たちは二人で顔を見合わせてアハハと笑う。

 おお、なんかデートっぽいやりとりだなあ、なんてことを思った。


 結月さんは今一度、ガラスの向こう側に目をやる。

 与えられた魚を一心不乱に飲み込むペンギン、既に十分食べ終えたのか暇そうに水面をぷかぷかと漂うペンギン。

 彼ら彼女らの自由な様子を見ながら、結月さんは小さく口を開く。


「わかってるから」

「……?」

「可愛いだけの生き物なんて、いないんだ」



 館内を大方ぐるりと周回したあたりで、俺たちはイルカショーを見るための会場へ向かった。

 まるで格闘技のスタジアムのように、丸く大きなプールをぐるりと観客席が取り囲む。

 天窓から差し込む光と色とりどりのスポットライトが水面に降り注ぎ、まさしくリングのように鮮やかにライトアップされていた。


 俺たちは水がかかりそうでかからない、中段辺りに腰を下ろす。今日一番、結月さんと接近する形になり、一人でに緊張感が走るが、当の結月さんはワクワクした表情でプールを見つめている。


「小学生以来かも、イルカショー見るの。大人になってからきちんと見る機会もなかったし」

「ん、そっか」

「愛澤くんは三回目なんだよね? 毎回ショーは観に来るの?」

「ん、ん-、そういえば、なんやかんや毎回見てるかも。水族館回ってるとこのくらいの時間には大体歩き疲れる頃だから、座れて休憩にちょうどいいんだよな」

「あはっ、現実的だなあ。気持ちはわかるけど――っていうかさっ」


 結月さんは僅かにこちらへ上体を傾ける。


「水族館って、いつも誰と来てるの!? まさか女の子?」


 鋭い質問だった。

 しかし至極当然の質問であるともいえる。


「……いやあ、家族とか友だちとか、そんなとこだよ。残念ながらいい関係の女の子と()()水族館に来たことはねえな」


 一度目は高校生のときに当時仲が良かったグループと、二度目は昨年、美優ちゃん一家とこの水族館を訪れた。厳密にいえば、高校生のときのグループには女の子も入っていたし、二度目の方は言わずもがな美優ちゃんと一緒だったわけだが、しかしそこまでは回答するつもりはなかった。


「ふうん、ほんとかなあ」

「ほんとだよ、ほんとほんと」

「じゃあ、私とのデートが初めての水族館デートだねっ」

「あっ、うん、はい、そうですね……」


 正確には高校生の頃に彼女一歩手前の女の子と別の水族館に行ったことはあるのだが、それは言うべきではないだろう。

 しかし俺の受け答えが面白くなかったのか、結月さんはなんだか不満げだ。


「なあんか思ってた反応と違うなあ。おざなりというか」

「や、そんなことないんすけど……」


 正確には結月さんが近すぎてロクな回答ができない精神状態なだけなのだが、彼女はそんなことは知る由もない。


「あ、じゃあ代わりに私も一つ教えたげる」


 結月さんはこちらの耳に口元を寄せ、聞こえるか聞こえないかの声音でそっと囁く。

 俺の身体に一層の緊張が走る。


「私も――水族館デートするの、愛澤くんがはじめてだよ」

「……おっふ」


 ……結月さんも人が悪いなあ。

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