第11話
「あれ、ビールもうないじゃん」
「ああ、いくつかうちにストックがあったはず――ってあれ、ない……」
宅飲みも二刻が過ぎたころ、ビール失踪事件が発覚した。
我が家に1ダースはあったはず、ということで今日は6本入りに留めたのだが、どうしてか冷蔵庫にその存在を確認できなかった。
回りくどい言い方はしているが、犯人は自明の理である。無論、俺ではない。
たかだか三日で12本ってどんなペースだよ! ってかいつ飲んだんだよそんなに!
「すんません、俺買ってきます!」
「悪いね〜、ありがと〜」
実は谷中さんも俺もビール党なのである。レモンサワーや甘ったるい酒はどうにも後味が気になって好きになれない。まあどこかの誰かさんのせいで、最近はそれなりに芋焼酎も飲めるようになってきてはいるのだが、俺の確認不足でもあるのでサクッと買ってくることにした。
スマホと財布を持って玄関に向かうと、後ろからトタトタと軽やかな足音を鳴らして佐藤さんがついてくる。
「愛澤がかわいそだから私もついてったげるよ! しょうがないなあ!」
「え、いや良いよ別に。すぐ近くだし」
「いーからいーから!」
半ば押し出される格好で俺と佐藤さんは夜空の下へ躍り出た。
日中の暑さは消え失せていた。半袖で剥き出しの腕を風が優しく撫でる。アルコールで熱された体温を覚ましてくれる感じがした。
「ん~~、気持ちいいね!」
「だな。これくらいの気温が続けば過ごしやすいのにな」
5月ごろにみんなが話しそうなことナンバーワンの会話を繰り広げながら俺たちは近くのコンビニを目指す。金額自体はスーパーの方が多少安価ではあるのだが、往復15分はちょっと遠い。
「あっ、このチョコ好きなんだあ! 買ってこーよ」
「いや酒にチョコってあんま合わないでしょ。しかも佐藤さん飲んでるのレモンサワーじゃん。口すっぱなるよ」
「わかってないなあ。そのコントラストがいいんだって」
「意味わからんし。ビールに合わないからダメ」
「お願い! この通り!」そう言いながらも特に頭を下げるでもなく、ただグイッとチョコを俺に突き出す佐藤さん。いやどの通りだよ。
「ダメ」
「けちんぼ!」
子どものように強請る佐藤さんを抑え込みつつ、手早く目的の品を買い揃えた俺は、ぶーぶー不満を口にする佐藤さんを連れ立ってコンビニを後にする。
なんやかんやで佐藤さんの機嫌は悪くなさそうだ。彼女も楽しんでくれているのであれば嬉しい。
先輩も待っていることだろう。俺は足早に歩きだす。しかし佐藤さんの歩みは遅い。
ふと後ろを見やると、彼女は近くの公園をぼうっと見つめていた。
「懐かしいね、あれから半年か」
「……だね」
あれから、というのは俺たち二人が文芸部のリーダーを務めた昨年の学園祭のことだろう。
文芸部は例年、一年がリーダー、二年がサブリーダーを務めることになっている。出し物は特にこれというものが決まっているわけではなくて、屋台を出店する年もあれば、文芸部らしく過去の文豪の紹介や部誌が閲覧可能な喫茶スペースを提供した年もあるらしい。
リーダーといっても、当然ながら一年生に決定権などなく、大体が三、四年生の意向に従う形となる。
去年の出し物は、とある上級生の猛プッシュにより、毎年開催されるダンス大会への参加となった。
これがまた厄介で、曲目選択からダンスの振り付けまですべてリーダー・サブリーダーで考えなければならなかった。
幸い、佐藤さんが中高ダンス部だったということもあり(というか某先輩はそれを見越してダンスをプッシュしたのだろうが)、ダンスのダの字もこなせない俺は随分と彼女に助けられた。
この公園は、リーダーの二人で振り付けを考えるときに使った公園だった。
近所迷惑にならないよう夜な夜な小さな音源で踊った記憶が想起される。
「今年はなにをやるんだろうね」
「さすがに今年もダンスってことはないだろうな。先輩たちも最後の方はだいぶしんどそうだったし」
佐藤さんの足は自然と公園に伸びていた。
彼女一人を置いていくわけにもいかない俺は、ほんの逡巡ののち、彼女の後を追って公園に足を踏み入れる。




