第1話 目覚め
都内、某所、チェーン展開されている某インターネットカフェにて。
AM9:30:00
「あったまいてぇ」
起き上がりながら狭い個室で頭を抱える。
昨日の飲みは少し調子に乗っていた。そもそも酒に強くないことはわかっているのに、終電を逃すまで飲み続けるとは、俺もなかなか大学生らしくなってきたと思う。
スマホの通知音、昨日飲み明かした友人Aからのメッセージ。
『お前結局どこ泊まったん?笑』
「へぶっっ」
一瞬の灼けるような感覚とともに視界が白くなった。
AM9:30:00
「あったまいてぇ」
起き上がって狭い個室での睡眠によって凝り固まってしまった体をほぐす。
昨日の飲みはかなり調子に乗っていたらしい。二日酔いってこんな感じに頭がフラッシュするものだろうか。
スマホの通知音、昨日飲み明かした友人Aからのメッセージ。
『お前結局どこ泊まったん?笑』
どうにもデジャヴュな光景だ。夢を見ていたのかあるいは気絶するような二度寝だろう。
「アッッッッッッ」
AM9:30:00
「あったまいてぇ」
起き上がったはずの体がなぜかまた天井を向いている。
昨日の飲みはとんでもなく調子に乗っていたようだ。何回も同じ光景を目にするとは。
スマホの通知音、昨日飲み明かした友人Aからのメッセージ。
『お前結局どこ泊まったん?笑』
なんでこんなに同じ通知が来るのだろう。壊れてるのか?
スマホだって安くないんだぞ、と思いながら手に取って確認する。
「ミッッッッッッ」
AM9:30:00
「これ繰り返してない? 体感30秒くらいで三回同じ光景見てるんだけど」
スマホの通知音、昨日飲み明かした友人Aからのメッセージ。
『お前結局どこ泊まったん?笑』
そして手にあるはずのスマホがまた机の上に戻っている。
俺はもともと足りない頭に二日酔いのデバフがかかった状態で思考する。
「時計を確認すれば
AM9:30:00
「今、午前9時30分2秒、3秒、4秒……」
ふむ。あとは繰り返しているなら何秒毎か調べる必要があるな。
「7秒、8秒、9秒、ジュッッッッッッ
AM9:30:00
「午前9時30分、1秒、2秒。 うん、繰り返してるわこれ」
そしてタイムリミットはおそらく10秒。この10秒以内にこの謎のループから抜け出す手立てを考える必要がある。
「8秒、9秒、ジュッッッッッッ
AM9:30:00
「そもそもなぜ繰り返しているのだ。 何がきっかけで繰り返しているのか」
俺はもともとからしてハトより少ない記憶容量から、これまで読んできた漫画、小説、見てきたアニメ、映画を思い出す。
こういう時間を繰り返す話をタイムリープものというのだ。
一般的に一番多いパターンが自らの死がきっかけとなる、いわゆる死に戻り系だ。
そして次に多いパターンが何かを改変すると繰り返しが止まる系の創作、便宜的にゲーム系としよう。
最後に考え得る可能セッッッッッッ
AM9:30:00
「最後に考え得る可能性としては、時間は巻き戻っておらず、俺は記憶が移植されたクローンやロボットである可能性だな」
時間が巻き戻るということは物理的にはあり得る話だ。
記憶を摘出して移植するよりもよっぽど現実的な話として受け入れられる。
時間は人間にとっては一方通行だが、物理学的にはどちらでもいい。俺らが歩いて移動する空間と同じ、たんなる座標に過ぎない。それが前後するくらッッッッッッ
AM9:30:00
「なぁ、いくらなんでも時間短すぎない?」
他の巻き戻り系主人公が見たら詰んだものだと涙を流してしまいそうな短さだ。
現にまだ1分ちょいしか過ぎていないように感じる。
「とりあえずヒウィッヒヒーに投稿しとくか。 タイムリープなう(笑)」
AM9:30:00
「うーん、ヒウィッヒヒーの投稿も消えてるなぁ」
スマホの通知音、昨日飲み明かした友人Aからのメッセージ。
『お前結局どこ泊まったん?笑』
「返信してみるかぁ。 なんかタイムリープなう(笑)っと」
既読はつかない。
AM9:30:00
一番最悪な場合は繰り返しの間隔が短くなっていくことだ。
あるいは繰り返しの回数制限があるならば、繰り返しできる数を使い切った場合どうなるか未知数だ。
考えていても仕方がない。まだまだ情報が必要だ。
「外の様子見てみるか」
扉を開ける。
「え、なにこれは」
見るからに爆弾なスーツケースサイズの何かが扉の目の前に置かれていた。