慰謝料請求
午後に入ってランドルフは自領の執務に追われて、ケニアは投資した鉱山の追加見積の金額や商会の新たな商品の入荷審議と時間に追われていた。
ルーベンスは、ほぼケニアに付きっきりで補佐をしている。
ケニアの集中力が切れ始めたころにドアをノックする音がしたので、ルーベンスはケニアに休憩を入れようとソファへと移動をさせてた。
しかし、ドアを開けては見たもののメイドは茶器の乗ったワゴンを持っていなかった。
「あの、ヴィヴィ様とアンゲル様からルーベンス様を呼んでくるように言付かりまして。」
「僕?何かあった?」
メイドは一度ケニアに目線を送った後、再度困惑した眼差しをルーベンスに送る。
という事は、ケニアに知られたくはない案件のようだ。ルーベンスはメイドの気持ちを理解して小さく頷いた。
「アミ、悪いけどケニアに休憩を取らせたいからお茶の準備をしてあげて。ケニア僕は、少し他の用事は入ったから席を外すよ。その間にゆっくりしていて。」
「解りました。お兄様。」
ケニアに笑顔で返事をして後にした。
廊下を少し歩いているとサボが駆け寄って来た。
「ルーベンス様。ダンヒル子爵とエメ嬢がやって来ました。」
「良く来れたね。」
ルーベンスの呆れた返答にサボも同意を示すように大きく頷いた。
「何しに来たの。」
「慰謝料請求だそうです。」
「はぁ?向こうが?請求をするの?誰に?」
「解りません。未だ良く話を聞いておりませんので。」
ルーベンスとサボは速足で応接室へと向かった。
☆☆☆
ランドルフはケニア邸で一時的に、仮の執務室を作って貰い、そこで領地経営の仕事をしていた。帳簿を付けては数字と睨めっこをする。間違いがあれば後でとんでも無い事になってしまうので、何度も見直しが必要となる。アンゲルにそこは重々気を付ける様に指導をされていたので、絶対に手抜きはしない。元々の0か100の性格が功を奏している。
ドアをノックする音がして返事はするが、帳簿からは絶対に目を背けなかった。
「ランドルフ様。ダンヒル子爵とエメ嬢がお見えです。」
アンゲルの声に流石に顔を上げた。ランドルフが今ケニア邸にいるのはダンヒル子爵たちに屋敷を乗っ取られたからであり、彼らが此処へ来る意味は解らなかった。ましては、ダンヒル子爵たちがランドルフが此処にいるとは解るはずもないと思っていた。
「僕が此処にいることをよく彼らは解ったね。」
ランドルフも感嘆の声を出した。
「慰謝料を貰いに来たと言っておりますよ。」
「何で僕が慰謝料を支払うのさ。」
「ですから、応接室へと来て頂きたくお迎えに参りました。」
「馬鹿なの?彼ら。」
「貴方が言いますか?」
アンゲルは額に手を当てて、左右に首を振りながら小さく息を吐いた。
☆☆☆
応接室には偉そうに踏ん反り返るダンヒル子爵とハンカチを目に当ててシクシク泣く振りをしてダンヒル子爵の横に座っているエメが居た。
「初めまして。ダンヒル子爵。この家の弁護士をしている者です。少し伺った所、慰謝料請求にいらしたそうですが…。子爵に請求される覚えが無いのですが?」
ルーベンスはソファには腰掛けずに立ったまま話し始めた。
「此方にお住まいのランドルフの奥方からエメが、嫌がらせを受けておりましてな。娘は今、ランドルフの子供を身籠っております。嫌がらせによって受けた精神的苦痛による慰謝料請求をさせて頂きますよ。」
ルーベンスは大きな声で笑った。
「何を言うのかと思えば。では、此方はこれを請求させて頂きます。サボ。」
ルーベンスに促されて、サボは書類の束をテーブルに置いた。ダンヒル子爵はパラパラと軽く目を通したが解らなかった。
「そちらは、エメ嬢がランドルフ殿との生活の中で使い込んだお金の一覧です。それらはオルゲーニ家が負う必要のない金額ですので、請求させて頂きます。」
ルーベンスの言葉にダンヒル子爵は、ハッとして、書類を良く見た。慰謝料請求しようとした金額の10倍位の金額が記載されていた。金額を確認してから横に座るエメを見た。エメはまだ演技をしていたが、ダンヒル子爵は演技の余裕は無くなっていた。
「訳の分からない慰謝料請求等と言う巫山戯た事を言わなければ、此方も奥様が無かった事にすると仰っていたので、請求する気はありませんでしたが…。仕方がありませんよね。」
ルーベンスは綺麗な笑顔をダンヒル子爵とエメに向けた。
その笑顔を見て、ダンヒル子爵は全身を震わせて、いきなり立ち上がり、エメを引っ張って逃げ出した。
「逃げ出すなら来るなよ。」
ルーベンスは、ダンヒル子爵が慌てて出て行った扉に向い独り言ちた。大きな足音が二つ廊下から聞こえて来るとアンゲルとランドルフが飛び込んで来た。
「ダンヒル子爵は?」
ランドルフは左右に首を振りながら探していた。
「あぁ、もうお帰りになったよ。」
「ダンヒル子爵はランドルフ殿に会いにいらしたのでは?」
アンゲルがルーベンスに問うと、ルーベンスは楽しそうに笑いながら応えた。
「いや、会いに来たのはケニアだね。ケニアに嫌がらせを受けたから慰謝料請求にらしいよ。」
アンゲルは何か言おうとして開けた口のまま何も発する事は出来なかった。
「ダンヒル子爵はやっぱりバカだよね。」
呆れて言うランドルフにルーベンスは
「それ、貴方が言いますか?」
と問うた。ランドルフは真剣な面持ちで、
「慰謝料請求はされる側であってもする方じゃ無いでしょ?」
と応えた。
ルーベンスは無表情で手を叩きながら
「あ、その知識はお持ちで良かったですよ。」
と褒めた。しかし、ランドルフは
「そこ迄バカにしないでよ。」
と応えたが、
「いや、働かないで、嫁の収入で愛人囲う人だか…ね。」
たと言葉に棘を持たせると、
ランドルフはバツが悪そうに頭を掻いた。
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