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7、塔の上の秘密の誓い

 王城の奥に、星見(ほしみ)の塔という場所がある。

 

 名前のとおり、星が眺められる高い塔だ。

 処刑の後、殿下に誘われて、私は塔の上で綺麗な星空を鑑賞した。


「アシュリー嬢は、男性が嫌いになったと聞いたことがある。言っても構わない。私を愛さない、と。好意を強要したりはしないから」

 

 私の婚約者になったウィリアム殿下はそう言って、手を差し出した。

 

「今までどおりに好きな仕事をつづけてもいい。もちろん、辞めてもいい……つまり、自由ということなのだけど」 

 

 手を重ねると、指先がちょっと冷えている。

 あたためてあげたい。自然とそんな気持ちが湧く。


「恋文にも書いたけど、言葉でも言おう。あなたを愛している。好きだ。だから、結婚したいんだ。他の男とではなくて、私と結婚してほしいんだ。ずっとずっと想ってたんだ。諦めようとしたけれど、諦めきれなかったんだ」

 

 満天の星空が頭上に広がる中、ウィリアム殿下は一生懸命な声を響かせた。

 

「私のことを好きになってくれなくてもいい。でも、あなたが嫌なことはしないし、喜ばせられるように努力する。好きになってもらえるように、がんばるよ」


 形式的な婚姻でもいい。一方的に捧げ、尽くす覚悟がある。

 愛されなくても、愛す。幸せにする。

 

 ウィリアム殿下がそう宣言する声は、(りん)としていた。


 その緑の瞳が、塔の明かりに照らされてキラキラしている。

 私はその輝きが、今までに見たどんな宝石よりも美しいと思った。

 

「殿下を愛することは、ありません」

「っ……!!」

「と、申し上げようと思ったけど、もう遅いみたいです」

 

 綺麗な瞳が、私の目の前でパチパチと瞬きしている。

 まるで、空から星が降りてきたみたい。

 

 この星は、私を愛してくれる星なのだ。私の特別な一番星なのだ。

 ……そんな愛しさがこみあげた。


「殿下を好ましく思っています。お慕いしております。あなたに好意をいただいて、嬉しいです。嬉しい気持ちを、お返ししたいです。あなたを喜ばせたいと、思うのです……そう思うように、なったのです」

 

 ぽつり、ぽつりと雨垂(あまだ)れがしたたるように言葉を選べば、殿下は奇跡に出会ったみたいな顔をした。


「殿下のもとに、私の父が贈った猫がいましたね?」

「ああ、うん」

 

 護衛任務の話は、すでに上司や父が殿下に説明済らしい。

 でも、自分の口でも話したい。そう思えるだけの気持ちが、私の中で育っていた。


「メイメイは、私なのです」

「うん」

 

 殿下は、すでに知っている。けれど「知っているよ」なんて無粋なことは言わなかった。そういう心根(こころね)が、好ましい。

 

「寝所に(はべ)るのは申し訳なく、罪悪感を覚えるときもありましたが、お守りするためでしたので」

「護衛に感謝しているよ。ありがとう……その、私がいろいろな無礼を働いたと思うけど。うん……ごめんね」


 撫でたり抱っこしたり、吸ったり。

 そういえば色々なことがあった。

 

「あの日々は、今思えばなかなか楽しかったです。……癒されました」

「私も、メイメイにはとても癒されたよ」


 もしかして、父はこれを狙っていたのだろうか?

 このピュアな殿下の恋心で私の男性嫌いを癒して、くっつける……とか?


 上司と父は仲が良いのだ。

 二人して共謀すれば、しようと思えばできるといえば、できるけど……まさか。

 そんな思いが湧きつつ、私は邪念を払って目の前の殿下に意識を戻した。

 

「結婚式は、早めにしよう」


 ウィリアム殿下はそう言って、私の手を取った。

 耳に心地よい甘やかな声を紡ぐ唇が、無言で私の指先に口付けをしてくれる。


 自分の肌が発する熱で()けるのではないかというくらい、触れられた部分が熱い。


「はい、殿下」

「ウィリアムと呼んでほしい」

  


 (うた)うように(よど)みのない声で、殿下は神聖に光り輝くような言葉をつむいだ。



「私は永遠にあなたを守り、愛し続けることを誓う。あなたと共に歩む未来への道に、愛と幸福をいっぱいいっぱい敷き詰めるから、どうか私の妻となってほしい」

「はい……」 

 


 想いにこたえる言葉を返して頷けば、腰が抱き寄せられる。

 渇望をたたえた目には余裕がなくて、必死な感じで、私はどきどきした。


「……いい?」

 問いかけは、秘密の香りがした。


 甘えるように近付く吐息に睫毛を伏せて頷けば、吐息を熱くからめるようにして唇を奪われる。



 キスをする一瞬が、永遠に思える。

 触れ合う体温が愛しくて、どうか離さないでほしいと願ってしまう。

 幸せな気持ちがふわふわとあふれて、涙がこぼれてしまいそう。



 人払いをした、塔の上。

 星空を背景に交わす愛の誓いは神聖で幸せで、特別な思い出になったのだった。



 

 ――Happy End!

もしもこの作品を気に入っていただけた方は、お気に入りや広告下の評価をいただけると、創作活動の励みになります。

最後まで読んでくださってありがとうございました!

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