五日目後半 雪ん子、リンゴに心惹かれる
「どうでしょう」
「すごい……芸術品のようです」
さすがに褒めすぎですよ。さっきからこんな調子なんですよね。
芸術品ともではいかなくても、確かに私に似合ってるから苦言も呈しづらい。
「美亞葵君……店員さんに向いてますよ」
それに、彼の選んだ服は何故か私の身体に合う。なんと下着のサイズまでピッタリ。そう、下着のサイズが。
そもそも何故彼が下着まで選んでいるかと言うと、私が原因なのである。
今まで下着なんて物の存在を知らなかった故に、大層驚かれた。店員さんにも。
最初、彼は女性の下着を選ぶ事に恥じらいを見せていた。どうせなら貴方に選んでもらいたい、と頼み込んだら、思いの外真剣に選別してくれた……のだが。
まさか、ここまで違和感の無い程、サイズを合わせてくるとは思わなかった。
「それに、私好みのものを選んでくれますし」
「共に暮らし始めて五日も経てば、好みも把握できるというものです」
そうだろうか?美亞葵君が異常なのでは。
「……失礼ですね。得てして男とはそういう生き物なのですよ。女性に関しては」
店員さんにも聞いてみたけれど、美亞葵君と同じ答えが返ってきて驚愕した。
男って、そうなんだ……!!
春姫は一つ、殿方について勉強しました。しかし、まだまだ知らない事がたくさんありそうです。
ですが、今はとりあえず、美亞葵君について学びましょう!
「その心意気は嬉しいですが、まずは服を選んでしまいましょうね」
「あ」
✻ ✻ ✻ ✻
「ありがとうございましたー!」
ほくほく顔の店員さんに見送られ、以前にも行った喫茶店に向かった。
結局、服は十三着購入しました。ワンピースタイプが四着と上下セットが二つと、服に合わせた下着が四着、肩掛けが一枚。あとは靴下を三足。
「どうせなら、靴も新調しましょうか」
「結構こだわりがあるんですね」
また一つ、彼のことが分かった。
靴は後回しにして、先に腹拵えを済ませましょう。おなかが空きました。
✻ ✻ ✻ ✻
「ご注文が決まりになりましたら、そちらの呼び鈴でお呼びください」
今日は何にしよう。前回は美亞葵君にお任せしちゃったから、今度は自分で選びたい。
「好き嫌いが無いなら、見た目で選んでみては?」
「見た目……」
じゃあ、この子にする!可愛いし、とっても美味しそう!
『ウサギカットのリンゴ付き、生パスタのカルボナーラ』
「……ふむ。あ、すみません、注文お願いします」
「お伺いします」
偶然通りかかった給仕に声を掛けた。
「春風様はいつも通りですね」
「えぇ。彼女の分はリンゴ付きのカルボナーラで。あと……」
「?」
他にも何か頼むのだろうか。そういえば美亞葵君、意外と大食いですもんね。
〘薫衣草柄のお皿、ありましたよね?〙
〘はい、ございますよ。お連れ様のお皿はそちらで?〙
〘お願いします〙
〘かしこまりました〙
何の話をしているんでしょう?言語が違うからまったく分からない。仲間外れにしないでくださいよ〜。
「ふふ、あとのお楽しみです」
むぅ〜、余計に気になるじゃないですか。
料理が運ばれてくるまでまだ時間があると言うので、美亞葵君に色々質問してみた。
曰く。好きな物は、可愛いものと美しいもの。
曰く。好きな食べ物は、卵かけご飯と素麺。
曰く。趣味は料理。
「僕のことなんか聞いて楽しいですか?」
「面白いです。好きな人の好みを聞くのって」
「ぶふっ!!」
だ、大丈夫ですか。またしても私、何か余計なことを?
「す、好きって。え?」
本当ですよ。嘘なんて言いません。
だって、初めて会った時も、迷える子羊の私を救ってくれましたし。お家にも迎えてくださって。
私、感謝してるんですよ?これでも。
それにそれに!なんと言っても人生で初めての友達ですもん。
「あー……うん」
あれ?おかしいな?精一杯、褒めたたえたつもりなんだけど。どうして凹んでるんです?
「お待たせしました。春風様専用昼食と、ウサギカットのリンゴ付き、生パスタのカルボナーラでございます。ごゆっくりどうぞ」
わぁぁ!美味しそう!
ほかほか湯気が立ってる様がなんとも食欲を誘う。ベーコンも大きく、たっぷり入ってる。お皿もお花柄で上品!
何より……このうさちゃんリンゴ!可愛いです!うさぎの神様、うさ神様!
「可愛いなぁ……」
「ん?何か言いました?」
小声で何か呟いたような気が。気の所為ですか?
「いえ、何も」
ま、いいか。それよりもこのリンゴ、可愛い!一目惚れしました。
このピョンとした耳!この部分が特にうさぎらしさを演出しています!
「リンゴに……負けた……?」
なにやらものすごく落ち込んでいる。今日は調子が悪そう。早めに食べて帰らなくては。