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雪ん子 ─ずっと、好きでした─  作者: 猫音子
一章 出逢い
6/12

四日目 雪ん子、引っ越す



「絶対、絶対に戻ってきてくださいね?」

「分かってますって」

「絶対ですよ?」

「しつこいですよ」


 両手をしっかり握られていて引き抜けない。

 もう三十分ずっとこの調子である。いい加減に行かせてください。


「あんまりしつこいとハロルドさん家にお世話になりますよ!」

「お?いいぞ?」

「ダメです!!」

「何ムキになってんだよ……」


 本当に。帰ってくると言っているのに、まったく。


「でも」


 ちょっと黙ってください。


「春姫……?」


 顔を引き寄せ頬に口付ける。すると、一瞬で大人しくなった。


「……!っ!!……!」

「ひゅ〜」


 そんなに驚かなくても……ちゃんとした西洋の挨拶なのですし。東洋では馴染みないものだけど。私も初めてしたましたし。


「良い子で待っててくださいね。分かりましたか?」

「はい……」


 呆然とした顔で見送られ、今度こそ自国へ戻った。


「……俺、空気?」

 

 ✻ ✻ ✻ ✻


 たった数日しか経っていないのに、既に我が家が懐かしい。特段恋しくは無い。

 さて、荷造り荷造り。

 

 お金をまとめて箱に入れ、音がならないように敷物を詰めておくことも忘れない。


 御神刀……これは美亞葵君に預かってもらいましょう。私が持っていては何かと危険ですから。

 

 私、刀を持つと豹変してしまうんですよね。

 小さい頃に岩を切ってしまった事があって、一族の皆に『刀を持つのは自分の身に危険が迫った時だけにしなさい』と厳重注意された。伝家の宝刀ですね。


 あとは、つげ櫛を。この櫛、実はだいぶ古いんです。私が生まれる前から一族に伝わっていたとか。これはさすがに置いてはいけません。


 ふぅ。こんなものですかね。

 刀を腰に括り付け、櫛を専用の箱に仕舞ってから更にお金が入ってる箱に入れた。


 そろそろ出よう。街に着く頃には夜になっていそうだ。

 美亞葵君、泣いてないと良いですけど。

 ……心配になってきた。早く戻ってあげましょう。


 ✻ ✻ ✻ ✻


 すっかり暗くなってしまいました。お月様が昇っている。位置からして深夜二時を越えてしまっている。


「もう少しで着きますからね、美亞葵君」


 本当にあと少し、この道を真っ直ぐに進めば、門が見えてくる筈。


「──!──い!」


 誰か、呼んでる?


「おーい!」


 この声、ハロルドさん?どうして。


「嬢ちゃん、良かった、無事か」

「ちゃんと帰ってくる言ったでしょう?疑ってたんですか」

「そうじゃねぇよ。ふぅー」


 何か、あったんですか?こんな夜中に。美亞葵君が号泣してるとか?


「いや、それもあるけど、人喰い鬼が出たんだよ」

「人喰い鬼?」

「あぁ、始末したんだが……他にもいるかも知れねえからな。見回ってたんだ」


 成程、それで。というか、やっぱり泣いてるんだ。予想を外さない人ですね、まったく。


「大丈夫ですよ、私、強いので」

「…………おう」


 釈然としない様子。ここは一つ、力を見せておきましょう。


「精一杯、防いでください……ね」

「へ?うぉ!ちょ、ま!早……!」


 四合も数えないうちに勝負が付いてしまった。


「参った。嬢ちゃん強いのな……見くびってたわ」

「三つの時点で岩を切るほどには強いですよ」

「岩って、マジかよ。待て、実際にやってくれるなよ?」


 ちょっとカチンときたもので。


「女だからといって、舐めてかかっては死にますよ」

「わ、分かった」


 無駄な事をして時間を潰してしまった。早く美亞葵君の所に行かなくちゃ。


「荷物は俺が家まで運んどく。美亞葵が待ってるから会いに行ってやってくれ。最初に通した部屋は知ってるな?そこだ」

「ありがとうございます。行ってきます!」


 急いで部屋に向かったのは良しとして、何と言って入室すれば良いのか。緊張する。

 至って普通にただいま?それとも謝罪?待っててくれた事に対する感謝?頭がぐるぐる回る。


 ──コンコン。


 勇気を出して扉を叩くも無反応。

 そっと扉を開くと、テーブルに突っ伏して眠っていた。涙の跡を残して。

 

 恐らく泣き疲れたのだろう。まさかと思うけど、ずっと此処で待っていた?ちゃんと食事は摂ったのでしょうか。そこが心配です。


 起こさないよう、慎重に涙を拭う。


「春姫……」


 お、起こしちゃった!?あ……なんだ、寝言。驚いた。

 それより、こんな体勢で寝たら身体が痛くなると思うんだけど……。


「美亞葵君、帰ったよ」

「ん……」


 起きないので暇つぶしに唇をなぞってみる。

 わぁ、ぷるぷるだ!乙女の敵、敵がここにいますよ、全国の女性の皆さん!


「うん……?」


 起きたかな?おはようございます。春姫が帰ってきましたよ〜。


「はる、ひ?」

「はい。ただいま戻りました」

「春姫……!!」

「く、くるぢい……」


 余程心配していたのか、痛いほどに抱きしめられる。

 うぅ、息が。止まりそう……。


「心配、したんですよ」

「ごめんなさい」


 頭を擦りつけられて若干痛い。もう少し腕を緩めてくれません?肺が軋んでる。


()です」


 即答だった。え、あの、苦しいんですけど。おーい。

 何度言っても同じことを言われてしまう。まるで子どもの我儘ですね。

 背中を撫でてよしよしするも、逆効果だったみたいで、すすり泣き始めた。これ、どうすれば良いんでしょう?


「離してくれないと嫌いになりますよ」

「それは……困ります」


 ようやく解放された。肩に手を置かれているけれども。

 ハンカチで涙を拭っていると、ふとこんな事を聞かれた。


「怪我はありませんか」

「…………ないです」

「春姫?目を見て言ってください」


 痛いところを突かれた。これがバレたら一人で外出が出来なくなる。

 何を隠そう、正規の道を通っていない私の脚は、荒道によって擦り傷だらけなのである。


 拭っていた手を緩く握られ、笑顔で告げられた。


「しばらく外出は禁止です」


 そ、そんな。制限がつくどころじゃなかった!もしかして明日の約束も白紙に!?


「行きますよ、約束ですから……怪我はどこです?見せてください」


 指示に従い、スカートを捲って擦り傷を見せると怒られた。目元が赤いのは何故。


「異性にそんな場所(太股)を見せてはいけません!せめて事前に言ってください、驚くでしょう!」


 言われたから見せたのに。むぅ。

 ん?見せると宣言してからなら怒られなかったのかな?


「そんな訳ないでしょう……」

「でもさっ「とりあえず、ソファに座って待っててください。薬箱持ってきます」


 あ、はい。


 ✻ ✻ ✻ ✻


「何をどうしたら、こんなに傷を作れるんですか」

「……染みるぅ」

「自業自得ですよ」

「うぅ……動きづらかったんだもん」

「だからといって、身の安全よりも動きやすさを優先しないでください」


 早速お説教が始まった。どれも正論であるが故に、反論しづらい。


「ひゃあっ!」


 みみみ、美亞葵君の手が太股に!あわわわ!


「美亞葵君?!」

「綺麗な肌なのに……こんなに傷を作って」


 あう。まだそこを(つつ)きますか。どうして私よりも、美亞葵君の方が痛そうなんです?

 それに、この程度の怪我は日常茶飯事だし、そこまで気にしなくても良いのに。


「なら聞きますけど、貴女は……誰かが怪我や病気になったら放っておけますか」


 ごめんなさい、無理です。放置するなんてこと、良心が許しません。


「それと同じことです」

「う……」


 さっきから言い負かされているような気がしないでもない。


「それに……」

「?」

「さ、終わりましたよ。帰りましょう」

「???」


 え。あの、え?美亞葵君??

 頭から疑問符が生えそうなんですが!?生やしても良いですか!?


「歩けますか?」


 私の疑問は置いてけぼりなんですか。そうですか。分かりました。大人しく立ち上がって側に行く。

 逃走しないようにか、しっかり手を握られながら春風家に帰った。

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