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雪ん子 ─ずっと、好きでした─  作者: 猫音子
一章 出逢い
3/12

一日目 雪ん子、街へ行く


 暖かな春の陽射しが目に染みる。

 つい最近まではあんなに降っていたというのに。

 薄情なお日様は、私の元気を奪っていく。


 こんな日はふらふらしたい。気分転換に人間観察でもしに行こうか。

 ここから一番近い小さな町だと、私を不気味だと思ってる人間たちが多い。


 それならば、この山の向こう側にある大きな街はどうだろう。あそこは軍人が多く住んでいる為か、治安が良いと聞く。


「うん、あの街に行きましょう」


 早速準備を始める。

 ご飯はあちらで調達するとして、お金を出さなくては。


 この時代でも通用するかは分からないけれど、持っていかないよりはマシだと思えた。何せうん百年生きているから。


 排他的な人間は、私たち(あやし)を忌み嫌い、滅びに誘った。この里で生きているのはもう、雪女の私だけ。


 襲撃があってからは、里に結界を施した。故に誰も入ってこない、入れない。

 本当に心を許した者しか入れないと決めている。


 いつか、種族を気にしない人間に出会えたら嬉しい……そう思いながら度々、人間観察をしてきた。


 今回でちょうど百回目。今日こそは、良い人に巡り会いたい。

 気合いを入れて裏山を登り始めた。


 ✻ ✻ ✻ ✻


 裏山を越えた先、早くも躓いた。小さな町には無かった関門があったのだ。


「どうしましょう……?」


 持ち物検査とか、簡単なものなら良い。けど、身分証明になると厳しい。

 ここの人間たちが排他的でなければ良いのだけど……。


 おろおろしていると門番に不審がられて連行された。


「嬢ちゃんは何をしに来たんだい?観光?」

「え、と……」


 人間には謗られてばかりだから、こうやって気にかけて貰えたことは一度もない。ただの一度も。


「怖がらなくても良いよ。何も尋問しようって訳じゃないから。入りづらそうだったから、声を掛けちゃってね」


 なんて親切なおじさんでしょうか。

 今まで無い優しい対応に思わず、目頭が熱くなる。


「じょ、嬢ちゃん?!」

「ふぇぇぇぇ……!」


 この街ではもしかしたら、妖に対する差別を受けることは無いのかもしれないと思うと安心してしまい、崩壊寸前だった涙腺はあっという間に緩んでしまった。


「ハロルド、何事ですか」

「いや、この子が急に泣き出しちまって……後任せた!」

 

「え?ちょ、ハロルド!まったく……どうか泣き止んでください、外にいる兵が騒いでいますので」


「ひっ、う……ぅく……」

「あのおじさんが怖かったですか?」


 (そうじゃないんです……!)

 

 いつまでも止まらない涙に辟易したのか、彼は外へ出ていってしまった。


「お待たせしました」

「ぐすっ、……え……?」


 初めて見たその容姿に目を見開く。

 水を映したような綺麗な薄水色の長髪に、清く澄んだ青い瞳。


「綺麗な人……雪の精霊みたい……」


 目の錯覚なんじゃないかと己の目を疑うほどの美貌に加え、この色彩。先祖に雪の一族がいた……?そんなまさか、人間は私たちを嫌っている。


「ふふっ。よく言われますが、僕自身は人間ですよ」

「へっ?あ……ご、ごめんなさい!」

「いえいえ、慣れてますからお気になさらず。お茶をどうぞ」


 寛大に失言を許してくれた。怒るどころか、くすくす笑っている。

 せっかく淹れてくれたので、頂く。


 (優しいお方で良かっです……)


 それはそうと、気になる事が一つ。


「あの、失礼ですが……」

「男ですよ」


 !?

 こ、心を読まれた!

 い、いえ、落ち着いて。人間はそんな特殊技能は持っていないはずだから……。


「しょっちゅう間違えられるもので。違ってたらすみません」


 なるほど、この容姿だと確かに間違えられても文句は言えないだろう。


「それで……この街へは何をしに?」

「あの、その……」


 この質問が遂に来てしまった。なんと答えれば良いのだろう。

 素直に人間観察に来ました、なんて言えば、幾らこのお方でも怪しんだりするかもしれない。


「言いたくなければ言わなくても良いですよ。防犯の為に把握しておきたいだけですから」


 それなら尚の事言わねばなるまい。そう思うのに、口が喋ることを拒絶する。


「んー、どこから来たかは言えますか?これだけは教えてくれないと、この街に入れる事が出来ません」

 

「あそこの山を越えたところです」


 窓から見える山脈を指差す。

 

「もしや、藍鶯(あいおう)ですか?あそこは鎖国で、出入りが厳しい筈ですが……」


「あぅ……」


 それは、知らなかった。思わぬ情報になんと返せば良いのか分からず、言葉が出ない。


「ふぅ、分かりました」

「え」

「私の遠戚ということにしておきます。色味も似ていますし、疑われることは無いでしょう」

「あ、あのっ!」


 何がどうなってるんだろう。何故そこまでしてくれるの?

 

「何か問題がありましたか?」

「どうして……」


 こんな小娘に情けを掛ける必要はないだろう。

 

「どうしてと言われても……何となく?悪い人では無いと思ったので」

「そんなので良いんですか……?」


 適当すぎやしないだろうか。


「僕、人を見る目は良いんです。上司……お偉いさんにも信頼されてますし」


「そう、ですか……じゃあ、お願いします」

「分かりました。泊まるところに当ては……無いですよね、すみません」


 そこは大丈夫。泊まるつもりは無いから。


「日帰りですか?どちらにしろ、用件を済ませた頃には夕方になっているでしょうから、一泊することをお勧めします」


 懐中時計を見てそう言った。

 もうそんな時間だったんだ。時間が過ぎるのは早い。

 そうだ、お金の事を聞かないと。


「このお金って使えますか」


 巾着から二、三枚取り出して掌に乗せる。


「これは遺失硬貨?これを何故貴女が……」


 しまった。これはもう使えないんだ。換金とか出来ないだろうか。


「使うことは出来ませんが、換金なら出来ます。ただ、額が膨大ですので日にちが掛かりますけど、大丈夫ですか?」


 そうなんだ……それは困った。お金が使えないなら、宿にも泊まれない。どうしよう。


「もし良ければ、僕の家に泊まって下さい」


 お、男の人の家に!?


「あぁ、ご心配なく。侍女も執事も居ますから」


 お金持ちだった……!

 この方も実はお偉いさんでは!?


「官吏を兼任してるただの中佐です。大した事じゃないですよ」


 大したことだと思う。天然なんだろうか。それともボケている?若そうなのに……。


「ボケたつもりは無いんですけどね……あぁ、歳は十四です」


 思ったより若かった!なんだろう、驚いてばかりな気がする。

 

 ──トントン。


「どうぞ」

「終わったか?」


 そろぉっと顔を覗かせるさっきのおじさん。先程はご迷惑をお掛けしました……。


「落ち着いたか?」

「はい……おかげさまで」


 驚きの連続で心臓は疲れましたけど……。

 この後、男の子がおじさんに事情を話して無事に街へ入ることが出来ました。


 (おかしいな……どうしてここまでの大事に……?)


 

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