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アポロの教室

作者: にぼし

 二年振りに入った教室は狭くなっていた。

 実際に狭くなったわけではない。ただ、カルトンやイーゼルも無く、人がいない分広く感じると思っていたが、そんなことはなく、むしろ小さく感じたのだ。

 鉛筆の木と鉄の匂いから、懐かしさが込み上げる。二年前、高校生の自分はここで必死に絵を描いていた。この教室が自分の全てだった。

 自分がいつも座っていた席に座る。この二年で背丈は伸びていないはずだが、少し小さく感じた。ゆっくり机に頭を伏せると、机の木の香りが強くなる。

 目を瞑ると、聞こえるはずのない音が聞こえる。


 隣の席から聞こえる、鉛筆が紙を走る音。少し走ると、その音は止まり、時が止まったような空間が流れる。鉛筆を持つ手が止まった時、彼は観察しているのだ。画用紙の奥にあるアポロの胸像を。真っ直ぐな目で、アポロとの間の距離を無くすほどの集中力で。きっと、隣に僕がいることも忘れているんだろう。

 彼の紙の中では、白く冷たいアポロも、生きているようだった。そんな彼の隣で絵を描ける事が、誇らしかった。それと同時に、居心地が良かった。

 彼と二人で、この教室に来た最後の日を思い出す。

 僕は、彼の隣で絵を描けなくなる事を酷く寂しがっていた。

 「きっと戻りたくなるんだろうな」

 僕がそう言うと、彼は「戻りたくなったら、描けばいいんだよ」と言った。

 「思い出して描いている間は、戻れるよ」


 自分を呼ぶ声で頭を上げる。先生は「お待たせ」と言って机の上にB3のケント紙を広げた。それらは全て、自分が二年前にこの教室で描いたデッサン達だ。トイレットペーパーに紙コップ、稲やサッカーボール、アポロの胸像もある。画塾を卒業してからは、漫画しか描かず、B4の原稿用紙に慣れていた為、B3のケント紙が大きく感じた。自分はこんなに大きな絵を描いていたのかと感心する。

 「それにしても、どうして急に自分の作品が見たいだなんて言い出したんだ?」

 先生は不思議そうに聞いてきた。僕は小さな声で答えた。

 「漫画に描く為に、資料が欲しくて」


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