お姉ちゃんといっしょ
ご飯を食べた後、私はお姉ちゃんから必死な形相で、「一緒にお風呂入ろ?」とお願いされた。
断る理由も特になかったので了承したけど、まさかお風呂で抱きついてくるとは思わなかったな。
……小声でずっと「白羽柔らかい……白羽柔らかい」と、念仏のように唱えていたのは正直怖かった。
「お姉ちゃん、おやすみー」
「え?あ、うん!!おやすみ白羽!」
「……?」
まあいいや。急に言われて驚いただけだと思う。
それにしても私に声をかけられた瞬間のお姉ちゃんは、すごいショックという感じの顔をしてたな……。
私は二階にある自分の部屋に入ると、早々にベットに倒れ込んだ。時刻はすでに22時を回っている。健康優良児の方々はもう寝てる時間だね。
だけど、私には考えなければいけない問題がある。
もちろん陽菜ちゃんのことだ。このままでは陽菜ちゃんが不登校、最悪の場合自殺なんかもあり得る。……それほどに事態は深刻なのだ。
改善しようにも、下手に私が介入できる問題でもない。私が変に口を出せば悪化する可能性があるし、最悪問題が大きくなって沢山の人を巻き込むことになる。陽菜ちゃんがどうしたいのかわからないけど、大ごとにはしたくないはずだ。
だからこそどうすればいいんだろう……。前世で一切コミュニケーションを取らなかった弊害が、今になって露わになっていく。こんなことなら、もっと周りに溶け込んでおけばよかった。
いや……無理かも。……うん!無理だ!前世の私にそんなことはできない!
さらっと自分のことには潔い白羽だった。
ーーーーーー
「考えても考えても悪いことばっかり考えちゃう……」
ため息混じりの独り言が静かな部屋に溶けていった。部屋には、秒針を刻む時計の音が鳴り続けている。
現在の時刻は午前0時と数分が経ったころだ。いい加減寝ないと、明日に影響が出るかもしれない。それだけは絶対に避けたい。
私の学校生活は、常に周りに気を張っているので体力が減るのが早いのだ。
急いで私は布団に潜り込んだ。今日は夏にしては珍しく、少し寒い。でも私にとっては、丁度いいくらいだ。私は暑いのが嫌いな反面、寒いのは意外と得意だったりする。
そして時計は1時を回った。
……あれぇ?やばい、全然眠れない。
どうしよう。さっきまで脳をフル稼働させていたからかな。原因はわからないけど、とにかく眠れないのは困る。
私はホットミルクでも作って飲もうとベッドから出ようとした瞬間ーー
ギィと部屋のドアが開いた。
え?なに!?怖いんだけど!?
私はもともと幽霊だとかスピリチュアル的なことは、信じていなかった。でも実際私は、転生とかいう超スピリチュアルを起こしているので、信じるようになってしまったのだ。
世の中知らない方がいいことも沢山あるんだ……。
だけど実際入ってきたのは、お姉ちゃんだった。
「白羽ぁ〜……お、起きてないよね?……ふぅ……よし」
私は咄嗟に寝たふりをしてしまった。お姉ちゃんは何故か泥棒のような忍足で部屋に入ると、ドアをゆっくり閉めた。
「ふふ。白羽はこの時間は起きてないからね。……白羽が悪いんだよ?」
え?私なにか悪いの!?
唐突に心当たりのない濡れ衣を着せられたんだけど。
「お姉ちゃんね……白羽が可愛すぎて抑えきれないの。ねえ?もういいよね?優しい白羽なら、こんなお姉ちゃんでも許してくれるよね?」
な、なにするんだろう?お姉ちゃんが何やら不穏な雰囲気で近寄ってくる。お姉ちゃんの雰囲気がいつになく怖い。
……お父さんお母さんなんで今日に限っていないの??ねえ?こういう時に家を空けないでよ!
心の中でお父さんとお母さんに向かって叫んでいると、布団の中にお姉ちゃんが潜り込んできた。
そして、私を後ろから抱きしめた。……ふぇ?
「ッスゥーーー……はぁ、白羽の匂い最高」
お姉ちゃんは、一気に私の匂いを吸い上げると感想を漏らした。
変態だ!うちのお姉ちゃんは変態だったんだ!?
……うん。まあ今のは冗談として、多分お姉ちゃんは温もりが欲しかったのだろう。学校は大変なのだ……。自分を常に取り繕うのは日常茶飯事になる。優秀な人こそ自分を取り繕うことが多くなる。
だから身体と同時に心が疲れてしまうのだ。そんな時は他の人の温もりが、欲しくなってしまうのではないだろうか。まあ私の持論だけれども。
そう考えると、お姉ちゃんにも可愛いところがあるじゃないか!家族として、お姉ちゃんに今日限定で私の温もりをあげようじゃないか。
そうしていると、だんだんと私も眠くなってきた。今日は色々あったからか、とても眠い。睡魔がどんどん私を侵食していく。そして私は重い瞼を閉ざした。
「お姉ちゃんはね……絶対に白羽を何処にも行かせない。ずっと一緒だからね……?」
ーーーーーー
そして次の日目覚めると、お姉ちゃんが起こしにきてくれた。
「……お姉ちゃん?」
「うん!お姉ちゃんだよ!さっ!早く顔洗ってこようね?」
「んぅ〜……」
「ッッッ!?……くッ!!!うぅ〜ん……ごぼッ」
お姉ちゃんが私を洗面所に連れてこうとしたけど、私は生憎眠すぎて体に力が入らない。……というかお姉ちゃん吐血してるけど大丈夫なのかな?
んぁぁ〜眠いぃぃ……。目が開かないぃ。
私は寝起きで覚醒しきっていない脳で、今日の学校のことを考え始める。どうすれば陽菜ちゃんの問題が円満に解決できるのかを……。
◆
私は放課後、校舎裏で見た光景に絶句していた。
そこには、クイックルワイパーを片手に持って空を見上げる陽菜ちゃんと、地面に倒れ伏している男女がいた。
「あれ?雨が降ってきちゃった」
え?雨なんて降ってないんだけど……。
「いや……雨だよ」
いやそれ汗だよ……。
というか……えぇぇぇ。これは一体何があったんだろうか。……もう言葉が出ない。私はいま正しく絶句している。陽菜ちゃん、バーサーカーに目覚めたんだね……。
次回は陽菜ちゃん視点のお話です。陽菜ちゃんに対しての、友達になってください宣言で話を切ったので、そこの話も明かされます。
では!次回をお楽しみに!