いじめはいけないと思います
私は少女に手を伸ばして腕を掴むと、勢いよく腕を引っ張った。小柄なので、貧弱な私でも引き寄せることができた。
瞬間目の前をトラックが通過して行った。風が前を吹き抜けると同時に、このまま進んでいたら轢かれていたという現実感が押し寄せる。危なかった……。目の前で、同級生が吹き飛ばされる瞬間なんて見たくないからね。最悪の事態を免れたことに安堵していると、
「え……わ、私いま轢かれそうに、な、なってッッ!?」
今気づいたみたいだ。ずっと目が虚だったから、意識が飛んでいたのだろう。……少し心配だ。
とにかく、こんなところで尻餅をついたままは恥ずかしい。ここから移動しないと。周りの目もあるし。
「と、とに、かく……え〜と、早く立って移動、しよ?」
「あ、はい」
少女は顔を赤くしながら立ちあがると、すぐに俯いてしまった。
あれ?この子にシンパシーを感じる!!私と同じぼっちなんじゃないだろうか?あとで友達申請してみてもいいかな??
それはともかく、さっきまで地面に座っていたのでお尻に砂埃が付いてしまっていた。払ってあげたほうがいいよね。
……というかやっぱりこの子超可愛い。お人形さんみたいで、儚さを纏っている。愛らしいという言葉が無意識に浮かんでくる。……いや〜金髪ボブっていうのもいいね。
……やばい、話が脱線してる。
とにかく、この子のお尻についた砂埃を払ってあげる。すると何やら急に顔を赤くし始めた。
「きゃっ!?んぇ!?な、ななっ」
「あ……ごめん」
ここまで慌てられるとは。確かに無神経過ぎたかもしれない。同性とはいえ他の人にお尻を触られるなんて、絶対に嫌だよね。白羽反省します……。
「い、いえ!少しびっくりしただけですから!!」
少しどころじゃなかったよ。
「うん。……ご、ごめんね。嫌だよね」
「あ、あの!私、冬咲さんからなら触られてもいいです!!」
「え……うん。そっか……」
何を口走ってるの!?この子!!
いや今はそんなことよりも優先すべき事がある。
「と、とりあえずここからい、移動しよ?」
「は、はい!!」
ーーーーーーーー
それから私達は、少し歩いたところにある公園のベンチに腰を掛けた。なかなか寂れてはいるけど、これもまた落ち着くのだ。
ふぅ……よし!!私はあまり他人の話に深入りしないようにしている。それはなぜかと言われれば、それを嫌がる人もいるからだ。
でも今回はこの子の物語に関与してしまったのだ。少しくらいお節介を焼いてもいいんじゃないかな?そんなことを考え、私は彼女に話しかけた。
「こ、ここなら誰にも聞かれないから。……教えて?……なんであんなにボーとしてたの?」
元から話を聞くために、この子をここに連れてきた。命に関わるくらいに深刻な問題なら、話を聞いてあげるだけでも力になりたい。これは紛れもなく私のお節介だ。
「いや、あの……体調が悪かっただけでーー」
「嘘だよね?」
「うぐっ。……はい」
「言い辛いと思う。話したくないなら聞かなくてもいいよ。でも、私はあ、あなたのこと知りたいよ」
最初は嘘をついていたけど、問い詰めるとあっさりと認めた。この子嘘とかあまり得意じゃないんじゃ。それにしても大人しい子だ。清楚という言葉が堂に入っている。
多分だけど、私はこの子と波長が合う気がする。あくまで予感だから絶対に合うわけではない。(自分を清楚だと思い込んでいる)
隣の少女はしばらく黙り込んで何かを考えているようだ。真剣な表情も可愛い。あ……そういえば名前聞いてなかった。
「あの、名前……聞いても、いい?」
「あ、すいません!!私風情の名前なんて、覚えていただかなくても大丈夫です!」
「え、困るよ……」
「そ、それでは、私は古見陽菜です。好きなことは料理です!」
「ありがとう。……私は冬咲白羽、よろしくね」
これは一体なんなのだろうか。お見合い?でも料理かぁ〜。今度食べてみたい。
それは置いておこう。とりあえず話を聞かないと先に進めない。
「そ、それで、話せる?」
「あ、はい!考えは纏まったので!」
「うん。聞かせて?陽菜ちゃんの話」
それから語られた内容は、とても辛い話だった。
陽菜ちゃんは元々の容姿が可愛らしく、お人形さんのような外見だ。それに少し大人しめでおどおどしているので、男子にもかなり人気だったようだ。
でもある日、そんな陽菜ちゃんに嫉妬した女子生徒達が嫌がらせを始めた。その嫌がらせは、どんどんエスカレートしていった。体操服を裂かれたり、水をかけられたり、物がなくなっていることも多かった。
そしてそんな日々が続き、今日校舎裏に呼び出されたのだ。不審に思いながらも行ってみると、案の定男子1人と女子5人が待っていたそうだ。
そして、女子から一通り罵倒を受けると、男子生徒が襲ってきた。なんとか近くにあったバケツを投げつけて逃げ切ったけど、学校に行くのが嫌になっていたそうだ。そこで歩いていたところを私に助けられたということだった。
……え、つっら!?重くない??この話重くない?私だったらもう部屋から出てこないよ!というか……
「え、だ、男子からは未遂?」
「は、はい!脱がされる前にバケツを顔に打ちつけたので」
「よかった……」
バケツ……痛そうだな。
それはともかく、本当によかった。でもいじめた人達は絶対許せないな。私にできる限りで協力してあげたいけど……。でも、何をすればいいんだろう?考えてみてもわからない。
こういうデリケートな、問題は本人が解決するのが最適解だ。だけど、大抵の人はそれができないから先生や親、友達などに頼むしか方法がない。まあほとんど解決という解決はないけど。
「陽菜ちゃんはこれからどうしたいの?」
「……わかりません。自分がどうするのが正解なのか、どう振る舞えばいいのかも、わからないんです……」
陽菜ちゃんは今にも泣きそうな顔で、ぽつりぽつりと言葉を紡いでいく。
これはどうしたものやら。この子は自分の意思が弱い。だから利用されるし、全ての物事の基準が他人だ。それはある意味楽だ。だけど同時に、甘えでもある。
私は「う〜ん」と唸りながら考えていると、陽菜ちゃんが口を開いた。
「……私はあまり家族と話したことがありません。両親とも共働きでずっと家を空けています。ですが、そのおかげで私の家は裕福なんです」
「うん」
「でも……そのことが周りに知れてからは、手の平を返したように媚びを売ってくるようになりました。ここまで露骨だと、鈍い私でも気づきます」
陽菜ちゃんが語りながら、どんどん苦虫を噛み潰したような表情になっていく。お金目当てで近寄ってくる人にいい人はいない。それは当然なのだ。相手は、自分と仲良くしたいわけじゃないのだから。
……なるほど。他人との関係というものにも色々ある。好意があるような態度でも、裏があることだって少なくないということだ。怖いなぁ……。
なおも陽菜ちゃんは思い出すように言葉を紡いでいく。
「でも私はそんな人達と仲良くする気にはなれませんでした。そんな態度が気に食わなかったのか、どんどんいじめがエスカレートしていきました。わた、私はどうすればッ、いいのでしょうか……?」
最後の言葉を発した瞬間、陽菜ちゃんの目から大粒の涙が零れ落ちた。ここまで追い詰められているのを見ると、苦しくなってくる。
でも私がそれを、その感情を表に出してはいけない。それは正しく同情になってしまうから。だから私は陽菜ちゃんに……
「……陽菜ちゃん!良ければ私と友達になりませんか?」
満面の笑顔でそう言葉にした。
まずいですよ!!年齢制限かけ忘れてました。これを小さい子が見たら悪影響ががががが!!ということで一応R15のタグだけ貼らせていただきました。
では引き続きお楽しみください!(≧∇≦)