あなたと友達に 2
「……陽菜ちゃん!良ければ私と友達になりませんか?」
そう言われた瞬間、私の思考は停滞しました。今冬咲さんが発した言葉をなんとか受け止めようとしますが、どうしても思考がついてきません。
私があたふたしていると、冬咲さんは少し不安そうな表情でこちらを見てくる。
「だめ、かな?」
「いえ、なりたいです!!」
冬咲さんは不安そうな顔で再度確認してきました。
……冬咲さんのその仕草は反則だと思います。……というか、冬咲さんはどんな仕草でも絵になります。喜怒哀楽全てが可愛いんですよ。
と、とにかく私なんかが冬咲さんの友達になっても良いんでしょうか?どう考えても不釣り合いだと思います……。
よく一緒にいるところを見かける秋野さんも、人望があって活発な美少女です。そこに私が入ってしまってもいいのでしょうか。
そんな私の心を見透かしたのか、冬咲さんは微笑みながら女神のような表情で言った。
「私はね、周りからの評価とか理想なんかどうでもいいんだ。陽菜ちゃんと友達になりたい。陽菜ちゃんと学校でも話してみたい。私が陽菜ちゃんを求めているんだよ?」
「も、求めている?」
「うん!周りがどう思おうが関係ない!私が陽菜ちゃんと友達になりたいからなるの!」
冬咲さんは全力で思っていることを言葉にして、息を切らしていました。
……私は今のこの気持ちをどう表現すればいいのでしょうか。かつて、私にここまで全力で向き合ってくれた人はいたのでしょうか?いえ……間違いなく冬咲さんが初めてです。だからこそわかりません。喜び、感動、幸せ、そんな言葉で言い表せない何かが溢れてきます。
多分、冬咲さんは私がこれ以上自分を卑下したとしても、きっとどこまでも肯定してくれます。私はそれでいいんでしょうか?この先の学校生活でも冬咲さんに頼り続けて、寄りかかって、その優しさにつけ込むのでしょうか?
……私は今日この数時間で、冬咲さんの色々な一面を見ました。学校で天使や女神、アイドルと謳われている方は、意外にも喜怒哀楽がコロコロ変わり、出会って数時間の相手の話を信じて真剣に考えてくれました。
少し話しただけでもわかりました。この方は人と話すのがあまり得意ではないことを。ですが、健気にも面と向かって私の話を聞いてくれて、私を引っ張ってくれて……。
そんな弱くて強い冬咲さんに、私はこの先頼って寄りかかり続けるのですか?
そんなの……あっていい筈がないじゃないですか。ここまで冬咲さんに引っ張ってもらいました。なら、ここから先は私が自分で解決するべき問題なんです。
こちらを何も言わずに見つめている冬咲さんは、やはり不安そうな顔をしていて、だけどとても可愛くて……。
「冬咲さん……。私は冬咲さんと友達になりたいです!!でも今の私では、冬咲さんの友達として失格です」
「え……え?そ、そんなことないとおーー」
「ですのでッ!!明日の放課後、校舎裏に来てください!そこで私は初めて冬咲さんの友達になりますッ!!」
「う、うん!了解しました!」
冬咲さんは困惑した様子で了承してくれた。……ふぅ、言い切りました。これでもう後には引けませんね。
これは今まで弱くて、誰かの救いを只々待つだけだった自分への決着です。もしもこの一件が終わったら、その時私は初めて冬咲さんの隣に立っていられます。
……それはともかく困惑してあたふたしてる冬咲さんも、かわ(ry
ーーーーーーー
次の日、私は朝目が覚めるといつも通り自分で朝食を作り、シャワーを浴びて余裕を持って学校に登校しました。
自分でも何故かすごく緊張します。ですが、不思議と冬咲さんのことを考えると顔の筋肉が緩んでしまいます。
まずいですね……私今どんな顔をしてるのでしょうか。鏡を今日は持ってきていないので、見ることができません。
「ねぇ……昨日逃げやがって。あんた調子乗ってない?」
「朝から幸せオーラ出してんのまじうざいんだけど。今日こそは長らんないから」
「今日の放課後校舎裏にこいよ?」
昨日のことを余程根に持っているのでしょう。それにしても、せっかく冬咲さんのことを考えて幸せに浸っていたのに、台無しですね。
だけど、それも今日までです。その時が楽しみで仕方ありませんね!!冬咲さんと友達になったら、一緒にクレープを食べに行ったり、映画館に行ったり……。楽しみだなぁ〜。
その後はいつも通りに授業を受け、トイレでご飯を食べて放課後になった。
私は意を決して校舎裏に行くと、そこに待っていたのは、いつも教室内で騒がしいグループの男女でした。
数は……6人ですね。
「おっ!来たじゃん!」
「まじかぁー!今からお楽しみできんの?てかヤっちゃっていいの?」
「いいよー。こいつ最近調子乗ってるから、そろそろわからせてやんないと」
「うっわ!悪いぃ〜」
私が来たことで興奮し始め、一気に盛り上がりを見せ始めました。繰り広げられる下卑た会話を聴きながら、私は今までを思い出していました。
私は今まで必死に耐えてきました。痛いのも、辛いのも、冷たいのも、全部耐えてきました。
……今日はその全てを精算します。
「んじゃ早速始めるかぁ〜」
「だな!んじゃまず脱がせてからーー」
今日という日を持って今までの私は、おしまいです。
私は一気に近くに立て掛けてあったクイックルワイパーに駆け寄り、手に取ると、目を剥いた男子一人の鳩尾に向かって突きを放った。そして、腹を抱えてうずくまるのを横目に、二人目の股間をハイキックで蹴り上げた。
「な!?はっ!?何が起きてんだよ!これッ!」
「わ、わかんないよ!早くあいつどうにかしろよ男子!」
「はぁ!?お前こそ手伝……がふッッッ!?!?」
「音緒!?てめぇよくも……うッ」
最後に残った女子一人に、クイックルワイパーの持ち手で突き上げた。周りを見渡せば、かつて私をいじめていた人達が、地面に倒れ伏している。
……私はこれでようやく冬咲さんの隣に立てます。私は私をいじめた人達に、自分で勝たなければ冬咲さんには顔向けできなかったのです。
私は額についた水を感じながら、呟く。
「あれ?雨が降ってきちゃった」
どこかから雨なんて降ってないんだけど、というツッコミを受けたように感じますね……。
「いや……雨だよ」
というか、あの角からひょっこり顔を出しているのは冬咲さんですね!
「冬咲さん!!見てましたか?」
「え〜と……はい。なんというか、凄かったです」
冬咲さんは若干戸惑いながらも返事をしてくれました。そんな冬咲さんに私は改めて伝えなければいけません。
「冬咲さんっ!」
「ッ!!は、はい!!」
「私は冬咲さんに色々と助けていただきました。ですが、今私が返せるものはありません……」
「え、え〜と、返す必要はないんだけど……」
「それでは私の気は治りません!」
「ひ、ひゃい!」
冬咲さんの善意は、無償だということは知っています。ですが、私はそれで納得いきません。少し驚いている冬咲さんはいつも通り可愛いです。きっと私はまだ冬咲さんに返せるものは少ない。そして私は冬咲さんのお願いを未だ保留にしている。
なので、まずはそこから返すとしましょう。私は冬咲さんに対して、今度はこちらからお願いをした。
「冬咲さん!良ければ私と友達になりませんか?」
冬咲さんは驚きながらも満面の笑みを浮かべてーー
「……もちろん!よろしくね陽菜ちゃんっ!」
これで古見陽菜視点は終了です。ここからは友達としての陽菜ちゃんが見れることでしょう!
それはさておき、まだ中学生編ですからね!?
みなさんお忘れなきよう!




