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第31話 抜け駆け

  いよいよ医療従事者へのワクチン接種が日本でも始まった。


  ところが、ワクチンをめぐってクリニックでちょっとした騒ぎとなる事件が起きた。


  アコガレクリニックは医師会に加入していないため、医療の情報がなかなか入って来ない。


  コロナワクチンも例外ではなかった。


  医師会に入っている病院のスタッフは、自院でワクチンを打つか、優先的に医師会会場などでワクチンが早く打てるようになっていた。


 医療従事者は、一般より早くワクチンを打つように言われていたのだが、アコガレクリニックのスタッフは、ワクチンの予約が取れず不安な状態が続いた。



 そんな中、院長は、セッカチさんと自分のお気に入りのスタッフのみ、併設している内科のドクターに頼んでいち早くワクチンを打ってもらった。


 ワクチンの予約が取れないと焦っているスタッフの間で、こうした院長の行動に不満と落胆の声が上がった。


 「自分たちだけ先に打ったの?」

 「私たちも打てるように頼んではくれないの?」


 パートさんたちが嘆いているのをよそに、私はセッカチさんから、院長が社員のワクチンだけは確保していると聞かされていた。


 「ハナコさんも早く打てるように手配してあるのよ」

 社員は休まれたら困るし、パートとは貢献度が違うからという理由であった。


 それを聞いた私は複雑な気持ちになる。

 セッカチさんの気持ちはありがたいのだが、パートさんたちの気持ちを考えると素直に喜ぶ事は出来なかった。

 

 それに、今回は未曽有のコロナなので皆必死になっている。


 社員もパートも同じ内容の仕事をしているのに、こんな形で差別をして良いのだろうか?

 


 「セッカチさんがコソコソあの子とワクチンの話をしているの」

 ノンビリさんは、セッカチさんが社員とだけワクチンの話をしているのを見て心を痛めていた。



 「自分は後回しにしてでも、従業員を先にワクチン打たせるものだよ。経営者失格だ~」

 ヤンキーさんは院長が自分たちだけ先に接種した事を怒っていた。


 看護師さんたちも口々に院長の行為を陰で非難していた。


 こんな状況の中、つい最近までパートだった私が、社員になったからと言って、自分だけワクチンの予約をしてもらっているなんてとても言えない。

 何とかしてスタッフ全員のワクチンを確保できないものかと考えていた。


 そんな折、母の付き添いで他院にいくと、顔見知りの看護師さんが待合室まで来て私に話しかけてきた。

 ワクチンを打ったか? と聞いてくる彼女に、私はアコガレクリニックの状況を話し、皆がワクチンを打てる方法は無いか?と相談をしてみる。


 「うちのクリニックで出来るかも、あとで院長に聞いてあげる」  

 そう言ってくれる彼女が天使に見えた。


 「うちの院長に確認したら、アコガレクリニックのパートさん全員分のワクチンを確保してあげられる。だけど六人一組のワクチンだから、何人希望なのかはっきり決まってから連絡欲しい」  

 早速次の日、彼女がアコガレクリニックに来て知らせてくれた。


 その後、医師会に入っていなくても院長か事務長が保健所に連絡して相談すれば、ワクチンを打ってもらえる病院を紹介してくれるようだ。と教えてくれた。


 なるほど、そのほうがいいかも。

 それで予約がとれなかったら、彼女のお世話になろう。

 

 その日は日曜日で、院長とセッカチさんは休みだったので、リハビリのリーダーに私は相談を持ち掛けた。


 ヤンキーさんも横でその話を聞いていて、早くワクチンを打てるよう院長に計らって欲しいとしきりに訴えていた。


 リハビリのリーダーは、院長にどのように伝えればいいかと頭を抱えていたが、皆のために一肌脱ぐ事を約束して仕事に戻った。


 ところがその日の夜、院長から驚きの全体ラインが送られてくる。


 そこには、皆がワクチンの予約が取れないと嘆いていることに対しての非難と、院長が先にワクチンを打ったことへの言い訳が永遠と書かれていた。

 最後に、コロナの治療にあたっている人達や、高齢者のような感染及び生命のリスクが高い人達を差し置いて、接種できない事を騒ぎ立てるのは遺憾だ。と締めくくられていた。


 これじゃ~、スタッフが悪いみたいじゃないか。

 


 全体ラインが送られてきてすぐ、リハビリリーダーから連絡があった。


 院長には、パートさんたちが、ワクチンの予約が取れない事で不満に思っているから、安心させてほしい。

 社員だけでなくパートの予約もとれるようにしてもらえないか?

 あるいは、院長かセッカチさんが保険所に相談すればパートさんの予約もとれると聞きました。と伝えたそうだ。


 それを聞いた院長は、“パートさんたちが不満を持っている”という言葉に反応し激怒してしまったらしい。


 そのため、話がそれ以上進まず、他院でワクチンを確保してもらえるという話までこぎつけられなかったというのだ。


 「交渉失敗だ、申し訳ない」

 リーダーはため息をついた。


 彼の伝え方が誤解を招いたかもしれないけれど、それを差し引いても、スタッフを大切に思う気持ちがあったら、彼女らの不安を解消する努力が先で、不満を非難するものではない。


 私はがっかりした。

 


 その後ワクチン問題はこんな形で幕を閉じる。


 全体ラインで騒ぎを知ったスタッフの一人が、知り合いの勤めているクリニックに頼んで、パートさん全員のワクチンが打てるようにしてくれたのだ。


 そんなに簡単な事だったの?


 私は余計な事をしてしまったようだ。「とんだピエロだよ」




独り言


 この話には続きがある。


 院長から送られた全体ラインをみた何も知らないスタッフは「何事が起きたの?」と慌てたそうだ。

 

 私はセッカチさんからこんな事を言われる。

 「誰々さんは「私は他院で予約取れているので心配しないでください」と言ってきたそうよ。やっぱり彼女は出来た人だわ」


 「誰々さんは「私は不満ないです」と個人ラインが送られてきたと院長が言っていたわ」


 更に続ける。

 「誰々さんは、院長のことを心配して「何か手伝う事ありますか?」聞いてきたそうよ。人格者だわ」


 最後の一撃

「不満がある人は誰なのか大体検討がついているから」と伝えられた時には倒れそうになる。


 セッカチさんが犯人捜しを始めた頃、ヤンキーさんは、院長とセッカチさんがおかしいとずっと私に訴えていた。


 ノンビリさんは自分が不満に思っていると院長に思われたくないと頻りに心配していた。


 ……。


 なっ?


 ここは北〇〇ですか?




 

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