第14話 イケメン課長の課題
先輩たちが辞めて数か月、受付の内部は未だ落ち着かないままであった。
そんなある日の事、現状に危機感を抱いたイケメン課長から課題を出された。
その内容はこういうものだ。
①→受付業務が上手く回らない原因を考える事。
②→新人二人の教育計画を立てる事。
③→その資料を作り、各部署のリーダを集めて説明し、他部署を納得させる事。
最後の文章の“各部署のリーダを集めて説明し、他部署を納得させる”??
これはどういう事?
いくらお世話になっているイケメン課長と言えども、この言い草にはさすがに腹が立った。
受付がこのような状態になることは前から予想出来たはずであり、だからこそサワヤカさんを辞めさせないように引き留めてとお願いしたのだ。
今になって騒ぐなんて……。
フシギさんと相談する。
「そうなんだ~困ったね~」
「でも私は出来ないから」
「ハナコさんお願いします」
「お手伝いはするよ」
サラリと責任を放棄する。
「……」
もしかして私がやるの?
「……」
社員がいるのにパートの私が?
???
ふざけるのも大概にして!!!
そうは言っても周りから「駄目だ、駄目だ」と言われ続けるのは悔しい。
負けず嫌いの性格も手伝ってか、イケメン課長に言われたことで、私のやる気スイッチに火が付いた。
「今に見てろよ」
「受付に文句を言えないようにしてやる」
たどり着いた答えは、新人二人でもわかりやすい資料を作り、教えなくても自分で仕事が出来るようにする事だった。
今になって考えるとあり得ないことなのだが、当時の受付にはマニュアルがなかった。
次の日から私はマニュアル作成に取り掛かった。
しかし、マニュアル作りは大変な作業で、ほぼ毎日業務終了後と昼の休憩時間を使ってコツコツ作業し、何か月もかけて受付全過程のマニュアルを作り上げた。
因みに、マニュアル作成や資料作りは、私が自主的にやったものとみなされ無給となった。
九年経った今でも、私が作ったマニュアルがそのまま使われているというのに……。
腹立たしい気持ちはあったが、マニュアル作成を通して、私の業務理解が深まった事と、マニュアルが完成した時には、喜びと達成感で心が満たされていた。
余談ではあるが、院長は、人より多く働くスタッフや仕事が出来るスタッフも、そうでないスタッフと同じ給料で働かせていた。
業務内では到底終わらない仕事量だとわかっていながら「そこは上手くやりくりするものだ」と言って、残業を認めなかった。
従ってサービス残業は自主的にやっていることにされていた。
というより上司が進んでサービス残業をしていたので、段々とそれが普通の事なのかも?と思うようになり、サービス残業の時間もどんどん増えていった。
人手不足の部署リーダは、一か月以上も休みを取れないことがよくある。
「ブラック企業だ」と騒ぐスタッフは退職に追い込み、無給で働くスタッフや休みなしで働くスタッフを褒めたたえ、正しい姿と洗脳していた。
「出来る人が出来ない人をカバーすればいい。それが助け合いというものだ」
美しい言葉である。
しかしこの言葉に騙されちゃいけなかったのだ。
労働の対価としてお給料はきちんともらうものだから。
これはやりがい搾取である。
※やりがい搾取→やりがい搾取とは、経営者または依頼者が本来支払うべき賃金や手当、料金の代わりに、労働者に「やりがい」を強く意識させることでサービス残業や無償労働を勧奨し、本来支払うべき賃金や料金の支払いを免れる行為を言うらしい。
私が“やりがい搾取”に気付くのはもう少し先のことであるが、早く気づいていれば、この後の行動が変わったかもしれない。
マニュアルが出来たことで、新人二人は仕事が徐々にできるようになっていった。
気づけば、いつの間にか他部署からのクレームもなくなっていた。
新人さんが育つ中、フシギさんは変わらずの仕事ぶりである。
遂に私も我慢の限界を超えた。
「このままでは私の精神が持ちません、フシギさんを教育してください、いくら私が年上だと言っても、パートが社員さんに業務改善を要求するのは難しいです」
業務連絡のため受付に降りてきたイケメン課長を捕まえて私は懇願した。
程なくして、イケメン課長のフシギさんへの教育が始まった。
受付で何か問題が起きるとイケメン課長が飛んできてフシギさんを叱り、インシデントを書かせる。
インシデントは主にフシギさんが書くことが多かった。
ある日の事、イケメン課長の予約患者が来院するやいなや「今日は治療が終わったらすぐ帰りたいので先会計にしてください」と言ってきた。
こういう場合、受付から二階にいるスタッフに連絡して、担当の理学療法士(PT)さんの判断を待つことになっている。
治療内容によってお会計が変わる場合があるからだ。
しかしフシギさんは、PTに確認することなく勝手に承諾しお会計を済ませてしまったのだ。
これに気分を害したイケメン課長は、フシギさんにインシデントを書かせた。
ところがフシギさんは、何故怒られているのか理解できず、イケメン課長の思いとは全く違う反省文を書いて提出した。
普通インシデントは、新人でもない限り、書き直しはさせないものだが、なんとフシギさんは10回も書き直しさせられてしまったのだった。
反省文を書く方も大変だがそれに付き合う方も大変だ。
どうやらイケメン課長は、フシギさんの教育に熱くなりすぎてしまっているようで、インシデントの内容もだんだんエスカレートしてゆき、「性格改善」と称して、しまいには、「私の駄目なところはこういうところです、今後はこうなおしていきます」という反省文を書かされていた。
これはパワハラだよね?
私はフシギさんに対して後ろめたい気持ちになった。
フシギさんの教育をお願いしたのは私ではあるので、イケメン課長にあれこれ言える立場ではなかったが、流石にこのやり方には賛成できなかった。
次回はフシギさんが退職します。
独り言
イケメン課長の教育は凄かった。
フシギさんがインシデントを書いて二階にいる彼に提出する。
するとすぐにイケメン課長が受付にやってくる。
「こんなのインシデントじゃない、やり直し」と言って突き返す。
「どのように書けばいいですか?」フシギさんが涙目になる。
「そんなの自分で考えて」冷たく突き放す彼。
隣で仕事をしている私はいたたまれなくなっていく。
9回目のインシデントを書いているフシギさんを見て、黙っていられなくなり助け船を出すことに。
「私が反省文を作るからそれを写して出してみて」と言ってみる。
フシギさんが私の書いた文章を写して提出した。
しかしこれで終わらなかった。
イケメン課長が真っ赤な顔して私のところにやってきた。
「これアミコさんの文章ですよね?余計な事しないでください」
そして反省文はボツになる。
イケメン課長!アウト!
それはパワハラです‼




