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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アンラッククエスト

作者: 鍵宮ファングA(エース)


『いいかリルビス。人生において、不幸の数と幸福の数は等しいものだ』

 祖父、ライディンは少年に言う。しかし少年は意味が分からず首を傾げる。するとライディンは続けて言った。

『たとえ不幸が続いても、必ずその分、いいことが返ってくる。今は分からなくても、いつか理解する時が来るだろう』


「うーん……やべっ、もうこんな時間だ!」

 街外れの墓地 勇者の墓、もといライディン像の前。赤髪オールバックの少年が目を覚ました。白い鎧に身を包み、刃こぼれまみれの剣を背負い、ワイン色の瞳は好奇心からなる輝きに満ちている。彼の名前は、リルビス。何を隠そう、彼はこの墓に眠る勇者・ライディンの孫なのだ。そして彼の目標は、その祖父を超えギルド最強の男になること。

 しかし、彼には大きな枷がかけられていた。それは、超が付くほど“運が悪い”ことだった。

 冒険者たるもの、遺跡や洞窟を探索するのは言うまでもない。しかし、足を踏み入れれば岩に追いかけられ、針山に落ちそうになり、水のトラップにどんぶらこと流される。それ故、“勇者の孫”と言うブランドに惹かれ付いてきた仲間は日に日に減り、つい先日、最後の仲間が逃げて独りになった。その寂しさを紛らわせるため、酒を浴びるように飲んだ結果、何故か祖父の墓の前で倒れてしまった。

「いいことが返ってくる、ねぇ」

 リルビスはぼやくように呟いた。何とか冒険者になれたというもの、これと言ったいいことが返ってこない。爺ちゃんの言う通り、いいことが起きると信じて耐えてきたが、流石の彼も限界が近かった。

 だが、ここで折れたら爺ちゃんの顔に泥を塗る!

 折れそうな心でも、彼は根性でどうにかして心のヒビを補強した。

 とその時、背後から声をかけられた。

「これはこれは、疫病神のリルビスじゃあないか」

「ガロア、何の用だ?」

 現れたのは、この街一番の御曹司ガロアだった。リルビスとは対照的に青髪ロング。高身長ルックス最強と言った、まさに神が本気で作り出したような男。更に、武器も防具も、金に物を言わせてピカピカの超合金製。剣には、悪魔を一刀両断する退魔の鉱石が使われている。総額は、きっと1億なんてもんじゃないだろう。

「お前がついに独りになって、酒に溺れたと聞いてねぇ。どんな気持ちか聞きにきたのさ」

「ほぉん。別に、オレは何とも思ってないけど? お前こそ、仲間は集まってんのか?」

「勿論。お前のおかげでね」

 言うとガロアは、指をパチンと鳴らした。すると、どこからともなく二人の仲間が現れた。一人は男で、スキンヘッド。もう一人は女で、バンダナの似合う盗賊だった。しかも、リルビスは二人と面識があった。

 なんとこの二人、かつて彼のパーティに所属していたのだ。言わずもがな、どちらも不幸体質の彼に命の危険を感じ、脱退した。

「久しぶりだな、疫病神」

「相変わらず、お爺ちゃんに泣きついてるの?」

 二人の言葉に、彼を仲間と思う気持ちはなかった。むしろ、仲間じゃないからこそ、今までの鬱憤をぶつけている。

「どうだ。俺の財力にかかれば、人はいくらでも雇える。この二人は、お前のモノにしちゃあ勿体無い才能がある。いやあ、君が不幸体質でよかったよ」

 ガロアは皮肉まじりに言う。それに便乗するように、二人も口々に彼を馬鹿にする。

 だが、リルビスは聞かないふりをしていた。何故なら、彼らの怒る理由は自分にある、と自覚しているから。

オレが不幸なせいで、周りも巻き込む。それを知った上で、黙って危険な目に合わせたオレにも落ち度はある、と。だから、何も言い返さない。

しかし、ガロアが放った一言に、彼は目を血走らせた。

「爺さんが死んだ理由、もしかしたらお前のせいかもな」

 冗談だったのだろう。しかしリルビスにとっては、冗談なんて軽いものじゃなかった。普段怒ることのない彼だったが、この時ばかりは噴火した。

「テメェ、今何つった!」

「お? 図星か? やっぱり、爺さんも不幸な孫を持って、さぞ大変だったろうね」

「ガロア、今回ばかりは絶対に許さん!」

 リルビスは怒りを拳に乗せ、ガロアに殴りかかる。しかし、彼が指を鳴らすと「ガロア様を殴らせまい」と仲間が前に出た。男の肉壁で拳の勢いを殺し、女の俊敏な攻撃で、リルビスはタジタジにされた。

 そしてガロアも調子に乗って、リルビスの顔を踏みつける。草と土が口に入り、気分が悪くなる。

「疫病神ごときが、俺に歯向かうからこうなるんだ」

「どうせ、不幸続きで何もできないんだから。もう辞めちゃえば?」

「ギルドのためにも、ジジイの名誉を守る為にもな」

 屈辱的に倒れ伏すリルビスに、三人は言う。その時、幸か不幸か絹を裂くような悲鳴が街から聞こえてきた。空には黒胡麻のような何かが飛んでいる。

 間違いない。奇襲だ。それも、悪魔の。

「ガロア様、これは一大事ですぜ!」

「どうするんだい? やっぱり行くのかい?」

「勿論。新品のコイツで、首から真っ赤な鮮血の花を咲かせてやろうぜ!」

「「おー! 流石ガロア様!」」

 カチドキを挙げると、三人は悪魔の待つ場所へと向かった。わざとリルビスを踏みながら。

 変な音がして、彼は背中を押さえる。まさか骨折したか? いや違う。

「おっ、腰痛くねぇ。ラッキー」

 なんと踏みつけられたことで腰の骨が動き、痛みが引いた。そう、彼は全く気にしていなかった。それどころか、空の胡麻に目を輝かせていた。

「ヨシ、俺も急ごっと!」

 ガロアの後を追うように、彼も現場に向かった。


『久々のシャバは最高だぜ! お前ら、好きなだけ喰っちまえ!』

 居住区の一角、そこは見るも無惨な姿に変わっていた。

 燃え盛る家。

 市民の悲鳴。

 子供の泣き声。

 焦げた肉の悪臭。

 鮮血の雨。

 辺りに散らばる人だったもの。

 五感全てに、絶望と恐怖を植え付ける、地獄よりも酷い世界がそこにあった。

 そして、どの悪魔よりも大きな悪魔が、我が物顔で街道を闊歩していた。

 悪魔は骨が剥き出しで、首には頭蓋骨のネックレスをしている。

「貴様、俺の街から平和を奪って、タダで済むと思うなよ?」

『何だ貴様? まさか、お前が勇者の孫か?』

 悪魔は指をさす。だがすぐさま、ガロアは反論した。

「あんな疫病神と一緒にするな。お前はこの街の御曹司、ガロア様が討つ!」

「テメェの好きにさせるもんかよぉ!」

「行きますわよ、ガロア様!」

『フン。真・魔王軍幹部候補が一の俺様、フールに敵うかな?』

 言うとフールは亜空間からプレートのような大剣を召喚し、振り下ろす。

 しかし、大将に傷は付けさせんと、男が壁となり剣を防ぐ。その背後から、女の瞬足を活かした剣舞を繰り出す。そして、ガロアがトドメの一撃を放った。退魔の力が発動し、フールは苦しそうにもがく。

 しかし喜んだのも束の間、フールは演技をやめた。

『なーんてな』

 するとフールは剣を振り下ろした。男は再び壁になろうとするが、重みに耐えきれず、真っ二つに斬られた。

 目の前で仲間が死に、残った二人の顔は青くなる。

「う、嘘だろ……」

「ああ、もうやってられないわ!」

 その時、女は叫びながら逃げた。

「お前! 俺を、ガロア様を置いてどこに行く! お前だけ逃げるなど許さんぞ!」

「あんたのために命を落とすなんて、いくら積まれても嫌よ! 悪く思わないで!」

 声と共に、女の姿も小さくなる。

 男は死に、女は裏切った。目の前には凶悪なフール。ガロアは絶望した。

「ま、待ってくれ! 金ならいくらでも出す! だから、僕の命だけは――」

『例外はナシだ。大人しく俺様の糧になりやがれ!』

 ダメだ。交渉すら通じない。僕は、ここで死んじゃうんだ。ガロアは恐怖のあまり震えて声も出せず、後ずさりをする。

 とその時だった。

「ちょわーっ!」

『な、何だ?』

「やいデカブツ! ここであったが百年目、勇者の孫・リルビスが代打になってやらぁ!」

 なんと、リルビスが遅れてやって来た。

「疫病神、どうして……俺は、お前に……」

「あ、そうだ」

 思い出したように言うと、なんと彼はガロアの顔面に渾身の蹴りを入れた。ガロアは折れた歯と共に飛んでいく。

「お前、助けに来たんじゃ?」

「爺ちゃん侮辱した分返しにきた。それに」

「それに?」

「アレと戦うなんて、燃えるじゃあねえか!」

 コイツ、底なしのアホだ。ガロアは思った。

『俺様も、ナメられたものだな。こんな弱そうな勇者の孫に挑まれるとは』

「じゃ、オレから行かせてもらうぜ! うおおりゃあああ!」

 リルビスは抜刀し、フールに突撃した。フールは、余裕の笑みを浮かべ攻撃を待つ。そして、剣が当たった時、弱々しくポキリと言い、剣が折れた。

「うわぁ⁉︎ 折れたぁ⁉︎」

『所詮はその程度。死ねいっ!』

 フールはリルビスを蹴った。リルビスは呆気なく飛んでいき、ガロアよりも奥へと飛ばされる。だが、リルビスは折れた剣でブレーキをかけ、再び走った。

 そして道中、ガロアの剣と取り替える。

「おい! そんなことをしても無駄だ! お前まで死ぬぞ!」

「生憎、オレは不幸でね。だけど、不思議と今の今まで死んでねぇのよ」

『聞くまでもない。真っ二つにしてやる!』

 フールは大剣を振り下ろした。

 リルビスは咄嗟に剣を盾代わりにし、攻撃を防ぐ。すると、今度はフールの方の大剣がポキリと折れた。

『折れただとっ⁉︎』

「でも、オレは必ず生きて“帰ってきた”。そう、それがいいことだったんだっ!」

 リルビスは言い、ニヤリと笑った。

 その頃、フールの折れた剣先は20メートル先の辺りに突き刺さった。しかも偶然が重なり、部下の悪魔が放った魔法が剣に当たり、反射してその先にいたフールに直撃した。

『何ぃっ⁉︎』

刹那、大爆発が巻き起こり、衝撃と驚きでフールは剣を上空に投げてしまった。

 そして、上空に飛んだ剣は勢いをつけて主のもとに帰り、頭に突き刺さった。

『グオォォ!』

 そして、リルビスもその隙を突いて飛び上がり、フールの胸に剣を突き立てた。

「これでどうだっ! 秘技・雑空破嵐ざっくばらんっ!」

 リルビスは、雑にフールの胸を剣で抉った。その動きは、まるで嵐が街を破壊する様に酷似していた。

『これが……勇者の孫の……ちか……ら……』

 その言葉を最後に、フールはこときれた。

その様子を見た部下の悪魔は、リルビスの強さに恐れ慄き、慌てて撤退した。

 これにて、一件落着。

「必ず生きて返ってこられるのが、いいこと。そうか、ちゃんと返って来てたんだな。爺ちゃん」

 静寂に包まれた街の一角で、リルビスは呟いた。


 翌日。リルビスは、ライディンに花を手向けた。

「見ててくれ爺ちゃん。オレ、絶対に魔王軍ぶっ潰してやるから。それまで、街のことよろしくな」

「やっぱり、行くつもりか?」

 名残惜しそうに、ガロアは声をかける。その手には、花束がある。

「魔王って強いだろ? ならオレの不幸と魔王の力、どっちが強いか試したいだろ?」

 答えると、ガロアは笑った。

「単純な奴め。本当に……」

 しかし、あることを思い出して言った。

「それとお前、剣返せ」

 すると、リルビスは下手な口笛を吹き誤魔化した。

まさか。察したガロアは、杜若の花束を投げて叫んだ。

「この疫病神がぁぁぁ!」

 不幸な男の冒険は、まだまだ続く。

製作秘話 この作品を作るにあたって


 まず今回の作品を思いついた経緯なのですが、私自身が爺ちゃんっ子というのもあり、丁度現在配信中(7月13日現在)のエグゼイドにてタドルクエスト(RPGゲームが元のアイテム)があるのを見て思いつきました。ぶっちゃけ今回の作品は、作中の『うわっ、折れた⁉︎』をやりたいがために書いたと言っても過言じゃな(殴

 ネタがわかる人ならば、これが誰も台詞か判るはず。そう、龍騎です。主人公のイメージは、戦隊レッド+龍騎といった感じです。(わからない人は、動画で『龍騎 折れた』で検索すると出てくるはず)

 

 次にキャラクターの名前の元ネタです。

 これは初期案では登場人物は皆鉱石から名前を捩るつもりだったのですが、急遽路線変更をしたのでリルビス以外ボツに。リルビスは元々サファイヤ(日本語名・瑠璃)から取って青がイメージカラーのキャラにする予定でしたが、熱血バカならレッドやろ! と自己ツッコミをして、瑠璃から捩った『リルビス(リルを反転するとルリ)』をそのままに赤くなりました。

 その代わりにガロアが、ルビーとサファイヤ(ポ○モン)的な関係性から青くなり、鉱石はどっかに行きました。由来は思いつきなのですが、偶然にも『ファイブマン』に登場する敵キャラである『ガロア艦長』と被りました。

 そして彼を御曹司にした理由ですが、金持ちが金で解決しようとしてしくじる所見たいじゃん? という考えからこうなりました(クズ)

 最後に悪魔の名前ですが、これはネタが切れたので遊戯王の『デーモンの召喚』みたいな見た目にソロモン72柱の悪魔『フールフール』の名前をぶち込みました。はい終わりでーす!(デーン!)

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