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サイゼリヤー①

鬼気迫る顔つきで男達が歩いている。男達は急かされるようにある目的地へと向かっていた。その目的地とはサイゼリヤであった。

犬は避け、子供は凝視するなり泣き出した。討ち入り?復讐?そんな物騒な言葉が男を見た誰もが感じた。話は遡る。


「お前ほどわかっていない奴は見たことがない。バッファローモッツァレラのピザにダブルチーズを()()()()だ!それにトウガラシフレークをパラパラ振るのだ。これが赤ワインに一番合うのだ!」


男達は想像した。ダブルチーズよく焼きにより、溶け広がったチーズの大地。そこに降り注ぐ赤いトウガラシフレーク。それは、未踏の雪原に放たれた薔薇の花びら。それを頬張りワインで流し込もうと言うのだ。あんまりにも強欲だ・・・。ある男は喉を鳴らした。

向かいあう男は一瞬あまりに想像力を掻き立てられ身体を揺さぶるようにしながらも、すぐに体勢を建て直した。己の信ずるサイゼリヤーをぶつけるためであった。



「ミラノ風ドリアをよく焼きだ!それにトウガラシフレークを()()()()()()()。これに決まってる!軟弱者め!!ピザ?女子供でもあるまいに。なにがパラパらだ!このうつけ!!


男逹は想像した。ミラノ風ドリアと言う約束された大地。そこにあろうことか、トウガラシフレークをこれでもかと振りかけたのだ。それはさながら地獄。地表を割り、流れ出したマグマ

と呼ばれるトマトソースに飲まれたトウガラシフレーク。辛みを帯びたソレは、さながらこの世における暴力だろう。それを神の血とされる赤ワインで流し込もうと言うのだ。旧約聖書における大洪水。思うにこの情景から想像力が働いたのだろう。つまりサイゼリヤが神へと登る階段なのだろうか?それは定かではない。


牙を向き譲らない男であった。双方どちらの意見も正しいように思えた。だが一つ、決定的な勝敗と呼ばれる優劣はハッキリとついていた。ドリアの男が言った。


「辛みチキン。」


「あ?」


「貴様のピザ。同じ金を払えば、俺のドリアには辛みチキンをつけられる。」


秘密を打ち明けるようにしながら、男が呟いた。驚愕・・・。一同を襲った感情を一言で表すならばそれだろう。地獄の顕現。それだけでは飽きたらず、サタンまで召喚しようというのだ。ミラノ風ドリア、辛みチキン、デカンタワイン。サイゼリヤ三竦み。そこに我々を巻き込もうというのか?その三つから攻撃・・。口撃と表すべきだろうか?それを受ければ女、子供はとろけ、男は怒りをあらわにするに違いない。


『日本経済に対する挑戦状を叩きつけやがったっ!!』


侵略は、千葉県市川市八幡(サイゼリヤ一号店地)からとうの昔にはじまっていた。


勝敗は決したかのように見えた。三竦み。それにバッファローモッツァレラ(牛?)が対抗できるはずもなく敗れた男は俯き、項垂れた。己が信ずるサイゼリヤーはマイナーと位置ずけられてしまったのである。これにより、


えー?バッファロー(牛?)頼むなら三竦み(ミラノ風ドリア、辛みチキン、デカンタワイン)頼もうよー・・・(ガッカリ)。


このように揶揄されつつ分かってない男のレッテルを張られる。落伍者。それが彼には相応しい烙印のように思えた。当然というべきか、追い討ちをかけるべく男が捲し立てる。


「ハハハハ!確定だな!バッファローピザァ?貴様のなピザなど、犬だ。犬畜生の餌だ!昨今貧困の増えた家庭に求められるのは財布にも優しいミラノ生まれの家庭料理なんだよ!!」


俯いていたピザの男が、それを聞いて顔を上げた。信じられない物を見たような目付きであった。いや、その顔はみるみるうちに歪んでいった。そして姿を変えた。嘲笑のそれへと。


「あぁ。()()()ね。アッハッハッハ!コイツハお笑い草だ・・・!」


突然の復活は誰しもが、ただの悪あがきか、もしくは自己の存在理由(アイデンティティ)を破壊されてしまったことで狂ったのだと解釈された。だが、事実は異なっていた。先程まで狂ったように笑い転げていた男がスッと静かになり仏のような神妙な面持ちで言った。


「ドリアは日本発祥だ」


静まり返った一同。狂ってしまったのだと憐れみに身を寄せた者。笑いを抑え、次のピザの男のあがきに期待を寄せる者。サイゼリヤの根幹を揺るがすその学説。どこか天動説に近しいものがあった。誰しもが嘲笑や憐れみに身を傾けていたが一人冷静に中立に立とうと動いた者が居た。手早くスマフォを取りだしGoogleにアクセス。事実はかくも簡単に証明される。


「に、日本だ・・・ドリアは横浜ホテルニューグラウン生まれの日本料理だ・・・?!?!。」


地が動いた錯覚は男逹に刻まれた歴史という名のDNAから来たのであろう。だがGoogleはホントウだと示していた。男逹の中に一人、勝ち誇った笑みを浮かべた男が居た。ピザの男である。


「誰が、誰が!おろかなのか、わかっただろう・・?!ミラノに行け!ミラノに行ってこい(いや、ミラノ風にか?)。探せ!ドリアを国中を探し回って、の垂れ死ねっ!!」


顔を真っ赤にし、言われるがまま怒りに震えるドリアの男。なにもそこまで言わなくていいじゃないか・・。哀しさと己に対する情けなさ。男の涙はこうも簡単に流れる。地は覆ったのだドリアは日本発祥であった。根幹を揺るがすソレは一人の男を黙らすには十分すぎた。

だが、ドリアの男のサイゼリヤーとしての魂が覆ったところで割れることはなかった。プライドこそは無知がゆえに粉々ではあるけども。立ち上がれたのはサイゼリヤに対する深い愛情からである。


ピザの男に近寄ると頬に無言で拳を叩きつけた。言葉では伝わらないことは確かに存在するのであった。もちろんピザの男も負けてはいなかった。己の愛を確かめるようにドリアの男の腹に拳を突き立てたのである。どちらのサイゼリヤ愛が上かなど、こんなもので量れるはずはないのに・・・男逹は最期まで立っていた者の愛が上なのだと、言わずとも伝わっていた。男とは、なんと悲しい生き物なのだろうか。

この戦いに勝者は居ない。何故なら、激しい殴り愛の末、どちらも死んでしまったからである。男の良い所は別に何時でも特に意味もなく死んでいいところである。

簡素ではあったが葬儀は二人一緒に行われた。悲しみは渦巻くように流れ、正義は血こそ流したものの勝者はどこにも居なかった。49日を終え男逹は誰が言うでもなくポツリポツリと集まった。答えはどこにあるのだろう?真理は何時、辿り着けるのだろう。それを探し求め彷徨う魂は誘われ、太陽に誘われるイカロスのようにヴァルハラへと向かっていく。


話は戻る。


男逹がサイゼリヤに向かい歩いて行く。中には悲痛の面持ちの者もいる。その誰しもが哀しみに暮れていた。愛は勝利者を望まない。弔いはかねてよりサイゼリヤで行うこととなった。それは真のサイゼリヤーを決める。そんな下らないものではない。お互いを尊重しあいサイゼリヤを存分に心行くまで味わうのが目的の行軍なのである。はじめっからこうすれば良かったのだと誰しもが一度は心によぎったが、ついぞ口にするものは居なかった。かくして男逹は進んでいく。









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[良い点] みつるさん節が全開でマクドコーヒー吹きました 『男の良い所は別に何時でも特に意味もなく死んでいいところである。』 名言です
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