お父さんには勝てないや
娘が一人暮らしをするために家を出たので親父と二人暮らしする事になった。
やもめの男二人。これまでうまく娘が家事をやってくれていたがこれからは全部俺がやるのか。自信は全くない。
「いよいよ俺の人生も終盤だな」
いきなり暗いな。
「お前も還暦か?」
「来年な」
そうか。赤いチャンチャンコ。俺もおじいちゃんの仲間入りか。
「何とか人生の目標の二つの内一つは達成できそうだ」
「目標って何?」
「お前が立派に還暦を迎えるまで健康でいることさ。お前が産まれた日。そう心に決めたんだ」
おっと泣きそうになったぞ。何だよそれ。普通二十歳だろ。
「それなら俺も娘が還暦になるまで生きようかな」
「俺と同じじゃダメだ。緑寿を目指せ。子供に負けるのが親は何より嬉しい」
緑寿ぅ?ってことは息子が66才になるまでか。とてつもなく長生きしないとなぁ。
「頑張ってみるよ。ところでもう一つの目標は?」
「もう達成したようなもんだな。子供に迷惑かけない事さ。一人暮らし頑張れよ」
「一人?」
・
翌日。親父は自ら手配していた老人ホームに入って俺が還暦になった翌年に死んだ。
遺言もしっかり残しており、困ることはなかった。
子供に負けるのが親は何より嬉しいと親父は言っていたけど俺は一生親父を越えられる気がしない。