葡萄の国の王女
3 葡萄の国の王女
「王女様、?」
あたしはその聞き覚えのある声の女性に問いかけた。
王女様、はあたしのその問いに答えた。
「あなたは面白いわね!サンタクロースを手伝ってみたいだなんて!!ああ、私はあの時の声の者だわよ!」
「!」
あたしは びっくりして蛙と王女様の顔を見上げた。二人は面白げにあたしの顔を見たのだった。
「よかったら、ネムって呼んでちょうだいね。この蛙は、」
「ネでいいよ!そういえば、笑い仲間になったはいいけどキミはなんて名前なんだい??」
王女様のネムと蛙のネは続けて言った。あたしの名前、?何だっけ、、。
「あたし、あたしの事なのに名前も何も知らないの。その、、死んじゃったばかりだからかなぁ???」
あたしはネに答えた。ネはあたしの事を可哀想だと、思っているような目であたしを見たのだった。
すると、王女様のネム、だからネムさんと呼ぼう、そのネムさんは、
「そう…。では、可愛らしい女の子なのだから、そうね…、可愛い→、いとしい→、いとし。私はイトシ、そう呼ぶわ。イトシ、よろしくお願いね」
イトシ、。何だか愛し、だから愛しいと想われてるかのようで、赤面しそうになった。
ネはネで、可愛らしい名だ、と納得している様子だった。
あたしはネムさんに嬉しくって感謝をした。
「あたし、名前をまた もらえるなんて思ってませんでした!キラキラ心が輝いてます!
本当にありがとう!」
「ところで、イトシさん、あなたに紹介したい人が居るのよ。あの流れ星を見て」
ネムが言った。と、ネムは流れ星に微笑みかけてこう言った。
「スー、こっちへいらっしゃいな」
スーは流れ星だったらしかった。スーはネムの方へキラキラ光を散らしながら来た。
スーは話し出した。
「ネムちゃんたら、また誰か見つけてきたの。で。今度は誰」
スーは女子中学生のように話す流れ星だった。ネムの友達なのだろうか。ネムは答えた。
「スー、聞いてちょうだいな。葡萄の国に新しい女の子を呼んだの。人間の可愛い、女の子。名前は、」
言葉を引き取り、あたしは答えた。
「イトシです。ネムさんが付けてくれたの」
「そうなの!ちなみにちなみに私、スーって言うから、スーちゃんって呼んでね。もうっ、こんなに可愛い子がいるなら早く言ってよね!」
スーはちょっとプリプリした。だけど、ネムを見てる目はやっぱり友達を見てる目なのだった。あたし、は聞きたくなって聞いてみた。
「二人は友達なの?ネムさんとスーちゃん、は?」
二人は見つめ合った。二人は今にもプッと吹き出しそうになっていた。だけれども最初に吹き出したのはネだった。
「ネ、どうして、あなたが最初に笑うのよ」
ネムはそうネに聞いた。
ネは言った。
「だって、、笑、!」
「ねぇ?スーちゃんさん!」
スーは言った。
「言わないでよね、ネ、本当に恥ずかしいから!」
あたしは不思議に思って聞いていた。え、ネムさんとスーちゃんさんは、二人、何かあったの?恥ずかしい思い出?
「スーちゃん、ネを止めれても私を止めれないわよ、私がイトシに言うから」
ネムがからかった。
「ちょっ、やめなさいよ!ネム!」
ネムはスーのようすを面白そうに見ていた。
って、ネムさん、からかい屋さんだったんだなー!
スーはあたふたしている。
「ターク、スーが困ってるわよ〜?」
「ネム!やめてっていってるじゃん!」
おふざけはそれぐらいにして。
と、スーと同じ空から声がした。
たぁくん!と、スーは言ってにこにこした。
「イトシ、月の精のたぁくんよ。スーの恋人なの」
ネムは言った。スーはあわてて、
「なっ、!ちょっと、ネム!恥ずかしいじゃない、やめて!!」
と言った。
「スーさんはいつもたぁくんのことを話す時はにこにこします」
ネは楽しそうな顔でそう言った。
「ネまでー!!」
スーは真っ赤になった。
「もう!たぁくん、助けてよぉ」
スー、そんなに私のことが好きなんて、
私はとてもとても幸せ者ですよ。
「たぁくん!そうじゃない…でしょ……っ」
スーの顔はますます、赤くなった。もはや、スーは恋する乙女そのものだ。
イトシは少し、羨ましくなった。でも、素敵だなと思ったのだった。
「ネム、これ以上何か言ったら……!!!」
真っ赤な顔になりながら、スーは言った。
ネムはにっこりした。
「あら、スーったらもう、勘ぐり屋さんねー。私は羨ましいだけよ。それに、面白かったわ。」
あたしは緊張もしたけれど、仲がいいふたりを見てると楽しかった。ふたりを見ながら、私はふと、思ったことがあったので、ふたりに尋ねてみた。
「ネムさん、スーさん。あたしにも素敵なその、スーさんの恋人さんのような人、できるかな」
ふたりは顔を見合わせて、あら!と言った。そして、答えた。
「旅をしてれば会えるわよ。私には分かるわ。イトシには素敵な人に会えるって。」
ネムがそう言うと、
「あら、巡り逢えるでしょー、その方がロマンティックじゃんねー」
スーがこう言った。
それを聞いていたネはモジモジと少し赤くなった。それに気付いたものはまだ誰もいなかった。
「イトシちゃんなら、カッコいいカレに巡り逢えるって!」
ハッと自分の態度に気付いたネはドキマギした顔をしていた。
「どうしたの?ネさん」
イトシが聞いた。
「なんでもないです…。」
「?」
「ただ…。イトシさんには私は幸せになってほしいです…!」
ネは赤くなってイトシに背を向けた。
イトシも皆も、ネがどんな気持ちなのかは知らなかった。まさか、そんなことあるの?と疑問にすら思わなかったのだった。
「さて」
ネムは仕切った。楽しかったが、話が脱線していた。
「自己紹介をしていたのよね。もう、大体のメンバーは揃ったわ。」
「スーが送ってく!イトシちゃん、スーに乗って?」
流れ星のスーはイトシをそう、うながした。
えいっ!
あたしは乗ると、ふわふわ、あたたかかった。
「スーさん、どこへ?」
あたしが聞くとスーは、
「サンタさん、に会いたいんでしょ?」
そして、連れてってあげる!と、ニッコリ笑って言うのだった。
びっくりして、あたしは、
「そうだけど、本当に!?」
と言ってしまった。
するとスーは、
「優しい子になら会ってくれるよ、サンタさんは」
そう言ってから、
「もう着くよ!しっかり掴まって!」
とギューン!とスピードを上げた。
「わっ!速い!スーちゃん、すごい!」
「当たり前!」
スーより速い流れ星はいないもん!と、
もっと速くなった。
「ほら、着いたっ」
「ここ?」
確かにトナカイさんがいるし、サンタさんもいるかも。
「うんっ!」
トナカイさんがこっちを見ていた気がしたので、
「こんにちは、トナカイさん」
あたしは少し笑いかけながら挨拶してみた。すると、トナカイさんが一瞬、こっちをじっと見つめて、それから近付いてきた。チリンチリンと首に付いている鈴の音が鳴っていた。
「撫でていいと思う?」
あたしはスーに聞いた。
「いいと思うよ」
トナカイさんも頭を下げて、撫でてほしそうにした。そっとあたしはトナカイさんの頭を撫でた。
「綺麗だね、キミの毛は」
ぐー、とトナカイさんは甘えたような声を出した。
「あはは!この子、イトシちゃんを好きみたい」
「えへへ、そうなのかな?」
ぐー、ぐー、とトナカイさんは嬉しそうに鳴いていた。それから、しばらくすると、またあたしの瞳をじっと見つめた。それから軽い足取りで、小屋のそばから離れて歩きはじめた。そして、ついておいで、と言っているかのようにこっちを振り向いた。
「どこいくの?」
あたしがそう聞くと、応える様子はなかったけど、じっとあたしが来るのを待っている様子なのだった。
「イトシちゃん、いっておいでよ、また逢いに来るし、イトシちゃんも逢いに来て!」
「そんな!スーも付いてきて?」
あたしはスーとしばらく逢えなくなるので寂しかった。
でもスーは、
「こらこら、トナカイちゃんを待たせちゃダメじゃん!あたしはずっと空からイトシちゃんの事、見てるから大丈夫、寂しくなんてないよ!」
そう言って、にこっ、と笑った。
「スーちゃん…」
そうだよね…。また、逢えるよね?
「ほらほら、トナカイちゃんが待ってる」
あたしはスーとお別れする事が名残惜しかったけど。
ちょっとの時間だったけど、みんなと楽しく笑い合ったあの時を忘れたくなかったけど。
少しの間だけ、さよならだね。
だから、『あの時』を忘れないためにあたしは、
「スーちゃんー!また逢おうね、約束だよ!」
って言ったんだ。
スーも、
約束ねっ!
と言ってくれて、あたしは嬉しかった。
楽しげに笑い合うふたりは、もう仲の良い友達だった。
でも、それから、
じゃあねっ!とそう言うと、スーは遠くの空へ見えなくなってしまった。さよならの言葉も聞かないなんて、何だかスーらしいや、と思いながら、ばいばい、って見送った。
ちょっぴり寂しいけど、また逢う時までだから、大丈夫。大丈夫。
スー、ありがとう。みんなも、ありがとう。あたし、忘れないよ。また、逢いに行くね。
…そうだ、いけない!トナカイさんが待っててくれてるんだ!あたしはトナカイさんを見つめてから、
「待たせてほんとうに、ごめんね」
待たせてしまったことを謝った。
すると、いいよ、と言ってくれてるみたいにトナカイさんは、ぐぅ〜、と鳴いた。
あたしはホッとして、トナカイさんにまた、話しかけた。
「あのね、トナカイさん、聞きたいことがあるの。あなたは、えっと…サンタクロースさんを知ってる?」
そうすると、ぐぐぅ〜!と、トナカイさんはまた鳴いた。