個人的「ズッコケ三人組シリーズ」ベスト5 〜那須正幹先生を偲んで〜
「ズッコケ三人組シリーズ」でおなじみの、児童文学作家の那須正幹先生が先日亡くなられ、シリーズの大ファンであり今も10冊以上、作品を手元に置いている身としては、大変なショックと悲しみを覚えた。
きっと学級文庫や図書館などで先生の作品に親しんだ方も多いと思うが、一応説明させていただくと「ズッコケ三人組シリーズ」とは、
中国地方にある稲穂県ミドリ市花山町(モデルは広島県広島市)を主な舞台に、ハチベエ(八谷良平)、ハカセ(山中正太郎)、モーちゃん(奥田三吉)の3人を中心に物語が展開される作品である。
3人の特徴をもう少し書くと、スポーツ万能だが勉強は苦手、考える前に行動するタイプのハチベエ、読書好き(トイレで読書するのが癖)で研究熱心だがスポーツは苦手、しかしピンチではその頭脳を発揮するハカセ、どこもかしこもまるまる太ったのんびり屋だが、なぜかクラスで一番女子にモテるモーちゃん。
そんな三人組のシリーズは全50巻にも及び、今回はその中から個人的ベスト5を挙げてみたい。
皆様の思い入れ作品、ベスト作品は人それぞれだと思うので、「なんだか懐かしいなあ」とでも感じていただければ幸いです。
・第5位 「参上!ズッコケ忍者軍団」
「八幡谷」という虫取りの聖地が「ドラゴン部隊」なる集団に占領され、そこの覇権をめぐってハチベエたちが戦いを挑む話なのだが、その戦いっぷりが子供の喧嘩を遥かに超越したレベルなのだ。
そもそも相手の「ドラゴン部隊」、中学生をリーダーとしたこの集団が異様に気合が入っていて、「軍曹」などと階級付けをしたり、入隊には高級エアガンかガスガンがいるという、本気のサバイバル戦闘集団と化している。
ハチベエたちは谷の解放のために一度戦いを挑むものの完敗してしまい、特にハカセとモーちゃんはかなりの「屈辱」を味わう……。
ここから今度は逆襲作戦を立て始めるのだが、これが実にワクワクする。
武器を作って戦闘特訓をし、敵の情報を集め……さらに胸が踊るのは、シリーズの準レギュラーとも言える「かわい子ちゃん三人組」までもが参戦するところだ。
挙句はハカセがピッキングまで覚え、決戦前夜には敵陣に「罠(毒?)」まで仕込む徹底ぶり。
若干のやりすぎ感も感じるが、それほどまでにハカセの「屈辱」は恨み深かったのかもしれない……。
とはいえ、一度はコテンパンにやられるも最後はスカッと大勝利を収める王道展開に、子供ながらに興奮を覚えた。
・第4位 「あやうしズッコケ探検隊」
ふとしたきっかけから3人は無人島に漂着し、サバイバル生活の末に……。
この物語、今読み返すと「ハチベエのおじさん」が気の毒で仕方がない。
というのは、本当は四国に住むハチベエの親戚のおじさんに連れられ、近くの無人島でキャンプをする予定だったのだが……おじさんの急用で3人は留守番をすることになり、つまらないからと自分たちで勝手にモーターボートを操縦し、ガス欠になり漂流してしまったのだ。
そしてとある島へたどり着き、サバイバル生活を送ることになる。
子供の頃は「サザエ」や「ユリの根っこ」が美味しそうだなとか思ったり、だんだんと島の様子が明らかになっていく展開にドキドキしたりしたが、今ではもうおじさんの心労が心配でならない。
(ちなみに、この「サザエ」が3人の居場所を示す伏線だったりする)
後半には島に、日本には野生でいるはずのない「OOOO」が生息するとわかり、それを生け捕りにできるか!?という、手に汗を握るクライマックスが待ち受ける。
そして、この「OOOO」がなぜこの島にいたのか、その「OOOO」のせいで大怪我をするなど、多大な被害を被ったとある人物。
この両者にまつわるエピソードは人間の身勝手さや、戦争や人生観についても考えさせられ、単に漂流記&サバイバル話で終わらないのがさすがの一言だ。
・第3位 「とびだせズッコケ事件記者」
いわゆる「壁新聞」を作る話で、今回は3人がそれぞれ分かれて記事のネタを探すのだが、当然それぞれの個性が出ていて面白い。
これを読んで以来、「風月堂」と聞くとモーちゃんを思い出してしまう。
ハチベエなどは名刺まで作って「サツ回りのブン屋」になるなど、とても小学生とは思えない発想力と行動力を発揮している。
今回のキーキャラとして「探偵ばあさん」なるおばあさんが出てくるが、この探偵ばあさんのキャラ立ちと立ち回りが半端ない。
正直いうとこの探偵ばあさん、勘違いが多く近所の人が寝ているだけで「殺されている!」と交番に駆け込むようなキャラで、3人もひと迷惑被るのだが、後半ではハチベエの「スクープ」の提供者になったりする。
喫茶店でハチベエが「スクープ」の張り込みをするシーンはいまだにドキドキする。
そして、最後にもう一つ「事件」に関わるのだが……。
「壁新聞作りの話」というテーマのラストに、あんな手柄を三人組に持たせてスカッとさせる上、「結婚」「独り身の高齢者」についてまで話を膨らませるとは、先生の手腕には脱帽としかいいようがない。
・第2位 「夢のズッコケ修学旅行」
3人の修学旅行の話であり、これを読むたびにもう一度、小学生に戻って修学旅行に行きたくなる。
最初は(というか、だいたいいつも)空回りばかりのハチベエは後半まさかの「大抜擢」をされ、クラスの賞賛を浴びるし、ハカセが博物館で憧れの考古学者と会う場面は、個人的にこの本の中で一番好きだ。
そんな「夢」のある話を展開する2人に対し、今回のモーちゃんはお腹をすかせるか食べるかばかりだが、冒頭でモーちゃんは姉のタエ子姉さんととある「取引」をする。
その取引がまあまあ、エグいのだが、あれに疑問を抱きつつも「まあいいか」で済ませるモーちゃんのおおらかさ、見習うべきなような、もう少し考えた方がいい気もするような……笑
全く本とは関係ないが、自分の修学旅行の思い出といえば高校の時、夜にホテルでの麻雀大会(もちろん賭けは一切ナシ)で、役満の「大三元」をアガれたことだ。
しかしながら、あれでかなりの運を使ってしまったのか、その後は陽の当たらない道をずいぶん長く歩むことになってしまった……笑
・第1位 「うわさのズッコケ株式会社」
この作品、確か公式のズッコケシリーズ人気ランキングでも1位だった気がする。
それもそのはず、イワシ釣り客目当てに商売を始め、さらにはその事業を株式会社化してクラスメイトから資金を募るという、ワクワク感満載の話……では当然終わることなく、
中森というラーメン屋の息子を仲間にしさらに事業を拡大したはいいものの、そうは世の中うまくいかず、次第に暗礁に乗り上げる事業。積み上がってしまった在庫。
ついには、株主からも会社の今後について問い詰められ……。
そんな時、モーちゃんが出会ったとある「問題客」が、実は日本屈指のOOだったと判明したあたりから風向きが変わり始め、最後は舞台をタエ子姉さんの高校に移し、3人と中森だけじゃなくクラスのみんなで……。
クラス1のかわい子ちゃんである荒井陽子が、働き終えたあとにハチベエに告げたあのセリフ。
ハチベエだけじゃなく、自分も口元がだらしなくなったのは言うまでもない。
株式会社を立ち上げるという子供離れした展開(特にハカセ)の一方では、汗水垂らして働くことの大変さと喜びもきちんと語っている。
もう、文句なしに1位である。
さて、以上が個人的ベスト5だが、他にも「時間漂流記」「山賊修業中」「海賊島」「児童会長」「財宝調査隊」などなど、ご紹介したい作品は山ほどある。
ズッコケシリーズの魅力については一言ではとても語りつくせないのだが、このエッセイを書くにあたり読み返して驚いたのは、その圧倒的な「濃度」だ。
児童向け作品らしく非常に読みやすいのに、一冊一冊の物語に詰め込まれた要素の多さ、内容の深さと濃さに、今更ながら感服した。
いくつもの伏線や風呂敷を広げつつも最後には綺麗にまとめきる鮮やかさ、そして時には人生や社会の不条理さ・理不尽さまで織り交ぜる様子に、何度もため息を漏らしてしまった。
いつか自分に子供ができたら、ぜひズッコケシリーズを読んでほしいと、切に願う。
改めまして那須正幹先生、ご冥福を心よりお祈り申し上げます。