十六話「反撃、そして」
将真の攻撃の驚きから覚めた杏果は、吸血鬼を警戒しつつも、離れた位置にいる将真と莉緒の様子を横目で伺う。
(……なーんか、話してるわね。何するつもりかしら)
負傷したリンの代わりに出てきたのは見ていて何となく分かった。
杏果としては彼の行動は意外で、少し見直したくらいだが、果たしてこの強さの吸血鬼を前に一体、どれほどの事が出来るのか。
とりあえず二人の作戦会議が終わるまでは、迂闊に動かない方がいいと杏果は判断し、いつでも動けるようには構えている。
そうして、将真と莉緒が少し距離をとると、話は終わったようで将真が駆け出した。
恐らく無計画に、無警戒で行動している訳では無いだろうが、その姿は正直、隙が多い。
すぐにでもフォローに入れるように、杏果もまた、吸血鬼に向かっていく。
吸血鬼はすぐ、二人の動きに反応し、構えると共に血装で盾を生み出す。
そして盾を前に構え、将真目掛けて突撃する。
先の攻撃で将真を敵と認めはしたが、それでも一番、実力で劣っている。だからこそ、真っ先に潰そうというのが吸血鬼の狙いだ。
将真が通用する、と言う事が希望になり得ている以上、潰せば戦力以上に精神面でのダメージも予想される。
莉緒と杏果が仲間に及ぶ危険を無視して、吸血鬼を倒すことに専念すれば、時間はかかるが二人がかりでも倒せなくはない。
だが、仲間を慮りつつ上級の吸血鬼を倒すには、戦力不足が否めない。
だからこそ、将真であっても戦えさえすれば。戦力が増すだけで、その分取れる選択肢が増える。
突進してくる吸血鬼を、将真は敢えて迎え撃つ。
突き出される盾に向かって刺突を放ち、受け流されて滑るように吸血鬼の横をすり抜ける。
明らかな隙が生じたが、吸血鬼は攻めることなく将真を見逃し突き抜けた。
その直後、吸血鬼がいた場所に杏果が重い一撃を振り下す。
横目で杏果の接近を確認していた将真は、杏果がいる方向とは逆へ、敢えて隙を見せることで吸血鬼の動きを誘導しようと試みたのだ。
その策は気づかれてしまったようだが、それでもめげずに再び吸血鬼に向かって駆け出す。
まだ魔術の扱いに慣れていない将真は、遠距離からの攻撃手段を持っていない。
ならばどうするか。
正直、どうしようもないというのが答えだ。但しそれは、彼が一人で戦っていたらの話だ。
吸血鬼が、その進撃を見て後退しようと後ろへ地面を蹴る。
「__〈アースウォール〉!」
「むっ!?」
杏果の手により、その背中に出現した土の壁が、吸血鬼の後退を許さなかった。
その結果、吸血鬼に大きな隙が生まれる。
「うおおおおぉッ!」
再度棒が黒い渦を纏い、吸血鬼は振り抜かれるその一撃に、咄嗟に盾を前にして受ける。
黒い棒は、赤い盾を強く叩いて容易く粉砕してしまった。
「なんと!?」
「__オマケッ!」
驚き目を見開いて隙が生まれる吸血鬼。その顔目掛けて、将真は空いている手を握り、魔力を纏わせた拳を振るう。
隙と言ってもそう長い時間ではない。加えて将真の拳は吸血鬼にとって速いと言えるようなものではなく、すぐ受け止められると思われた。
だが、将真が直前に放った突きは、吸血鬼の盾だけでなく、その背後の土壁も壊していた。
そしてその背後から。
「__血装に守られてない部分なら、大して頑丈でもないみたいッスね!」
「ぐぅっ!?」
気配を消して潜んでいた莉緒が、無防備になっていた吸血鬼の腕を切り飛ばす。
追い詰められ、立て続けに驚かされる吸血鬼は、莉緒の方に意識を強制的に向けさせられて将真の拳に反応できない。
吸血鬼の顔面に拳が突き刺さり、その体が浮いて吹き飛んだ。
「将真さん、ナイス!」
「いや、ダメだ。利き手じゃない左手じゃ、そんな強く殴れない!」
「十分ッスよ!」
確かに綺麗に入ったが、それでも大したダメージにはなっていない。拳に伝わる感覚から将真はそう思っていた。どうせすぐに再生してしまうだろうと。
だが、莉緒の予想は違った。
将真に殴り飛ばされる前の吸血鬼の姿を確認したが、装甲に入ったヒビは小さくなっていたものの修復しきれていなかった。
そこから莉緒が思い至った可能性。
(将真さんの魔力は、何故か回復に時間がかかる。なら、例え吸血鬼相手でもダメージを残せる!)
地面を跳ねて転がっていく吸血鬼。本来ならばすぐにでも立て直せるはずだが、そうしないのはとうに治癒するはずの傷が治らないことに動揺している証拠ではないか。
「立て直す余裕はやらないわ__〈アースランス〉!」
「ぐおっ!」
更に追い詰めるために、杏果が再び魔術を放つ。
今度は壁ではなく、巨大な土の槍が吸血鬼の背中を打ち据える。
それでも血装を破るほどの威力はないが、無防備な吸血鬼の体は容易く打ち上げられた。
「やってくれるじゃないか……っ!?」
悔しそうに、それでいてやはり楽しげな笑みを消さない吸血鬼。
流石に彼ほどの実力であれば、宙に浮かされたとしても体勢を立て直すことは可能なようで、動揺も落ち着けばすぐに反撃に移ろうとする。
__その目の前に、先程よりも強烈な渦を巻く棒を振りかぶる将真がいなければ、吸血鬼も硬直はしなかっただろう。
「……何なんだ、君は」
思わず、楽しげな笑みすら忘れて、吸血鬼が呆然と呟く。
杏果の打ち上げに合わせて、吸血鬼を追うように跳躍した将真。身体強化魔法を施せば、多少の高所でも届くのはわかる。
だが、あまりにタイミングが良すぎた。
それだけでなく、先の吸血鬼の進行を防いだ土壁を破壊し、莉緒の攻撃しやすい状況を作った事と言い、莉緒を利用して拳をぶつけたことも、そもそも拳に魔力を纏わせることだってしたことは無いはずだ。
状況判断が今までの将真の比ではない。これだけ条件が整えば、莉緒は何となく理解した。
小隊を組んだ時、彼に聞いた話は正直、莉緒を驚かせた。だがそれは、小隊を組む前に出来なくなってしまったとも言っていた。
だから、彼女にその理由は分からない。分からないが、確信した。
「……ゾーンに、入れなくなったって、言ってたはずなんスけどねぇ」
そう。将真はゾーンに入っていた。「入った」訳ではなく。
今まで自発的に入れて、それが出来なくなって、今になって偶発的に入る事が出来た。
その状態は、あまりに的確に将真の体を動かす。
「おおおぉぉぉっ!」
咆哮と共に、放心する吸血鬼目掛けて振り下ろされるその一撃は、初任務の時と酷似していた。
だが、あの時のように、無造作に暴風が撒き散らされたりはしなかった。
代わりに、吸血鬼の血装を砕いた直後、彼を中心に凄まじい魔力が竜巻のように渦を巻いた。
吸血鬼の断末魔が聞こえるような気がするが、竜巻の音が煩くてよくわからない。もしかしたら空耳かもしれないのだが。
「……ぐぅっ!」
吸血鬼に一撃を加えて着地した将真は、すぐに襲ってきた腕の痛みに顔を顰める。
その痛みは、リンを庇った時よりずっと酷い。やはり、まだアレを制御するのは無理があったのだ。
それでも、初任務の時の暴走に比べれば幾らかマシだった。
そして莉緒が、将真の様子に心配そうに駆け寄ってくる。
「将真さん、大丈夫ッスか?」
「……ああ。とりあえず大丈夫だ。それより莉緒」
「なんスか?」
「まだ終わりじゃない。竜巻が切れたら、足だ」
「っ! ……ほんと、急に冴え渡るんすからよくわかんない人ッスね。まあ了解ッスよ」
莉緒は了承を示すと、離れた位置にいる杏果とアイコンタクトをとる。
そうしているうちにも竜巻は消えて、血装も体もボロボロになった吸血鬼の姿が顕になる。
「フーッ、フーッ……」
息を荒らげて、明らかに余裕が無い吸血鬼に対して、将真は再び、棒に渦を纏わせていく。
そうして準備が終わり次第、駆け出して迫ってくる将真を前に、僅かながら吸血鬼が後ずさる。
吸血鬼は、そんな自身の行動に驚いたように一瞬、足元に目を落とし、すぐさま狂喜を浮かべた。
「……私が逃げる? 冗談じゃない!」
強烈な一撃を貰ったばかりだと言うのに、再び放たれようとするその攻撃を迎撃でもしようというのか地面を蹴る吸血鬼。
その体が、踏み込んだ直後に崩れ落ちた。
「〈日輪舞踏〉__“七輪華”」
莉緒の神技が、遂に血装を貫通し、足を切り刻んだのだ。
だが、莉緒の攻撃は将真のものとは違い、再生を阻害する特殊性は持ち合わせていない。
すぐに再生させて反撃を、と。そう思い将真を見た吸血鬼は、先程の棒を下ろして、莉緒と同様に距離をとる姿を確認した。
その行動に理解が及ばなかった吸血鬼。その上空が、雲でもかかったかのように陰って、徐に頭上を見上げる。
そこにあったのは、キングオークすら容易く叩き切った、身の丈の二倍を上回るかと言うほどの巨大な戦斧、超高火力の一撃を振り上げる杏果の姿。
再生が追いつかない。繰り返される攻めに追い詰められた吸血鬼は、満身創痍で動けない。あとは杏果が戦斧を振り下ろせば決着がつく。
__王手。
「チェックメイト、これでおしまいよ__!」
「…………ああ、そうだな」
吸血鬼は、この期に及んで笑みを消さなかった。
但しその笑みは、先程までの楽しげな、或いはヘラヘラとしたものではなく、酷く穏やかな表情だった。
杏果の一撃が、吸血鬼の体を血装ごと叩き切り、血飛沫が宙に撒き散らされた。
「……なんてやつ」
そして、吸血鬼の姿を見下ろす杏果は、呆然と呟く。
確かに頭から叩き割ったと思ったのだが、なんとあのタイミングで回避行動を取ったのだ。そのせいで頭は無事だ。
尤も、首筋辺りから入った杏果の一撃は体を深々と切り裂き、その傷は心臓まで達していたが。
(……超級以上になると、心臓や頭潰しても一度じゃ死なないって聞いた事あるけど、上級程度ならこれでもう復活して来れないはず……)
まさかここから復活してくるとは思えないが、最悪の予想に杏果は表情を固くし、警戒の姿勢を解かない。
少し離れたところからジリジリと近寄ってくる将真たちも、同じくまだ立ち上がってくることを警戒しているようだった。
だが、暫く待っても再生する気配は訪れない。
杏果の攻撃力は凄まじいが、腕を飛ばされても瞬時に再生していたところを考えると、杏果の攻撃では吸血鬼の再生を止めることは本来できない。
それが出来たということは、吸血鬼に確実な致命傷を与えた事に他ならなかった。
「……いや、見事だよ。退屈しのぎになればいいと思っていたらこのザマだ。まさかこんな子供に負けるなんて、微塵も考えなかったよ」
死に際にありながら、吸血鬼は笑顔で将真たちを賞賛する。
その姿に、生に執着する様子も見えない。敵に殺されたことに恨み憎しみを感じない、実に清々しく爽やかですらあるその表情は、逆に将真たちに気味の悪さを感じさせていた。
「知っていると思うが、吸血鬼は長命でね。これでも、上級の中ではかなりの古参で実力にも自信があったけど、だからこそ退屈だったのさ」
「……そんな理由で襲われる方は迷惑極まりないないんだけどな」
「そう言われてもね、長命な吸血鬼は大多数が同じさ。常に退屈を感じて、暇潰しを探しているよ」
「まさかとは思うけど、高位魔族の中でも吸血鬼がよく目撃される理由がそんな事じゃないでしょうね?」
「そのまさか、だと私は思うね」
「げぇ……」
吸血鬼の返答を聞いた杏果が再び、少女にあるまじき下品な呻き声をあげる。
「つい楽しみすぎちゃったけど、他の吸血鬼が私と同じく油断で隙だらけだとは思わない事だね。……っと」
そんな会話をしていると、吸血鬼の体が指先から崩れ始めていた。サラサラと、少しずつ灰になるように、粒子になった体が風に散らされていく。
「おや、もう時間か。まあ、退屈しのぎで死ぬのは馬鹿らしいけど、楽しかったからいいかなぁ。ありがとう、魔術師の卵たち__」
そして最期には、敵であるはずの将真たちに向けて、感謝すら述べながら完全に塵となって消えていった。
漸く緊張が解けると、将真が膝から崩れ落ちた。
「ぐぅおぉぉぉ……」
「あっ、将真さん、腕大丈夫ッスか!?」
「……げっ、グロい!」
「失礼なやつだな……」
とは言え、杏果の言う通り、高出力の魔力に焼け爛れた腕は大変なことになっていた。最後の一撃を放つ前には、既に抑制装置たる篭手が壊れていたからしょうがないのだが。
以前よりマシになった、と思っていたのだが、これではどうなのか分からない。
「ったく、しょうがねーやつだなぁ」
「……おっ」
不意に、将真の体を引っ張り上げて立たせたかと思うと、そのまま肩を貸してくれたのは響弥だった。
猛は勿論、そんなことをするような性格ではない。
どうやら傷の応急処置を自身で終わらせたらしいリンもまた、片側の肩を貸してくれた。
改めて皆を見る将真。その姿は満身創痍という言葉が似合いすぎるほどボロボロだ。
だが、生きている。この面子を持ってして、全滅してもおかしくないと言われるほど強い吸血鬼を前にして。
その事実は、彼らに何より、安堵を与えるのであった。
「……じゃあ、今度こそ帰るッスかね」
疲れたようにため息をついて、そう宣言する莉緒の言葉に、全員が同意を示した。
彼らは帰還すると、すぐさま連行された。その場所は学園の医務室ではなく、都市内で最大規模を誇る魔術師専門の病院だ。
そこで全員が全員、検査や治療を受け、怪我の程度はあれど念の為入院。その翌日に柚葉から詳しい話を聞かされることになった。
「今回の任務は無事完遂よ。難易度もワンランク上がって、中隊規模でのAランクになったわ。正直、高等部に上がりたての学園生にやらせるもんじゃないわね」
吸血鬼かどうかまでは流石に分からなかったようだが、それでも彼女の秘書である楓が、任務の違和感に気づいたようだった。
任務から帰還後の対処が早かったのは、念の為、小隊を率いて救援に来ていたという楓が一部始終を見ていたからだった。
「まさか手助けをするまでもないとは思わなかったよ」
「まあ、向こうが遊び感覚でやってたってのが大きいんですけどね……」
感心したような言葉の楓に、むしろ杏果は苦虫を噛み潰したような表情をする。
今回の任務、最も重症だったのは杏果で、次いでリン、将真という結果だった。
尤も将真は自傷ダメージの為、格好がつかないのだが。
杏果はやはり、最初の不意打ちで顔面に一撃貰ったのが大きかったようで、むしろその怪我で動き回っていたこと自体がおかしいと言われていた。
実際、今も顔中ガーゼや包帯だらけだ。
彼女の不屈の精神力を、再確認させられるような報告だった。
そしてリンも、斬られた傷が要因だ。
そこまで深い傷では無かったのだが、吸血鬼の血装による攻撃は、出血を伴う傷の治癒を阻害する効果があるらしい。
そのせいで、応急処置をしたはずなのに、リンは都市に到着する直前で力尽きるという心臓に悪い状況に陥っていたのだ。
つまるところ、将真に肩を貸している場合ではなかったのである。
勿論、今ではそれもだいぶ回復して、杏果同様この報告会に同席しているのだが。
ともあれ、杏果の表情だ。何を考えているかは将真でも何となくわかった。
何故ならそれは、程度の差はあれど、各々が感じていた事だからだ。
「相手は上級で、血装が使えるほどの相手だった。不意打ちされて、戦力落とされた後で全力出されてたら今頃、自分たちは運が良くても墓の下ッスね」
「……うん。力不足だね」
莉緒の嘆息に、美緒も同意してしゅんと表情を暗くする。
美緒の気持ちは尤もだ。何せ彼女はガス欠で、吸血鬼との戦いに参加できなかったからだ。それは佳奈恵も同様だったが。
ちなみに、一番怪我もなく、多少の疲労で済んでいた静音だったが、それを誰かが責めることは無い。
あの戦いに参加していたところで、彼女が無事だった保証がないからだ。
何より、離れて美緒たちを背にしながら吸血鬼を警戒していた彼女がいなくて、万が一吸血鬼の狙いが動けない美緒たちに向いた場合を考えると、むしろ賞賛すらする思いだった。
次点でダメージが少なかったのは響弥。
元々、杏果同様頑丈さには自信があり、吹き飛ばされて少し強く体をうちつけた以外のダメージは殆どなかったのだ。
猛ですら吸血鬼に殴られた傷で、杏果に比べればだいぶマシだが顔の骨が砕けるほどのダメージを負っている。
「……ほんと、悪かったわね。私がもっと早く気づいていれば、流石にこんな任務を学生に振ることは無かったんだけど」
「まあ、いいですよ。違和感ったって、そう気づけるもんでもないし、しょうがないです。全員無事生き残って任務も完遂した上で、明日にはほぼ完治するらしいですし。学園長が言ってたみたいに、いい経験だったと思う事にします」
柚葉に非があるわけではない。経験則で気づけた楓と、オークの生態から違和感を覚えた将真以外、誰も第三者の可能性に気がつかなかったのだ。
仮に命を落としていたとしても、外での任務に出る以上、覚悟は出来ている。その瞬間を良しとできるかはともかくとして。
だから、皆の意見は概ね杏果と同じだ。
そうして、恙無く報告は終了した。
正式な報告書は、一応指揮の中心を担っていた莉緒が、仮のリーダーとして書くことになった。それが決まった時は、本人は嫌そうな顔をしていたが。
どうせ明日には全員が退院の目処が着いているとはいえ、しっかりと体を休めるようにとだけ言い残して、柚葉は自分の仕事に戻って行った。
「……将真くん、本当に大丈夫?」
「まあ、何とかな。俺よりも、リンも結構危なかったと思うんだけど」
「ボクは大丈夫だよ。もう傷もだいぶ塞がったし……、あっ、傷口は見せないよ」
「見せろなんて言うつもりもないし見せるもんでもないだろ……」
リンは少し茶目っ気を混じえて、胸を隠すように腕を抱くが、勿論将真にそんな気は無い。
むしろ少し呆れを覚えたくらいだが、和ませようとしてくれたのだと思うと邪険にも出来ず、仕方なく苦笑を浮かべる。
「……庇ってくれて、ありがとね」
「いや、あんな事態になるまで、俺は全然動けなかったしな。むしろ申し訳ないくらいだけど……」
「むぅ、感謝してるんだから素直に受け取ってくれればいいのに」
「わ、悪かったよ。ちゃんと受け取ります」
頬を膨らませるリンに、いいように両頬を遊ぶように抓られ、腕を動かすのが辛い将真は抵抗したくともしようがなかった。
前にもこんな事があったな、と考えている間に、リンは満足したようでパッと手を離す。
「……俺さ。また守られて、足引っ張ってばかりなんて事にならないように、強くなるよ。今回みたいな怪我、させたくないし」
「うん。皆きっと、同じ気持ちだよ。だからボクも強くなる。まだまだ将真くんには負けないんだから」
そう言って、明るく笑ってみせるリンにつられて、将真の顔にも思わず微笑が浮かんだ。
__今はしっかり休んで、また明日から頑張るとしよう。
「ねぇちょっと。人前でイチャつくの辞めてくんない?」
「「し、してないやい!」」
これにて一章完結です!
二章も楽しんで頂けると幸いです。
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