中島先生の助言
中島先生、、使わせて頂きましたm(_ _)m
「痛ってええ~、」自分の声しかしなかった。穴の下の世界は実に静かだ。
「おおーい、チロル~!」
やっぱり何処にもいない。これはそう不思議な国のアリスみたいだ。アリスもウサギに誘われて穴の世界に入るんだ。でも、あんな世界観は嫌だな。不思議で酔ってしまうような世界。
(アリスは最後にもとの世界に戻れたんだっけ!?)
不安なまま歩いていると声が聞こえた。それはチロルだ。
「さあ、ゆっくりしている暇はないよ。」とそう言うと扉を開ける。
「待ってよ!」僕は急いだ。
中は、見覚えがあった。ケーキの部屋だ。小さくなったり大きくなったりする例の部屋だ。不思議な国のアリスの世界観はあそこから怖くなる感じがした。
「僕もあのケーキを食べないといけないのかな。」
「何言ってるの!?そんな時間はないよ。」
チロルは今の僕でもギリギリ入れそうな扉の鍵を開けた。
「え、、、でも、テーブルの裏の鍵は?涙の池は?」
「そんなものはないよ。」とチロルは辛辣だった。僕は仕方なく彼女の後ろに付いていった。
「いいかい、余計なことをしないでね。」とチロルは歩きながら僕に忠告する。ずいぶんと偉そうで、チロルらしくなかった。僕の知っているチロルは何かをやらかした後にお母さんに叱られているそんな感じだ。
「それにしてもよく出来た世界だね。」
「何言ってるの!?君が創った世界じゃないか!」とチロルは言った。でも、僕にはこの世界を創った記憶はないし、そもそもこれはオリジナルじゃなくて、不思議な国のアリスのパクリじゃないか。
「グズグズしてられない。限られた時間の中で君をなるべく多くの人に会わせないとね。」
チロルの言っていることはちんぷんかんぷんでもうしっちゃかめっちゃかだった。
「いいから、君は私に付いてきてね!?」
3年ぶりに再会できたチロルはちっとも可愛くなかった。昔はあんなに可愛かったのに、なんだ、今の偉そうな態度は。それは、言葉が分かり合えるからかもしれない。
チロルが最後の扉を開けると森へと出た。でも、日本の森には絶対にないような色のものばかりだった。パステルピンクとか光る紫とか目がチカチカとした。夜更かししてしまった後にみる朝日のようにまぶしい。
(そうだ!この森で、チロルから逃げよう!)
そこで僕はタイミングを何度も見計らった。時間に任せていても一向に彼女に隙が出来ないので、別のことに意識を持っていこうと思った。
「あのさ、チロル。俺たち家族との一番の思い出って何?」
「そうね、、、。」
彼女は深く考え込んでいた。
「海に行ったのも楽しかったし、毎年夏にやっていたバーベキューも良かったね。それに・・・・」
(今だ!!!!)
俺はすかさず茂みの奥へと入っていった。
森は鬱蒼としていて、インドネシアの熱帯雨林にいるような気分がした。トラやクマやカバやワニやサメなんかが出てこないかなっと不安になっていた。朔風が耳を襲うと何かの気配がした。
森の奥を凝視する、、、。大きなキノコだ。
(なんだ、キノコか、、。ビックリした。)と安心していたらキノコの上にそいつはいた。イモムシのはずのそいつは、キノコの上で寝そべる学校の担任の中島先生だった。
「おいおい、なんだね君は!?」
相変わらずいけ好かない感じ、今時珍しくたばこを吸っている。たばこの煙がローマ字のように揺れては消えて、何かを僕に伝えているみたいだ。
「誰だね、君は?」
「僕は、、、、。」
あれ、おかしい。自分の名前が出てこないなんて。
「もう一度聞く。誰だね、君は?」
「僕は!僕は、、。」
「自分の名前も分からんのか!?」中島先生は嫌みっぽく言ってきた。思い出そうとしても、どうしてもダメだった。
「僕、名前を思い出せないんです。先生!僕の名前を教えてください!」
「私は先生じゃない!それに君に分からんことは私にも分からん。」
先生は俺を突き放したような言い方をした。その口調を相変わらずで、何故か懐かしくも感じる。
「こんなアリスの世界みたいな所に来ちゃって、もう帰りたいんです。」
「それも私には関係ない話だ。」
「そうだ!!」
「名前が分からないのならば、ひとまずアリスにしよう。」と中島先生は提案した。
「アリス!?」
「そうだ。自分で言っていたではないか!?」
突発的に決めた名前が何の工夫もなくて、女の子に使うものなんて、嫌だった。でも、中島先生に逆らうと宿題が増えるから、大人しくしたがった。
煙がだんだん濃くなる。むせかえるほどに。
「先生、僕、そろそろ行きますね。」
「どこに行くんだ?」
「分かりません!」
僕はこの場からすぐにでも出たかった。だから、足早にもと来た道へと戻る。
「アリス!ちょっと待ってくれ!」
「時間も命も限りがある。だから、尊いんだよ。」
先生の煙と一緒にその言葉は脳まで入ってきた。