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魂取の首飾り  作者: 斉木 明天
第二章:灰色の朽ちる吐息
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9.人狼の探し続ける宝石

 白露は多めに盛られた生姜焼き定食をほおばりながら、卯未と話続けた。

 会話をしながら、向かい合う卯未は器に盛られたスープを、器ごと翼ですくい、口元に運んでは飲む。


「ふはぁ……」

「はー、器用にやるもんだねぇ」

「昔話でもやるだろう? 鶴が壺で食事は無理だけど、器でなら飲めるって、ごくごく飲む話」

「……待った。それ、狐が器で飲めて、鶴は壺で飲んだって言う、逆な話じゃなかったか?」

「……あー」


 卯未は横に目線を流し、うんと頷く。


「そうそう。鶴にはくちばしあったけど、私には無いからね? 要は、どんな姿になろうとも、その姿なりのやり用ってもんがあるって話さ」

「あっはっは。ちげえねえや」


 少し口元を引きつって笑う卯未に対し、白露もまた、笑ってみせた。


「そういえば、今日倒した白紙賊の連中って、あれからどうなった?」

「痕跡回収班が一丸になって回収したよ。後は、さらに上の中央部へと連れてかれて……能力にリミッターとか、掛けられるだろうねぇ」

「収容、ってわけじゃないのか」

「あいにく、私達も表社会と通じている、公的機関ってわけじゃないしねぇ。拘束まですると、更に大きな敵を作る危険が膨らむんだ」

「難解だなぁ……。俺たちゃ、末端で目の前の火払うだけで精いっぱいだから、分かんねえや」


 白露はそう言い、もう一枚、生姜焼きを口に運ぶ。


「ああ、難解って言えばさ。白露も難解だ」

「んぐっ」


 卯未の問いに、白露は少し喉を詰まらせてどんどんと胸を叩き、水を飲んだ。


「けほっ、なんだって?」

「最初の話だよ。夢があって、ここに居るんだろう?」


 卯未は首を少し傾げ、白露を見る。


「ああ。そうだな……。たしかに、()()があって、ここに居る」

「なら、話してよ。別に言って困らせるような(たち)、してないよ」

「……そう、だな」


 白露は少し頬を掻き、眉を潜める。

 部屋全体の暖かい光を眺め、それから意を決し、卯未を見た。


「正直なところ。うまく自分の事言い出せないのは……入って2年、ずっと追ってるのに、その手掛かりもつかめてない自分が、情けなくて仕方ないからだ。……あまり、侮蔑してくれるなよ……」

「あんたらしくないな。大丈夫、見下しもしない。ここに居る人達なんて、みんな未練を追い続けているような人達ばかりだしさ。少なくとも、私は見下さない」

「!」


 卯未の言葉に、白露は少し目を見開いた。

 脳裏に浮かぶのは、2年前の雨の日の光景だ。


『私の所には、君と近しい境遇の子達も、たくさんいる』


 この地域の魑魅境のリーダーである、鬼の後者、鬼島(きじま)は 確かにそう言っていた。

 その言葉に、もう一度勇気を貰った。


「……妹を、探してるんだ。2年前、二人で町から離れたところを歩いてた俺たちは……人間に、俺は殺され、妹は、目の前で魂を取られた」

「……えっ」


 卯未は、夢と言う言葉とは反するような言葉が出て、小さく口を開け固まった。


「小さな、ペンダントの先に付く宝石みたいなのにな。妹は魂を吸い取られたんだ。俺は……止めようと立ち向かったら、心臓を一突きさ。自分の身体が冷たくなっていく中、妹の生気がどんどん、目の前で消えていくのが見えた」

「……妹さんの、身体は?」

「この町の、外れの病院さ。身体だけ生きて、延命処置されてさ……目を覚ましてほしいのに、俺、見ていたからさ、そこに妹が、居ないって事も、分かってて、さ……」


 白露の食事の手は、もう止まっていた。橋を傍らに置き、せっかくの料理から熱気はどんどん消えていっている。

 白露自身は、両ひじをテーブルにつき、腕を組んで、俯いた頭を乗せ、その下に影を作っていた。


「……だが、分かっている事もある」

「分かっている事?」

「そうだ。妹の魂は、アーティファクトに改造されたらしい」

「! ……だから、アーティファクトの話になる度に、辛そうにしてたのか、お前……」

「……ああ」


 白露は息を大きく吸って、ゆっくりと吐く。そして、顔を上げ、元の気の強い顔で卯未を見た。


「今日だって、アーティファクトを使う連中に、こうして会えた。俺は今でも、ここが妹の場所にたどり着くカギだって信じている。だから、この先も、ずっと戦ってみせる」


 白露はそう言い終えると、橋を手に取って食事を再会し始めた。


「さ、急な話でびっくりさせちまったな? あっはっは。 スープ冷めちまわない内に、ありがたく飲もうぜ? 三札が怒っちまうぜ? ははは」


 白露はもしゃもしゃと残っていたキャベツの千切りも食べ始める。

 しかし、それに対して、卯未は少し俯き、ぼんやりと自分のスープを眺めながらも、それを呑もうとしなかった。


「……? 卯未?」

「……自分が情けないって? 悔しくて仕方が無いって?」


 卯未は首を横に首を振るう。


「昔の事を、ずっと引きづるのって、それは苦しい事だって思うよ。でも、取り戻したいって、ずっと抗い続ける事もまた、本当にすごい事だと思うよ」

「え?」

「少なくとも、私はお前を尊敬するよ、白露。おまえは、まるでエリカみたいだ」


 そう言いながら、卯未はエリカの頬を再び優しく撫でた。


「……エリカみたいって?」

「ずっと取り戻す為に戦う、凄い奴って意味だよ」

「……な、なんか。いつも淡々としてるお前が言うと、ちょっとむず痒いな」

「んな」


 卯未は少し顔を後ろに揺らし、ガクンとする。


「素直にすげーって思ったから言ったのに、失礼な奴だな、この野郎」

「あっはっは」


 白露は笑いながら、生姜焼き定食をかっ喰らう。

 そして、空っぽになった皿をテーブルに置き、立ち上がった。


「だが、すっげー感謝。ありがとう卯未。おかげで元気になった」

「! …そうか。はは、どういたしまして」


 卯未はにっこりと微笑んだ。

 白露もそれににかっと笑い返し、食堂室を後にしようと歩き出した。


「あ、ちょっと待った」


 ふと卯未が声を出し、ぴょんっと席から飛びあがる。ちょこんと白露の進む横に立つと、鳥足をひょいっと出して白露をつまづかせた。


「うおっ!? ああああああ!!」


 意気揚々と歩いていた白露は、出された足に堂々と引っ掛かり、堂々と真っすぐの姿勢で地面に倒れた。


「げふぁっ!! いいってえええぇぇえ!! 何すんじゃい! 馬鹿卯未ぃ!」

「話はまだ終わってない。私、心当たりがある!」

「!! なにっ!?」


 痛がりながら睨んでいた白露だったが、その声を聴いた瞬間。辺りが静寂になるのを感じた。

 白露は急ぎ立ち上がり、卯未の両肩を掴む。


「妹がどこに居るのか知ってるのか!? なぜ!? ど、どういう事なんだ、卯未!」

「正確には、あんたと同じ人、知ってるって話だ」


 白露は額に汗を掻き、平常心を欠きつつ卯未に詰め寄る。

 卯未はそんな状態の白露を見て、落ち着いた顔でしっかりと頷き返した。


「ずっと、手帳書いている奴でね。事あるごとに、仲間達に声を掛けては、()()()()()()()()()()()()について、尋ねていたんだ」

「!! それって……」

「……白露が探してる物だと思う」


 卯未は、白露が息を切らしつつも落ち着きを取り戻しかけているのを見て、言葉を続ける。


「その人って言うのが、さっき話にも出てた痕跡回収班の人。名前は築炉(ちくろ)。れっきとした、魑魅境のメンバーの人だよ」


 築炉。その名前を白露は脳の中に反芻(はんすう)する。

 名前が脳内を反響し続け、奥底に染みわたっていったところで、白露は周囲で遠回しに自分達を見てがやがやと喋る、他の魑魅境達の声が聞こえてきた。

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