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魂取の首飾り  作者: 斉木 明天
第三章:妖魔吸収事件
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20.忍耐が選んだ結果

 目の前の光景を理解した次の瞬間。白露は空間内に反響する絶叫を上げながら、日加と傀儡兵の間に飛びこんでいた。

 武器を振りかざす鉄塊兵の手首を捻り、武器を奪い取ってそれを振り払う。傀儡兵を壁に叩きつけて、そちらに武器をぶん投げる。

 何故だ。なんでこうなった? 自分は、なんで()()()になれなかったんだ?

 敵への憎しみと、自分への憎しみが混ぜ込んだ脳内で、白露はそう叫んだ。


「加昼くん…!」


 白露は焦燥とした顔で、背後に振り返る。

 そこには、泣きじゃくった加夜の膝元で、まるでもう数年も目を覚ましていない病人のように、やせ細って動かなくなった加昼の姿があった。

 つい、先刻まで、自分ににこやかにレモネードを渡してきた、無垢なその顔が。全て壊れて、そこに転がっていた。

 自分は、チャンスを失いたくなかった。その為に、心から信じている先生である、鬼島隊長の言う通り。場の指示に従った。

 それが、この結果だ。

 どこがいけなかったんだと思い返しても、彼ら三兄弟に会ってからここまで、自分が余計なことをした覚えが無い。

 何もしていなかった。

 何も、流れを変えるような動きをできなかったから。加昼君が、酷い姿になり果ててしまった。

 何も変えられない。

 その瞬間だった。

 無力だったがゆえに、変わり果ててしまった妹と。無行動だったがゆえに、変わり果ててしまった加昼の姿が、自分の中で重なってしまった。


「……日加」


 気づけば、白露は澄んだ顔もちの中で日加の肩に手を置いていた。


「お前の弟二人を連れて、ここから逃げろ」

「白露? おまえ急に何を言って」

「加昼の妖力は、あいつの首飾りの中だ。だが、加昼自身の命は、今そこに居る」


 白露は、日加の顔を見る。

 その顔を見た途端、日加は体が背筋が凍り、息が一瞬止まった。

 全てが手遅れなことに、何度も疲れた顔が、そこにはあった。


「加昼の命が消えてしまったら、きっと後悔することになる。手遅れになる前に、守れ」

「……」


 日加が、少し長く息を吸った。

 そして、次の瞬間。日加の両手が、白露の両頬をひっぱたきはたいた。


「いたっ!?」


 突然の事に、白露は身をすくめる。少ししゃがんで両頬をさすった。


「急に何すんだ!」

「お前こそ落ち着け! 連携は、崩れない物が崩れた時こそ本番だ!」


 日加は、白露に対し、そう一喝し叫んだ。


「!」

「お前の気持ちは、本当にありがたい。加昼の今の状況と、君自身の後悔が重なって、激高してくれたのもよく分かる。俺だって、今目の前のあいつが許せない」


 だがな。そう言って、日加は目の前の敵に対し、鎌を構える。


「加夜! 薬を使え。そして、後方で加昼を守れ!」

「! りょ、了解!」


 日加の言葉に。泣きじゃくっていた加夜ははっとして、急ぎ裾で涙を拭った。

 そして、懐から薬を取り出すと、加夜の肌に少し塗り始めて、周りを警戒し始める。


「任務に、覚悟を決めて立ち向かった以上。当初の目的を叶える事に死力を尽くせ! 当初の目的通り、この怪人を討ち取り、事件を止め。そして、加昼の妖力を返させてもらう!」


 日加は、強くそう叫んだ。


「! 日加……」


 白露は、その言葉に、自分の淀んだ空間から。引き上げられたかのような感覚を覚えた。

 そうだ。自分は、勝ちにここに来たんだった。負け戦で、最低限誰かを助からせるために来たのではない。そのことを思い出した。

 自分自身。取り乱さず、戦いに望めてたと思ってた。なのに、実際は予想外の出来事が一つ来ただけで、予想外の事に怒りを覚え、全てを壊し、自暴自棄に相手と一騎打ちをするところだった。

 

『君は、本当に妹思いで、人情に厚い。だが、それゆえに、君は誰かが何かを奪われた、という場面で激昂する性質がある』


 そんな鬼島の言葉が蘇る。

 聞いて、分かっていたはずだったのに。自分は、分かり切れていなかった。


「……すまん。目が覚めた」


 白露は、今度は自分の両頬をパンと叩き、両足をしっかり踏みしめて立ち上がる。


「勝ち戦するぞ、日加(リーダー)。奪われたんなら、最後まで戦って、取り返す」


 日加の横で、拳を構えた白露を見て。日加は静かに頷いた。


「そうだ。目的を見失わず、その上で戦え。未練を持って不安定に蘇った我々、後者(あともの)を纏める鬼島が、紹介したんだ。お前はできるって事だ」


 白露と日加は、傀儡兵の方をぼんやりと横目に見て、未だ薄気味悪く微笑んでいる、目の前の青年に。構えて同時に叫んだ。


「「我ら魑魅境。奪う者である貴様から、全て取り返す!」」


 二人はまっすぐと、その歪んだ相手の瞳を見た。

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