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人生をやり直す話

作者: 桃園沙里

 僕の人生は後悔の連続だった。

 学生時代から二十八歳の今日まで、人生の岐路や大事な場面でいつも失敗しては後悔する、その繰り返しだった。


 最初の失敗は中学校選択だったと思う。


 小学五年生の時、両親から私立大学付属の中高一貫校の受験を薦められた。でも僕は、親しい友だちが地元の公立中学に進むので、公立中を選んだ。

 中学で僕は友だちに誘われサッカー部に入ったのだが、先輩たちのしごきに耐えられず三ヶ月足らずで退部し、一緒にサッカー部に入った友だちとは疎遠になり、こんなことなら私立中学に行けば良かったと思いながら中学生活を過ごした。


 高校や大学受験も就職の時も失敗した。


 高校は、好きだった女子と同じ高校に行きたくて高望みしたら落ち、滑り止めで受けたヤンキー高に行く羽目になったし、大学受験は分不相応の大学ばかり受験して失敗し、二次募集で不本意な大学に入学した。

 そんなだから勉強をする気が失せたし、大学も一年留年してやっと卒業できたありさまだ。


 就職も例に漏れない。

 内定をもらった企業のうち、おしゃれなオフィスの企業を選択したら、入社二年目で倒産した。


 今は、知人の紹介で近所の工場で働いているが、生き甲斐もなく彼女もできず将来の希望など持てない。

 毎日同じ流れ作業をしていると、こんなはずではなかったのに、もしあの時違う道に進んでいたら、僕の人生はこんな風にならずに済んだはずだ、と思う。

 僕が中学や高校で悩んでいる時も、大学受験に失敗した時も、私立大学付属校に進んだ友だちは楽しそうに遊んでいた。就職も、大学の先輩のコネで一流企業にすんなり決まったらしい。

 思い返せば、公立中学を選んだあの時に、僕の人生全てが決まったのだ。

 ・・・・・

 僕はインターネットのコミュニティで、同じような思いを抱えている人々がいることを知った。

 メンバーたちはそれぞれ自分の後悔の歴史を書き込み、傷を舐めあっていた。

 皆一様に言っていた。

「もし、あの時に戻ってやり直せたら……」


そしてある日、その中のメンバーが「過去に戻って人生のやり直しができる装置があるらしい」と紹介したのが、超時空間研究所という会社だった。

 その会社のホームページにはこう書いてあった。

「こちらは時空の狭間に存在する会社です。貴方の人生の時空をコントロールいたします」

 ・・・・・

 僕がその会社を尋ねると、近所のクリニックのような作りだった。

 受付カウンターの若い女性が言った。

「ご予約の方ですね。こちらへどうぞ」

 僕は診療室のような部屋へ案内された。

 部屋には白衣をした女医がパソコン画面に向かっていた。奥には日焼けサロンのカプセルのような装置がある。

 僕は、傍に立っていた助手と思われる男性に促されるままに椅子に座った。

 女医が、僕の方へ向き直って言った。

「確認のため、お名前をフルネームで、それから生年月日をお願いします」

 僕は緊張して答えた。

「同意書は確認済みですね」

 インターネットからの申込時に、大まかな後悔の歴史と、いつの時に戻りたいかなどを記入させられていた。更に、一度施術をすると結果に不満があってもキャンセルはできない旨の同意書にもチェックさせられた。

「はい」

「再度、念を押しますが、過去に戻るとこれまでの記憶は全部消えてしまいます。小学五年生の時に戻ると、そこから今日までの記憶は全て消え、また新しい人生をやり直すことになります。現在のお友達のことも全部忘れますが、本当によろしいんですね」

「はい。大丈夫です」

 確認が済むと、僕は大きなカプセルのような装置に入るよう指示された。

 僕が横になると、カプセルの蓋が閉じられ、モーター音が微かに聞こえ始めた。

 これで僕は小学生のあの時に戻って、人生をやり直せるのだ。

 ・・・・・

 女医は、装置の中に人影が見えなくなったのを確認して、助手に言った。

「あの人、これで何回めかしら」

 助手がカルテを棚にしまいながら言った。

「軽く二桁は来ていますね」

「何度過去に戻っても、結局同じ道を選んでしまうのね。人間の本質は変わらないってことね。もう、いい加減、過去を悔やむのはやめて、現状を受け入れて先に進んでくれないかしら」

「私らにとっては、いい常連客ですけどね」

「まあね」

 二人は、そう言って笑った。(了)

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