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*ミカダさんのあんまり不思議じゃない冒険*  作者: 植木まみすけ
*第三幕*
25/56

25話「どうして俺は”ここ”にいる」

挿絵(By みてみん)


 。゜

  +.

 .

 挿絵(By みてみん)

  *



****


ん??幕はこのまま?ああ…なんだ…【ボク】に割く尺がないのか……。

…せ、せめてスポットぐらい当ててくれたまえ。オーケーしょうがない。



やぁどうも、第一幕、第二幕の冒頭、女性読者に大人気を博したボクは【語り部】


…や、やだな。まるっきり読者各位からボクに関しては無反応だったじゃないかって、そこの君ハンケチを、ハンケチを貸してくれたまえ…。


あれは寝間着に蝶ネクタイで出てしまうというジェントルメンらしからぬ事をやらかしてしまったからで、今度こそタキシードを着てきたのに、なんだって 幕の端から首しかだせない…。



ああ?文字数が爆発するから黙れって?


さてさて、物語はついに大詰め。かえれ鉱窟こうくつ。誰もが還る窟とされている、不思議なようであんまり不思議じゃない、いわゆるここは”ダンジョン”だ。


体の大きな元傭兵と、体の小さな舟守の少女。なんだか最近、二人いい感じでボクは嬉しい。いいぞ!そこだ!そこでチューだ!なぁんてことは考えてない。≪I want you!≫


――今まで物語は、舟守の少女の視点から展開してたのに、鉱窟内で単独行動。これじゃ必ず大男が一人のシーンが出てくるね?



≪先生!状況説明は!?≫


いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、なにを(What)、なぜ(Why)、どのように(How)!?


一人称、二人称、三人称。神視点。いろんな手法はあるけれど、ここはボクが読みたい系でごりおしだ。≪I need you!≫


紳士淑女、読者各位。”少女”の視点だけではなく、たまには”盾”の視点はいかが?

視点がシャッフルされますよ、さぁさぁ皆さん、温かいお茶の準備はいいかな?


まだまだ道は長いです。ラストのラスト、終幕まで、あなたがたがつぎ込んでくださった”ジカン”まで振り落とさぬよう、丁寧に、紡ぐ。セカイを、物語を、唄を。



――このセカイは、全て自分で舵を切れる。ということを。



さてさて、いよいよ第三幕。はじまりはじまり。


 。゜

  +.

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 挿絵(By みてみん)

  *



**********


**第三幕**


***side”チロタ”***




チカイチカイ山の5合目付近、見上げると縦にでっけぇ木の天辻の向こう、真っ青青の空が覗く。


飲み込まれそうな山の裂け目。かえれ鉱窟こうくつ入口だった、小さな橋の前、砂時計をもってしゃがむ”お嬢様”の前、でけぇ体を折りたたんで”俺”は延々おせっかいを垂れていた。


「迷ったら風を読むんだぞ?」

「…知ってる」


嬢はうつむいて横を向きながら返答する癖がある。もしかしたら俺は嫌われてるんだろうか…。


「何かあったら必ずゴヌ笛を鳴らせよ?」

「…大丈夫」

「武器は体から離すな」

「…当然」

「鉱窟内は特に寒いから、ちゃんと腹巻するんだぞ?」

「……もうーー…子どもじゃないですから!」


カチンとしたような顔をして、俺の方をやっと向いた。前髪の奥からふてたようなくりくりの黒い瞳が見える。まるで小さな銀兎だ。嬢を見ていていつも俺は心配でたまらない。


こいつは厳しい舟守の仕事を5年も勤めて、碧チーフの銀波バッヂまでとってるわけで、なりなんか関係ねぇんだと…頭では分かっているのに、心配で心配でたまらない。


まるで心配の塊が家出して一人歩きしてるような娘だ。


「よーっしゃ!」


俺はどさくさにまぎれて嬢の頭をぐしゃぐしゃにした。恥ずかしそうに黙って俺の方をちらと見てくる。

金恋花きんれんかに似た何ともいえない甘い香りがふわと漂う。多分こいつの素の体臭なんだろうけど。毎回ドキっとしてしまう。


「…い、威勢がいいとこ見たくってな」


とごまかすようにつぶやき、ニッと笑って見せた。装備の最終点検をして先にザックを背負う。


「カシの木が枯れたところでしばらく儀式が出来ないだけだから」

「……… … …… 」


「絶対あぶないことしたらだめだからな?」

「…… … … うん」


珍しく素直に返事が返ってきた。動揺してるのを隠しつつ続ける。俺は10個も下の娘に、何を慌ててるんだ…。


「砂時計のカウント間違えないようにな」

「……………うん」


二人とも、頭に布を巻いて中に小さな板切れや布をしこんだ。頭の保護だ。これで多少打っても大丈夫になる。


「よし…」俺が松明に火をつけ、入口に立つと

「…チロタ!」と、呼びとめられた。

嬢は慌てたような表情で、紐みてぇなヤツを俺に投げてよこした。



「い、いらないかもしれないけど」と嬢は首一杯横を向きながらぼそりと呟く。

ヤマセンドウのしるべが皮紐に結わえてある首飾りだった。平たい皮紐に、針でひっかいた字が描き入れてあった。



「もしもの時のための……お、御守…です」



――俺はそれからおちゃらけた保護者ぶるのに忙しかった。どう受け止めていいか、混乱しすぎてわからなかったからだ。


礼を言いすぎて、日が暮れるだろう。と、怒られながらの出発。

ヤマセンドウの”旦那”を肩にとまらせ、ちらと振り向き、精一杯任せとけみたいな表情をしてみせた。


首飾りをつけてみると胸の奥が、急に暖かくなった。こいつはすげぇお守りだ。俺は、嬉しくって嬉しくって、つい、でへへと鼻の下を伸ばして笑っちまった。




(…絶対に失敗出来ねぇ………)







―――かえれ鉱窟こうくついざ入窟だ。

挿絵(By みてみん)


 。゜

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 挿絵(By みてみん)

  *


****


進路の脇んところに、喰いてぇのを我慢して橙瓜ダイダイウリを置き、頭をさげてから橋を渡った。旅の儀式ってやつだそうだ。

入窟すると、横広い”真っ黒黒”と湿気た空気が待ち構えていた。これはアレだ多分”寒い”だ。


寒がりの嬢にもう一枚腹巻をまいておけと言ってくればよかった…。戻ろうか、いやダメだ。怒られるに決まってる。


鉱窟内の雰囲気は、まるで生きる死ぬの淵に立たされてるみてぇに張りつめていた。ニブく学のない俺でも神の領域とかいうやつだと分かる。この辺はまだ天井が高く、松明の灯は、頭上の方で途切れてちらちらと沈むようだった。


「どいつがここ護ってるか知らねぇけどよ」

「俺の後に入ってくるちっこいのは手加減してやってくれよ?」



あぁあ。お、俺は誰に話しかけてるんだ…。”旦那”が「ポ?」と返事をし

てくれた。ありがてぇ…。


しまった嬢にもこいつがついててくれたら、多少気が紛れただろうに、もう一匹捕まえてくればよかった。今更考えてもはじまらないが…。



というか、こんな窟で嬢は本当に一人で大丈夫なのか、俺でもぶるっちまうような闇だ。何かあったら笛を吹くように言ってあるものの、何かあってからでは遅いのだ。


「あ”ーくそ、嬢は子供じゃねぇんだ!」

「信じるぞぉ!」


言い聞かせるように腹からの大きな声。ぽちょん。と一言水滴が返事をした。


「なかなかしるべ、生まねぇもんだなー」

「これじゃ嬢に追いつかれちまう」

「ほらクミルの実だ、食え」


”旦那”は肩から直接クミルの実をゴフゴフと食べた後。松明の元、ボクにも悩みがあるんですよ。というような表情を照らし、≪トーポポルルーー!≫と、ぽとん。と碧く光る三角△ のしるべを1つ生んだ。


出発前に頑張って生んでもらった分の”しるべ”も持ってきたが、こっちは何かあった時まで節約しねぇとだ。


足元は滑りやすそうではあったが、歩けるぐらいには乾いていた。ごつごつと転がる岩々の表面は昔っから少しずつ水流で研がれたみたいにつるりと光っていた。


山頂にあるえにしの湖があふれると、この鉱窟からもドバーンとザバーンするんだろう。


どうかすると、松明が切れてしまいそうな湿気の中、上からひやっと滴が落ちてくる。しるべを置きながら3つ程角を折れたあたりで、天井がぐんと狭くなった。


道があってるかどうか、何度も松明でメモを確認する。大丈夫だ。軽くかがみながら進む。普通に歩くと頭をぶつけそうなぐらいの高さだった。


「まるで何かの腹の中で探検してるみてぇだなぁ…」「だなぁ…」木霊が後ろからはやし立てる。


どうも、鉱窟内の奥のところどころ、こうこうごけがいるみてぇだ。黄緑の光が遠くぼやーっと薄く光って見えた。


しるべをちまちまと進行方向に三角△が向くように置き直しながら(このぐらいの明かりがあれば…)少し安心する。


「いや、いや…」「…や」

安心するのは全然先だ、肝心の”お嬢様”がまだ入窟してねーんだ。


俺は装備しているマントや肌付きを適当に破って、要所要所の岩の突起に結びつけることにした。

「これで、しるべの蓄光が切れても…まだ…なんとか」




―――そういや、トオイトオイ島じゃ、かならず何か、

問答に答えるとこがあるっていってたっけな。どこの話だろう。




問答というか、ふとした疑問ならある。

(俺はなんで”こんなこと”してるんだろうな)





ほっとけなかったのもあるけど、嬢がゴース・ゴーズにつっこまなけりゃ、俺は今頃一人でカシの木を目指していたのだろう。

不思議な縁もあるもんだ。



「こんな必死で道案内までしてな」

くっくっく。自分が面白くて笑ってしまう。

うまく二人カシの木までたどり着いたら俺の希望の報酬をせびってみようか。


明け方の嬢の様子をふと思い出した。



(あいつは何を抱えてるんだろうなぁ)



―――家族はいるんだろうか。



(…そんなすぐ話してくれねぇもんだな)



俺じゃ力になれない系なんだろうか。ぎゅっと岩にぼろ切れを縛って、石で矢印を描きこみ、トーポポルルとしるべを落とす。



(まー嬢にしてみたら、俺はただのガサツな野蛮人なんだろうしな)

(立ちションしちまったのは、失敗だったなぁ…)頭をばりばりとかく。



5つ目の曲がり角に差し掛かったあたりだろうか、松明の照らす先。映る空気に煙のようなものが、混ざりはじめた。




――霧だった。



(まずいな…)


白い霧が、そろりそろ。足から順にまとわりついてくる。”旦那”が鳴く。トーポポルル。碧い光をまき散らかして。


「こりゃ俺も迷わないようにしねぇと…」「しねぇと…」「…と」


―――木霊がかすかに俺をせせら笑ってるように感じた。松明の明かりだけが橙色に広がって俺たちを護ってるようだ。


おじけてたまるか。落ち着け、大丈夫だ、俺には嬢の御守がついている。




俺は…実は…”深い霧”は…。少し…。いや、だいぶ、苦手だった。




 。゜

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 挿絵(By みてみん)

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