02話‐「王様のラブレター」
***
わたしたちのこの”地球”。
赤道付近にばらばらと沢山島々が点在する”グース群島”を中心に貿易は循環していた。勿論北半球と南半球の、緯度が高い辺りにも少ないがちゃんと島国が存在し島民もちゃんと存在する。
北や南の方には”四季”というモノがあるそうで、グース群島の住人達にとって、”寒い”とか”秋”や”春”は一回は体験してみたい憧れのナニカだった。”寒い”と死ぬそうなので一回でいいけど。
世界観というか、国民性というか、南の風土は、よく言えば”おおらかな人々”を量産する。
貴重品や、大切な贈りもの。大切なラブレターを、遠い島に運ぶ手配をすると、いつの間にかどこかの藻くずになってしまうことはざらだった。
***
*.――500年程前、どこかの島の王様が、愛するお妃さまに遠征中に宛てたラブレターを、家臣が紛失してしまった。*.
舟守の歴史はそこから始まる。
*.
(ロマンチックな星だこと……)
そういった貴重品を責任持って運ぶ資格を持つ、舟守の仕事は、なかなか重要な役割だった。
――わたしは短く切ったギーギードリの墨羽根みたいな髪を風に揺らしながら、波を切る。頭の色がもうちょっと明るい色だったらよかったな。と子供の頃は思ったものだ。
潮があがったジルバ号の甲板を太陽が反射して、きらきらと光っていた。あとでデッキブラシをかけよう。
わたしがやってる”小さな舟”の仕事は、実際金品の配送の仕事より、重要書類。贈りもの。ラブレターの配達の仕事の方が多かった。届けるとたいてい顔を赤らめて喜んでもらえる。とてもやりがいのある仕事だ。
(しかし、そんなにラブレターって貴重品なのだろうか?)
運んでいて毎回ちょっとだけ疑問だ。
「あーあーー。羅針盤の儀式まで、あと4年もラブレターを運ぶのかぁ…」
チカチカチカ…。
相棒ジルバが隣で黄色くまたたいて笑う。何が面白かったのだろう??ついでに≪大丈夫大丈夫≫みたいに光ってる。
「ちょっとー。何が”大丈夫”なのーー?」
わたしはちょっとムっとしながら、ジルバを軽く追いかけまわす。チカチカチカ、黄色くまたたいて私のまわりを旋回する小さな光。いつの間にか二人で軽く笑う。
(ジルバといると、自分にもどってこれる…)
*.
”羅針盤の儀式”というのは、簡単に説明しておくと、舟守の「昇格の試練」だ。海の上の経験が9年目以降の舟守から受けることが出来る。試練を無事通過するとトオイトオイ島の御神木”智慧のカシ”のもと、『水上守の羅針盤』を授けられる。
”羅針盤持ち”に昇格すると、運べる重量が大幅に増え、”大きい船”の仕事として、貿易商など、扱う積み荷のスケール感が格段に跳ね上がる。しかし、羅針盤持ちがそのまま、ラブレターを運び続けているケースも多い。
本当はもっと貿易商が増えないと、これ以上星が栄えないのだろうけど…。のんびりとした気質のグース群島出身の舟守たちは日々の仕事が保障されていさえすれば、満足なのだ。
儀式で授かる”羅針盤のペンダント”は智慧の象徴である”カシ”の下で拾える本物の”どんぐり”が意匠に施されており、子供たちにとても人気があった。
「ねぇ、ジルバ、トオイトオイ島って”秋”とか”フユ”とか”赤い木”があるんだってね」
わたしは、帆に風をうけながら、少し空を仰ぐ。
チカチカチカ…≪きれいそうだねぇ≫ジルバはまたたいていつも笑う。わたしから話題を振った時、楽しそうにしなかったことがない。
「どんぐりって帽子つきのとそうでないのがあるんだって」
「シルクハットみたいなやつなのかな?」
チカチカチカ。大笑いされた。どういうことだろう…。まぁいいや。
ジルバはいつからわたしの”トモダチ”だったんだっけ。いつもありがとう。本当にそう思う。
長い海の上では、風向きを読んで、帆にまかせ、小刻みに眠る。もう一人乗組員を雇うぐらいなら、寝ない方がましだった。