~魔王様からの入電記録12~
「それにしても、私が完成できなかったゲームはちゃんとこうして、出来上がっているのね。魔王、ありがとう。私とっても嬉しいわ。実は前世の事が気になって仕方なかったのよ。あの徹夜で終わらなかったら、このゲーム完成してなかったし、完成度も高いわ。加えて価格も良心的で私、人生の最後に最高の仕事をしたのだと胸を張れるわ」
だったら、勇者らしい仕事を今すぐにしてもらいたいと直人は思った。
だが、そんな直人の思いなどしらぬであろう、女勇者は電話口にも届くような大きな、あくびをして、言った。
「前世は働きすぎだったから、今世ではゆっくりしたいわ。ありがたい事にお金には困らないしね。ここの最低賃金高いから、戦闘しなくてもやっていけるし」
「ほう。時に勇者よ。お主、何かスキルを持っておるか?」
「そうね。特別なスキルは何も持ってないわ。別にほしいとも思わないしね」
「どうしてじゃ?特別であれば、皆がチヤホヤしてくれるではないか」
「それって、別に私の事を見て褒めてくれているわけじゃなくて、私が生まれつき持ってきた力を見てるだけじゃない?王様だから、金持ちだから、チヤホヤしますって言ってるのと同じじゃない?私は別にそういうのイラナイかなって思ってるの」
ボソッと魔王は電話口の直人に話しかけてきた。
「な、変わっておるじゃろ?普通は皆、人より秀でたいと思うが人間というのにのう」
確かに変わっている。人間、楽ができるならなるべく楽をしたいものだ。
直人もチヤホヤされたいし、なるべくなら金もほしい。
なのに、転生勇者(自称)は違うようだった。
「魔王、せっかくだから遊びましょ!あら?!あ、ね、ね、これやりましょ!アホカーの新作!!」
転生者の嬉しそうな声が電話口からも漏れ聞こえてくる。
「勇者、アホカー好きですね」
「ゆうしゃさま、アホカーとくい・・・だから、わたし、まけちゃう」
「だいじょーぶ、アホカーのいいやり方教えてあげるって」
はしゃいだ声が魔王を呼ぶ。
「ねえ、魔王も一緒にアホカーの新作やりましょう!早く早くー!!」
勇者、また遊ぶの!?
思わず直人が声が出そうになってしまったが、そこは培った努力のおかげか、声はでなかった。
「おお、今ゆくぞ、勇者!先に始めておってもよいぞ!」
魔王は勇者のその言葉に喜々として答える。
おいおい、どっちも違うだろ!
勇者と魔王が勝負をするって言ったら、剣や魔法の勝負だろ!?
そんな直人の心の声は無視される。
「ではな!直人!また連絡するからの」
そう言って、魔王の電話はプツンと切れた。
そうして、事態は段々と深刻になっていたのだが、直人は気がついていなかった。