~魔王様からの入電記録9~
それから魔王からの電話がかかる事はなく、夏休みとサマーバーゲンに突入した。
ようやく魔王の呪縛から解放されたと思った直人にその電話が来たのは、日差しの強い昼過ぎだった。
すっと、真っ黒な手が上がる。
時期限定7.8月だけアルバイトにきているギャル、城ヶ崎 未来の手だった。
城ヶ崎の特等席に向かって直人が小走りで駆け寄ると、彼女は口を可愛くすぼませて言った。
「ちょお、チャラ男! なんか訳わかんないのきた! 魔王とか言ってくる!」
魔王。そのフレーズで思い当たるのは一人しかいなかった。
直人が慌てて、城ヶ崎のPC画面を覗きこむと、過ぎ去った悪夢がそこには踊っていた。
『クレー魔王』
直人は城ヶ崎にとりあえず、SV用の電話に転送するように指示を出すと、自分の席に戻る。
紙、ペン、声の調子を整えて、電話に出る。
「お待たせいたしました、神ゲーム池田が承ります」
「久しぶりじゃ! 直人!」
いかんせん、前回の続きが続きなだけに気になる。そんな直人の気持ちを察したのか、それとも機嫌が良かったのか、はたまた話したかっただけのか、魔王は前回の続きを話はじめた。
「あれから、直人の教えてくれたホンタイキシュと言うものを買ってみたのじゃ!」
「左様でございますか。魔王様はどちらでお買い求めなされたんですか?」
「うむ。あまぞんじゃ!」
あまぞん!?
地球ではメジャーな通販サイトだが、魔王のいるファンタジー世界にも通販しているとは恐れ入った。
「前回の事でどうやらこちらとそっちの世界の歪みが大きくなってしまったようでな、ちょっと大きなモノくらいなら通販で手に入れられるようになったんじゃ!」
そんなめちゃくちゃな理屈があるか!
直人は激しく現実にむかって異を唱えたかった。