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日没が近づいてきた。灯祭の始まりは日没である。健太は新聞紙をくしゃくしゃに丸めた。力いっぱい新聞紙を丸めた。健太はロボットの事を母親に問い詰めても、のらりくらりと躱されるだけだった。健太は、もう一度、丸めた新聞紙に力を込めた。
恵子は、政さんが持ってきた薪を、円柱の間に井桁に組んでいる。健太には恵子の表情は見えなかった。
太陽が沈んだ。健太は丸めた新聞紙を恵子が組んだ薪の下にねじ込む。そして、ポリタンクに入っていた灯油を薪にかけた。
「火をつけるぞ」と健太は恵子に言った。
「うん」
横に立つ恵子の表情は、恵子の髪に隠れて見えない。健太は、さきほどねじ込んだ新聞紙にマッチで火をつけた。火は広がり、薪全体が燃える。そして、ロボットを燃やしていく。火の足は速かった。ロボット全体に火が燃え移った。
熱せられた竹から水分が染み出し、そして竹の中の水分が蒸発する音が聞こえてきた。政さんはロボットから提灯の蝋燭に火をつけるための火種を取った。老人会の面々は、提灯の重化の底受を外し、火種から提灯に灯す火を受け取る。そして各々町内会館の広場から出発していく。広場を出て右に折れる者もいれば、左に折れていく者もいる。それぞれが自由に町を練り歩くのだ。「お前らは火の番だぞ」と政さんが言った。健太と恵子は初めからそのつもりだった。
健太と恵子は肩を並べて燃えるロボットを眺め続けた。竹を縛った紐が燃え尽き、胴体が崩れていく。土に埋めた円柱の部分だけがまっすぐ立っている。ロボットの伸ばした両腕も終にはバラバラになって落ち、地面で燃え続けている。
ロボットが燃え尽きるまで、健太と恵子はそれを眺め続けた。どちらからというわけでなく、二人はいつの間にか手を繫いでいた。提灯を持って町を練り歩いていた老人たちは、一人、また一人と帰ってきて、町内会館へと入っていく。
ロボットは燃え尽きた。炭化し真っ赤に燃えている竹も少なくなった。
「おい。お前らいつまで外にいる気だ」政さんは二人を縁側から呼んだ。
「どうする?」
「まぁ、顔ぐらい出しておくか」と健太は言って、用意していたバケツの水を、燃え残りにかけた。水をかけた瞬間、ジュッという音と共に水蒸気が空へと登った。
健太と恵子は、敷石に靴を脱ぎ、縁側を超えた。そして、町内会館の畳の上へと上がる。灯祭は終わった。




