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床井学園 仮装部!

床井学園 仮装部! - クリスマスコンサート -

作者: 廿楽 亜久

 12月25日、それは学生にとってとても大事な日。

 そう、クリスマス。

 ここ床井学園では、12月25日は2学期最後の日でもあった。

「終業式だけって、やっぱめんどくさいよなぁ。補習組じゃない限り休みなんだし、もっと早くてもいいじゃん」

「そうか?」

「お前は新幹線のチケット取り忘れたから、暇になるだけだろ」

「家が近くないと油断するとこうなんだよなぁ」

 全寮制である床井学園には、実家が遠い人もいる。彼もその1人であり、新幹線のチケットを取り忘れ、帰るのは明日、26日となっていた。大抵の人は、今日の午後に帰路についてしまうので、寮に人はほとんどいなくなる。

 寒空の下、寮から校舎に向かう道の向こうから、茶色い何かが猛スピードで2人に近づいてきた。

「ん?」

 なにかと目を凝らしてみれば、茶色いそれはトナカイらしい。

「トナカイ……?」

「クリスマスだしな」

 それに、2人には心当たりはあった。床井学園名物仮装部。またの名をバケモノ部。

 普段から何故か日常的に着ぐるみや仮面をつけて、学校を徘徊する奇妙な部活。しかも、その正体、部員は二つ名以外は知られておらず、中の人はいないということになっている。

 きっと、あのトナカイもバケモノ部の誰かだろうと特に気にしないでいれば、2人の目の前でトナカイが止まる。

「Merry Xmas!!ホッホォ~っ」

 まさにサンタといえば、のような喋り方をしているが、見た目はトナカイだ。トナカイ以外のなにものでもない。

 しかも、ソリではなく、スケートボードを抱えたトナカイ。

「め、メリークリスマス」

 辛うじて挨拶を返せば、トナカイは肩に担いでいた白い袋から、クリアファイルにキレイにしまわれたポスターを取り出すと、2人に差し出す。

「クリスマスコンサート……?」

「そういえば、吹部が毎年やってるな」

「今年もやるから、ぜひ来てください。時間は終業式が終わってから、30分後の11時半から12時まで。それじゃあ、待ってるぞ~~!!」

 それだけ言うと、また袋にポスターをしまい、スケートボードで走り出す。さすがの運動神経で、見事な運転技術ですぐにスピードに上げ、すぐに遠くに行ってしまった。

「あーアレ多分、ダソク部長だ」

「よくわかるな……お前」

「あの運動神経と声的に」

「運動神経って……あの部活、全員意味わかんない運動神経してないか?」

「してる」

 教室にたどり着くと、吹奏楽部の部員であるクラスメイトの女子が、ポスターを見て笑う。

「お、アンタたちも貰ったんだ」

「スケボーに乗ったトナカイからプレゼントされた」

 聞けば、今のところ来た人全員が1枚は持っているらしい。どういうスピードで配布すれば、ほぼ全員にポスターを配れるのか、不思議に思ったが、バケモノ部だからと言われてしまえば納得してしまえる。

「多分、寮ごとに1人配置してるんじゃない?うちのところにも、とんがり帽子被った獅子舞が台車引いてたし」

「なにそれこわい」

 トナカイが猛スピードで迫ってくるのも、なかなか怖いが、獅子舞が台車を引いてやってくるのも怖い。

「それで、クリコンくる?ちなみに、仮装部もくるからなかなかおもしろいよ」

「それは……行きたいな」

「うん」

 そして、クリスマスコンサートが始まる。人もたくさん入っていた。吹奏楽部の部員も赤い服や帽子をかぶって、まさにクリスマスといった雰囲気だ。若干、謎の着ぐるみはいるが。

 毎年恒例で1曲目は仮装部数人と吹奏楽部が一緒に、曲を吹くという。そのおかげか、それともあの妙な広告効果なのかはわからないが、毎年盛況らしい。

「お、始まるっぽいぞ」

 ホールの電気が消え、音と共に演奏者側の電気が灯った。そこには、サンタの格好をした吹奏楽部に、朝も会ったトナカイがティンパニーを叩き、七面鳥の頭部を着けたタキシードがトロンボーンを吹き、獅子舞が楽器を持たずにただ立っていた。

 曲自体はこの時期になると街中でよく流れている、定番のクリスマスソングだ。部活ごとに吹くパートなに入ると、七面鳥が前に出て大きな身振りでトロンボーンを吹き、ティンパニーを叩くトナカイもヘビーメタルのドラマーかと思えるパフォーマンスを見せていた。それから、フルートの音色も。

((((あの獅子舞、フルート吹いてる……!?))))

 会場の驚きも覚めないまま、曲は終わり、仮装部は舞台袖に消えていった。

 その後、先程までのことはなかったかのように、普通のコンサートと同様に、クリスマスソングに加えて、コンクール用の曲を引いて、無事に終わった。

「みなさーん!今日は来てくれてありがとう!吹奏楽部と仮装部から、プレゼントがあるので出入口でもらっていってくださーい!」

 吹奏楽部の部長がそういって出入口を指させば、カゴを持ったサンタが立っていた。

 その中には、先程の獅子舞とトナカイ、七面鳥もいる。こういってはなんだが、見ている分には楽しいが、こうして近寄る機会があると、やはり近寄りがたい。できれば、普通のサンタからもらいたい。「…………」

「…………」

 しかし、彼らのそんな願いは叶えられることはなく、目の前には七面鳥と獅子舞。

「メリークリスマス!ユーたち、エンジョイできたかな?ターキー&獅子舞サンタからプレゼントフォーユー!」

 風船を膨らませ、割るのと同時に現れた小さな袋に、

「メリークリスマス」

 囁かれるのと共に、獅子舞の口から現れた小さな袋を、なんとも言えない表情で受取りながら、お礼を言って離れる。

「そういえば、あの獅子舞さ」

 友人の言葉に目を向ければ、

「仮装部の期待の新人って言われてるらしい」

「そう……」

 それがいいのか悪いのか、なんとも言えない。


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