幼馴染=アイドル
どうもみなさん。
学園のアイドル、石原 正也くんに恋してる、フリをしてる煌瀬 香織です。
友達との会話は、カレの話ばかり。
好きだってことにしといたほうが何かと楽なんだよね。
私はかなりのめんどくさがりだから。
でも、本当は好きな人がいる。
中西 正也くん。
私はずっとまーくん、と呼んでいた。
石原くんと名前が一緒なのは、単なる偶然だろうけど。
彼とは幼稚園で離れて以来、ずっと会えてない。
薄ら残る記憶の中に、「大人になったら、結婚しようね」なんて約束した覚えがあるんだけど、まー君は覚えてるのかな?
「おはよ、香織。正也くん見た?」
「純恋。おはよ~。私は見てないけど……。あと1分でぐらい来るはず」
現在の時刻は、8時24分。
石原くんの登校時刻は、8時25分くらい。
べ、別にストーカーとかじゃないんだからね!
「あっ! 来たみたい!」
廊下が騒がしくなった。
王子様は朝から大変だなぁ。
大量のラブレター、しつこい取り巻き。
ま、私には関係ないんだけどね。
女子の嫉妬のターゲットにはなりたくないけど。
「学級委員ってさー、ほぼ雑用係だよな」
「確かに。仕事って言ったら、ノートとかプリント運びぐらいだし」
今、みたいにね。
長い長い職員室までの道を、石原くんと歩いていく。
本当に好きなわけじゃないから、ドキドキとかはないんだけど……。
取り巻き'Sに目をつけられたくはないな。
「煌瀬ってさ、本当は俺のこと好きじゃないでしょ」
えっ……?
「なんでわかったの!?」
「やっぱりそうだと思った。俺のこと好きにしては緊張とかしてないし、いつも友達についてきてるオーラが出てたからな」
バレてたのか。するどいなぁ……。
「優しいんだな」
女子を虜にする笑顔で、正也くんは私に微笑む。
「な、なんで?」
「だって、友達に合わせてんだろ? 俺のこと好きなふりしてまで」
焦る私に、彼は再び笑顔を見せた。
「そんなことないよ。私めんどくさがりだから、石原くんのこと好きなふりしてたほうが楽なんだよね」
「本当に好きなヤツいんの?」
踏み込みすぎだよ、と思ったけど、私の唇は勝手に動く。
「いるよ。でも小さい頃に離れちゃったから、向こうは多分忘れてる。ずっと会ってないし」
話したって、石原くんはまーくんのこと知らないし、大丈夫でしょ。
「名前は?」
「中西正也っていうの」
「中西、正也?」
石原くんは顔をしかめる。
もしかして知り合い?
だとしたら恥ずかしすぎる……。
「そいつさ、たぶん俺なんだよね……。織ちゃん?」
「!!」
織ちゃん―――。
小さい頃、私はまーくんにそう呼ばれてた。
石原くんが、まーくん?
「大人になったら、結婚しようね。だっけ?」
「あー!!! まーくん、覚えてたの!?」
「覚えてるって。マジかー。やっぱ、織ちゃんかー」
楽しげに笑うまーくんと、恥ずかしさで真っ赤になる私。
初恋の幼馴染は、学校中のアイドルになっていました。