魔王陛下護衛官な俺とかぶりなあの子
久しぶりで申し訳ございません(泣)
かぶりちゃんが人型魔族っていうのはなんとなくわかってた。
まあ、それに関係なくあの可愛いさに一目惚れしたんだが……。
社員食堂『翡翠の海』は座るところを探すくらい大盛況だ。
魔王城には数カ所社員食堂があるけど一番賑やかで人気だ。
はじめは先輩に連れてこられて今より少し幼かったかぶりちゃんに迎えられたんだよな。
長い銀色の髪をまとめて三角巾で覆った翡翠色の瞳のちょうどいい体型の美女がこちらにきた、かぶりちゃんだ。
水色のギャルソンエプロンと白シャツと紺のズボンで今日もかわいいし猫獣人の気配だ。
「いらっしゃいませ〜」
元気に挨拶しているかぶりちゃんは今日は猫ロンロンを取り憑かせてるらしい。
相変わらず可愛いな、仕事帰りの癒やしだ。
「日替わり満腹セットを頼む」
「承りました」
注文しながらかぶりちゃんがよく見えるいつものカウンター席に座った。
それに料理も早く来るしな。
俺はティインシス・鱗・オルスという上級魔族の端くれで魔王陛下の護衛官をしている竜人だ。
故郷の女に比べて中級人型魔族のかぶりちゃんは小柄で出るところはキチンと出過ぎない人型魔族らしい体型と愛らしい顔をしている。
極上の人型魔族といえば下級人型魔族の魔王妃ミゼル様だが、かぶりちゃんも人型魔族としては美人さんだ。
それだけにライバルも多いんだよなぁ。
「ケシュちゃん、今日も可愛いね」
「ウルフェスさん、ありがとうございます」
あそこでニヤニヤしてるのは魔界軍のやつだな。
わざわざ来たんか?
ピンっと立った耳の狼人族だな血赤の軍服から出たしっぽがブンブン振られてる。
魔界軍は魔王城より少し離れた魔王都の北に本部が有ったはずだ、当然社員食堂もある。
「今度おいらと一緒に飲みに行かない? 」
しっぽをブンブン振りながら狼人がキラキラした目でかぶりちゃんを見た。
「あ、あのあんまりお酒飲めないんです」
かぶりちゃんがたじろいだ。
あんまり飲めないってかぶりちゃんのイメージ通り……ってあのバカかぶりちゃんの腕持って嗅ぎやがった。
いい匂いだね~だと!!
勢い良く椅子を立ち上がると椅子が倒れた。
「やめろ! 」
さけんだ俺のすぐ脇を何かが飛んだ。
「わ、死ぬ」
犬野郎の耳が垂れた。
失礼なまだ何もしてないぞ?
「うちの娘にふらちな真似禁止ですよ」
食堂の麗しい男店主がニコニコとジュースコーナーから出てきた。
よく見るとフルーツナイフが犬野郎の耳のすぐ近くの壁に刺さっている。
は、はいと犬野郎がしっぽまで下げて慌ててかぶりちゃんの腕を離した。
「わざわざ立ってくれたのに悪いですね」
男店主はちっとも笑ってない目で笑いながらナイフを壁から引き抜いてジュースコーナーに戻っていった。
さすが当代魔王陛下の叔父上だ、恐ろしい威圧感を感じた。
「すみません、ウルフェスさん」
「オイラこそゴメンな」
かぶりちゃんがペコリと頭下げてこちらにやってきた。
「ティインさんありがとうございます」
「俺は何も……」
かぶりちゃんはそう言いながら椅子を起こそうとしたので慌てて手伝った。
「ふーんやっぱり貴方か」
危ない翡翠の瞳の親父がジュースコーナーから俺を見た。
「お、おとうさん、グレープフルーツソーダ一杯お願いします」
かぶりちゃんがあわてて言った。
わかったよと超上級人型魔族が手を上げた。
「すみません」
困った顔でかぶりちゃんが小さく頭を下げて呼ばれて注文を取りにホールに戻った。
本当に働き者だなぁ。
可愛さににまにました。
今日は仕事は休みだ。
ストーカーみたいだが若の言葉が気になって昼飯方々翡翠の海までやってくると調度出前に出たかぶりちゃんを見つけた。
「送っていく」
「ええ? 大丈夫ですよー」
おかもちを両手で持ったかぶりちゃんが笑った。
ああ、可愛すぎて鼻から少しだけなんか出そうだ。
思わず鼻を押さえた。
「俺もそちらに行くからな」
おかもちを奪い取ろうとすると私の仕事ですからとかぶりちゃんが離さなかった。
本当に仕事熱心だな。
今回は魔王城の中心部の中庭に行くようだ。
その中庭物凄く馴染みの所なんだが……
優美な東屋にテーブルセットがおいてあって主人の奥方様がよくオトモダチに引っ張られてお茶を飲んだりしてるところ……主人がそこに押しかけて……
「確かこの辺でいいはずですけど」
かぶりちゃんが地図を見ながらつぶやいた。
さすがにかの中庭まではいったことがないらしい。
「こちらは許可なき方の立ち入りは禁止されています……オルス護衛官? 」
今日の護衛官はアミシス・木・グランターレらしい、くそっ真面目で融通のきかない樹族だ。
「あの、出前を届けに参りました〜」
かぶりちゃんが必死で訴えてるのにアミシスの奴無視しやがった。
「端末を確認してから声をかけろ、基本だ」
ギロっと睨みつけるとアミシスは慌てて視線をそらして端末を確認した。
「失礼いたしました、翡翠の海のケシュア・ウラシュル様でございますね」
アミシスが引きつった笑いを浮かべた。
「は、はい」
「お待ちでございます」
少し動揺しながらアミシスがあちらへどうぞと案内しだした。
後で教育的指導だな。
今日の訪問者くらい覚えておけ。
「楽しみですわね、ミゼル様」
オレンジ色がかった美女が小柄の女性に笑いかけた。
「はい」
おだやかに女性は微笑んだ。
東屋では主人……魔王陛下の奥方様、魔王妃ミゼル様がオトモダチの橙家の令嬢アールセイル嬢とノンビリと話していた。
正確にはアールセイル様が極上の下級人型魔族らしくおしとやかなミゼル様に一方的に話しかけてると言うのが正しい……まあ、あのお嬢様は裏表が無くて最強クラスの魔族で本来魔王様のお妃最有力候補だったんだが……または魔王陛下になれるほどのちからの持ち主なんだが……本人が素っ頓狂な性格なんだよなぁ……
「翡翠の海のウラシュル様がお見えになりました」
アミシスが声をかけた。
きゃーと嬉しそうに二人が歓声を上げた。
ハヤシオムライス〜 ミックスフライ〜 ラズベリーソーダ〜 イチゴミルク〜 となぜか嬉しそうだ。
「お通ししてください」
落ち着いたのかアールセイル嬢が取り澄ました声で言った。
失礼いたしますと可愛い声でかぶりちゃんが中庭に足を踏み入れた。
春の薄桃色の空のした、綺麗な花々が咲き誇っている。
「ジーちゃんにおしえてもらってよかったですわ」
アールセイル嬢がテーブルに置かれる料理の数々を興奮気味に見た。
「人界の洋食屋さんをおもいだしました」
ミゼル様が茶色の目をキラキラさせた。
護衛官の後輩で同じ竜人のジーがネタ元らしい。
そういやあいつもあそこの常連でよくアウスレーゼとデートしてるの見るな。
俺もかぶりちゃんを誘いたいが……あの爆裂親父がな……シメルワケニモイカナイシナ。
「今度食堂の方にも行ってみましょう、ミゼル様」
「はい」
料理を前にテンションのあがった二人は微笑んだ。
「後でお皿は回収に参ります」
かぶりちゃんがペコリと頭を下げたところで不穏な気配を感じた。
「アールセイル!! 何度行ったらわかるんだ! ミゼルを許可なく連れ出すな! 」
金髪碧眼の美形な人型魔族……魔王イルギス陛下と空間転移して現れた。
今日の護衛官はムーか?
「魔王様、そんなに縛り付けてはいけませんわ」
「やめてください」
前に立ってミゼル様を庇うアールセイル嬢、震えてアールセイル嬢の服の裾をつかむミゼル様……立ちはだかる魔王陛下……物語の一幕みたいだけど、なにか違うんだよな。
ヒーローが夫じゃなくてお友達になってるあたりが……アールセイル嬢が男装の麗人とかなら似合うだろうけど……普通のオレンジ色の髪の豪奢な美女だしな。
「ミゼルを取り戻せ! 」
魔王陛下がムーに命じた。
「失礼いたします」
どこか嬉しそうにムーが槍を構えて前に出た。
この戦闘バカめ。
おそらくミゼル様におびえられない対策だなぁ。
アールセイル嬢と対決してしばらく小動物のようにブルブルふるえられてそこまでは可愛くてよかったがアールセイル嬢にかわいそうにとミゼル様を回収されてしばらく返してもらえなかったらしいな。
「まあ……いきますわ! 」
アールセイル様がシールドをムーにぶつけた。
ムーは素早く避けアールセイル嬢を槍で攻撃する。
そこにもシールドが展開されていてムーははじかれた。
「まだ、やれる! 」
ムーがすぐにたいせいを整えて今度は上から槍に魔力をまとわせて最大攻撃した。
「この戦闘バカ! 」
「う?きゃー」
とっさにかぶりちゃんを引き寄せて抱き込んだ。
もうもうと土煙が立ち中庭が無残な姿をさらした。
あたりがえぐられたようにクレーターになった。
テーブルの周りだけ嘘のようにそのままでアールセイル嬢もミゼル様も無傷だ。
「ハルナティス……」
魔王陛下が土埃まみれで静かに言った。
あいつの本名はムーラシア・鱗・ハルナティスで里の武門分家だからな、やりすぎるところがあるよな……魔王陛下、攻撃は最大の防御の方だからな……防御苦手だったか……怪我はないようだが。
「申し訳ございません」
ムーが真っ青になって魔王陛下の前にひざまずいた。
まずい……消されたら……
緊張が走る。
「オルス護衛官、デートですの〜」
場違いの発言をアールセイル嬢がした。
「うみゅー、離してくださーい」
腕の中がもぞもぞしてかぶりちゃんが顔を腕の間からだした。
「あら可愛い」
アールセイル嬢がニコニコした。
わかったこの人絶対にかわいい物好きだ。
「獣人ですか?」
ミゼル様がアールセイル様の影からかぶりちゃんをのぞき込んだ。
よく見ると猫ロンロンが逃げかけて頭に猫耳ができていた。
可愛い、可愛いけどとりあえずムーやつをなんとかしないと。
ムーに目を向けると何故か魔王陛下目線があった。
「オルス…………オルスが何故デリフォリード叔父上の娘を抱きしめてる? 」
魔王陛下が俺を見た。
背筋に寒気が走った。
翡翠の瞳が寒々しい光をおびて俺を見てる。
「鱗家は俺にあだなすのか? 」
どこか空恐ろしい笑みを魔王陛下が浮かべた。
ま、まずい不味すぎる。
切れる寸前。
「イルギス」
ミゼル様が魔王陛下の腕に抱きついて見上げた。
「ミゼル」
「ムー護衛官もティイン護衛官もだれもイルギスを傷つけません」
可憐な魔王妃様のにひゃという笑みに魔王陛下は……あ、抱き上げやがった。
「もちろん冗談だ」
魔王陛下は甘く微笑んでミゼル様にくちづけた。
嘘だ、絶対にほんきだった。
「いいですね〜」
俺の腕の中でかぶりちゃんがつぶやいた。
「では魔王様の天敵は私だけですわね」
ニコニコとアールセイル様がもちろん許しますよねとムーを見て魔王陛下がうなずいて確かにお前は天敵だとミゼル様の背中を撫でながらつぶやいた。
ミゼル様は魔王陛下の精神安定剤のようだ。
ムーはやっと立ち上がって魔王陛下の後ろの定位置に立った。
これにコリでエリカみたいな考える戦闘バカになってほしい……無理か?
「あ、あの美味しかったです、またお願いします」
「今度、叔父上に会いに行く」
「私も気に入りましたわ」
高貴な三人に言われてかぶりちゃんが腕の中でワタワタしてるのを感じた……だが離したくない。
魔王陛下はミゼル様を抱き上げたまま奥に去っていきながらオルス、ケシュアを離さないと叔父上に殺されるぞとささやいてムーを引き連れて去っていった。
「私も帰りますわ」
ニッコリ微笑んでアールセイル嬢は転移した。
あとに残ったのは荒れ果てた、中庭……どうするか。
「オルス護衛官……どうして廃墟になってるんですか」
アミシスが茫然自失で立っていた。
魔王陛下とミゼル様がかえって行ったので確かめに来たらしい。
「……掃除班呼ぶか? 」
とりあえずかぶりちゃんを帰そうと腕の中から離して抱き上げようとして逃げられた。
「あの、忙しそうなので私帰りますね」
猫ロンロンを収納しながらかぶりちゃんが少し振り返ってお辞儀した。
「送るぞ」
「大丈夫でーす」
かぶりちゃんは脱兎のごとく駆け出した。
そんなに俺のこと嫌いなのか?
追いかけよう。
「掃除班もついでに呼んでください」
アミシスが庭の瓦礫を拾いながらウルウルしている。
おい、俺は使いっぱ知りかい? 端末で連絡しておけよといいおいて魔王城の廊下を歩いていく、掃除班はふだんの掃除から瓦礫の撤去まで行う特殊部署で癖に強い奴が多い。
「エスメラルダ」
見覚えある男がトカゲ族のエメの手を握ってるの見えた。
「レスタード、うっとおしい」
エメが面倒くさそうに手を振り払った。
「なんで冷たいんだ、おやじがなん……」
「あ、ティインはん、なんかようかい? 」
エメがレスタのあたま越しに俺を見た。
「最奥殿第二中庭が大破した、掃除を頼む」
「分かったで」
「俺は本気だ」
レスタのやつがエメに詰め寄る。
「あんたとうちじゃ身分も種族も違いすぎるんや」
少し悲しそうに言ってエメが掃除班の連中に声をかけた。
けうけげん族のミリリンやブラウニーのジャックが妙にハイテクの掃除道具持って出てきた。
「エスメラルダ〜」
「行くで」
一瞬悲しそうな目でレスタを見てエメは城の奥殿に入っていった。
レスタが床に手をついた。
なにかブツブツ言ってる。
俺はかぶりちゃんでも見てくるか……
それにしてもエスメラルダがエメだとはな……あいつに悲恋は思いつかん。
掃除班の黒幕って言われてるんだぞ。
そういえば腹が減った、飯を食う前に来たからなぁ。
中庭通って近道するか。
「ケシュアはどこですか? 」
空恐ろしい雰囲気で男店主が店の前の廊下に仁王立ちしていた。
背筋に寒気が走った。
翡翠の瞳が寒々しい光をおびて俺を見てる。
「帰ってないんですか?」
「ええ、あなたと帰ってくると思っていました」
店主が目の前にスーっとナイフを出した。
こ、殺される?
戦斧を虚空から呼びなさないとか?
いや、それよりかぶりちゃんが帰ってない? だいぶ前に帰ったはずだとつぶやくと男店主がナイフを下げて走り出した。
やばい、流血の惨事が起きる。
俺は後を走った。
早い早い早すぎる。
「貴方を信用していたのでーす!」
廊下にかぶりちゃんの可愛い声が響いた。
「エスメラルダとの生活のためには必要なんだ! 」
レスタの野郎の声もする。
廊下を曲がるとレスタの野郎がかぶりちゃんを後ろから羽交い締めにしていた。
足元に猫ロンロンが転がっている。
「かぶりちゃんを離せ! 」
俺は虚空から戦斧を呼び出し振るった。
それより先にキラリとしたものが飛んでレスタの野郎の髪が一房切れた。
「おや、僕も腕が落ちたね」
空恐ろしい笑みを浮かべて店主が次のナイフを何処からかだした。
「お、俺はエスメラルダと一緒になるためにこの子と子供を作らないと何だ!」
レスタの野郎がシールドを貼った。
「いい度胸だね、完膚なきまでに消して差し上げます」
店主がナイフに力を込めた。
かぶりちゃん似たの極上の美貌が冷ややかに笑った。
さ、さすが魔王陛下の叔父上だ。
破滅感半端ねぇ……
「ティインさん助けてくださーい」
ジタバタかぶりちゃんが手足を動かした。
「ねぇ、ケシュア、お父さんが格好つけてるのに台無しなんだけど」
店主がため息をついた。
「お父さんはやりすぎるのでーす、ティインさんお願いしまーす」
「ケシュア〜」
店主が天井を仰いだ。
「け、ケシュアちゃん、俺は本気だぜ」
レスタの野郎がたじろいだ。
「はい、私も好きな方と結婚したいので助けてくださーい」
小柄なかぶりちゃんが大柄なレスタの野郎の腕の中でジタバタしてる様子はなんか出そうなくらいかわいいが俺の腕の中でやらせたいから本気出して取り戻す!
レスタの野郎のシールドを戦斧にこめた力で攻撃する。
「ケシュアちゃんいるんだぞ! 」
レスタの野郎が衝撃からかぶりちゃんをかばいながら怒鳴った。
そのすきに足に戦斧をかけてバランスを崩させる。
さすが軍人だけあってすぐに立て直した。
心が高揚する、俺も竜人ということか……
レスタの野郎はかぶりちゃんを抱えてるから攻撃は術だけだ。
「行くぞ! 」
俺は横からレスタの野郎を戦斧で薙ぎ払った。
「いって〜」
レスタの野郎がさすがにかぶりちゃんを離して脇腹をさすった。
血……血がふきでないんだが……入らないってどんだけシールドにたけてるんだ?
「ほおけてないで次だよ、婿候補! 」
店主が指示をだした。
思わず蹴りを同じところに入れてシールドを破壊する。
「てめーやりやがったな! 」
レスタの野郎が戦棍を虚空から取り出して殴りかかってきた。
今度こそやってやると戦斧を構える。
レスタの野郎は転んだ……見事に。
「猫ロンロンで~す」
「またかよ」
俺はヤツの背中を踏みつけてため息をついた。
レスタの野郎はかぶりちゃんから抜けた猫ロンロンにまた引っかかって転んでいた。
「あんたバランス悪いんじゃねぇか? 」
呆れて顔を覗き込むと立派な角が本当にバランス悪そうだった。
「原始魔族の一つと言われた角家はその容姿を保つために多大な努力をしてるんだよ、私としては大きすぎだから他種族と混ぜたほうが良いと思うけどね」
店主がナイフの甲でペタペタ手を叩きながらあぶない微笑みを浮かべた。
「そうなのですかー」
かぶりちゃんが猫ロンロンを抱きしめて小首をかしげた。
可愛すぎる。
「まあ、大方あのご当主が嫁は人型魔族しか認めんとでもいったんじゃないの? 」
店主がそれ自体はなんとも思わないけど私の娘を巻き込んだのは許せないなと危険に笑った。
人型魔族っていうのは外見的にこいつみたいな牛の角だの俺みたいな竜人の翼と角と鱗だの社員食堂の女将さんみたいな八本足だののもってない人族とほとんど同じ外見の魔族だ。
現在、上級人型魔族……あぶないオヤジとか魔王陛下とかの翠家と下級人型魔族しかいないことになっている、遥か昔は中級人型魔族がいて、なんの因果かかぶりちゃん中級人型魔族らしい。
人型魔族を結婚相手の一人にするのは……主に高位魔族の連中だが……己の種族の特徴を次代に受け継がせられるからだ、人族でそれをやると力が半減するか変な風に受け継ぐので人型魔族を伴侶の一人にするのが一番良いとされている、あとの伴侶は他種族の政略結婚で姿形が変わっても跡取りは人型魔族と作った子供が継ぐのが高位魔族の暗黙の了解だ。
ただ問題がある、人型魔族は現在、公式には上級と下級しかいない、上級人型魔族はすきかってにできないしそれに仮に伴侶に迎えても上級人型魔族が強ければ子供は上級人型魔族になってしまう、下級人型魔族と子供をつくらせるには作るところから常時繊細な力加減で魔力を注がないと出産までいたらない、つまり手間がかかるのだが現在、高位魔族のほとんどがこの方式で跡取りを得ている。
そこでなぜ、中級人型魔族がいなくなったかというと中級人型魔族は力を注ぐ必要がなくしかもきちんとその種族の特徴を受け継がせられるので重宝がられ気づけはすべて高位魔族の伴侶となり純粋な中級人型魔族いなくなったのだ。
かぶりちゃんは上級人型魔族のあぶないオヤジとクラーケン族の女将さんの間に生まれた中級人型魔族……おそらくレベル差絶妙で生まれ貴重な種族でしかも女性なので狙われるので……猫ロンロンと憑依させて獣人の気配にしてたみたいだよな……時々猫ロンロンがコロンと逃げて捕まえてたときの気配で中級人型魔族って気がついてたけどさ。
まもってやらないとな。
そう思ってレスタの野郎の腰グリグリふんだ。
痛とレスタの野郎がうめいた。
「エスメラルダ〜俺はお前しか愛せないんだ〜」
レスタの野郎が泣いた。
「エスメラルダとは誰だい? 」
店主が俺を見た。
「掃除班のトカゲ族だ」
「ふーん、原始魔族にトカゲ族っていいんじゃないの? とりあえずうちの娘に手を出させないようにあそこでも切るかい? 」
店主がキラリとナイフを上げた。
「お父さん〜」
かぶりちゃんが涙ぐんで店主を見上げた。
「わかったよ、今回はやめておくよ」
店主が仕方なさそうにナイフを虚空にしまった。
「レスタのおっさん、私、好きな人と子供を作りたいのでお断りしまーす」
猫ロンロンを抱いたまましゃがみこんでかぶりちゃんがレスタの野郎をのぞき込んだ。
「ダメなのか〜」
レスタの野郎が泣き出した。
めんどくさくなって踏んでるのを離した。
おいおいこんなんでよく軍人なんぞできるな。
緋色の魔王城軍の軍服が泣くぞ。
レスタの野郎が転がったまま上を向いた。
そのままさめざめと泣いていてうっと惜しいことこの上ない。
めんどくさいのでエメを呼んだ。
しばらくするとすごい勢いトカゲ族がやって来た。
「あんた! おてんとう様に顔向けできないことしたんやて? 」
エメが容赦なく蹴りを入れた。
「エスメラルダとの未来がないと思うと」
「そんなにうちのことが好きなんなら一緒に頑固親父と戦ったるわ」
さめざめと泣くレスタの野郎を掃除機で容赦なく追い立てて立たせた。
相変わらずすごいな。
「エスメラルダ〜」
でかい角男がエメに抱きついた。
うっと惜しい、謝ったんとエメがパンチを腹に入れた。
ぐはっと言いながらレスタの野郎が土下座して申し訳ございませんと頭を下げた。
「許してやってーな」
エメも一緒に土下座して頭を下げる。
店主が危険な笑み浮かべたのを見てかぶりちゃん慌てたように前に出た。
「あ、あのレスタのおっさん好きな人と幸せになってください! そうしたら許します」
かぶりちゃんが猫ロンロンを抱いたまま言った。
「ありがとうなぁ」「ケシュアちゃん、本当にすまねぇ」
エメとレスタの野郎が済まなそうに言った。
「早く消えろ、僕が切れる前に」
店主が威嚇すると慌てて二人は頭を下げながら去っていった。
その様子をすこそ羨ましそうにかぶりちゃんが見てた。
「そういや、かぶりちゃんの好きな奴って誰だ? 」
俺は首をひねった。
「どこどう見ても君だと思うけどね」
店主が呆れたようにつぶやいた。
やっぱり君のを切ったほうが良いかなと続けてつぶやいたので慌てて飛び退いた。
「どうしてバレたのですかー? 」
とてとてとかぶりちゃんがかけてきてコテッと何も無いところでつまづいてころびかけたのであわてて抱きしめた。
「やっぱり、切っとく? 痛くしないから」
店主がニコニコしながらナイフを虚空からだした。
「お父さん、ティインを傷つけないでくださーい」
ところでどこ切るのですか? と腕の中でかぶりちゃんが小首をかしげた。
どこってあそこだろう危なすぎるぜ。
帰り道俺と嬉しそうに手をつなぐかぶりちゃんを店主は見ながらふーんやっぱり君かと意味深の目で見られた。
実力がはかれないぶん空恐ろしい。
「ティインさん一方的に好きになってごめんなさいです」
かぶりちゃんが俺を上目遣いで見た。
「いや、そのあのな」
反則だ、今すぐ抱きしめたくなる。
「でもティインさんの事大好きなのでーす」
ニッコリとかぶりちゃんが笑った。
「俺もかぶりちゃん……ケシュアちゃんのことが大好きだ」
思わず言って後ろを見ると店主が冷たい目で見ていた。
こ、殺される? いや俺はこう見えても魔王陛下護衛官の職業軍人なわけだしあっちは一応社員食堂の店主だし……死にはしないだろう……多分。
「あなた、なに娘の恋路を邪魔してるのよ、忙しいんだから仕事してください」
社員食堂翡翠の海近づいたとたんクラーケン族な女将さんに店主は引きずり込まれた。
女将さんはクラーケン族だから八本足がある。
そのうち二本に店主は拘束された。
「ケシュア、カレー粉買いにコンビニに行ってちょうだい、切らしちゃってね」
女将さんがニコニコ言ってお金を店主を拘束してない足でかぶりちゃんに渡した。
ああ、そうだお取り寄せの人界料理全集が来ているかもしれないかもしれないからティインさんも荷物持ちに頼むねと女将さんがウインクした。
全く女将さんにはかなわない。
ケートリア! 君は娘が男におそわれてもいいのか〜と叫ぶ店主を尻目にはいはいと言いながら女将さんは店主を食堂に引きずり込んだ。
女将さんだけは敵に回さないようにしようと心に誓った。
「ティインさん、私の事好きってほ、本当に……」
かぶりちゃんが可愛く頬を染めた。
「本当だ、かぶりちゃんのことが好きだ」
俺はかぶりちゃんの耳元に甘く告げた。
面白いくらいまっかになった。
「あの私、幸せ過ぎでーす」
かぶりちゃんがふにゃっと微笑んだ。
あまりの可愛さに抱きしめて頬にキスした。
「かぶりちゃん……いやケシュア嬢、俺と付き合ってほしい」
俺は真っ赤になったかぶりちゃんに熱い目で見た。
後でその場を通った後輩が暑苦しいもん見ましたよといったので完膚なきまでに叩きのめしたが、今、この瞬間は全く視線に気が付かなかった。
それだけ俺も緊張していたのだろう。
「嬉しいでーす、ティインさん、ティインシスさん! 大好きなのでーす」
かぶりちゃんが勢い良く抱きついてまだ、抱いてた猫ロンロンがみゅーと鳴いて床に転がった。
俺はかぶりちゃん、ケシュアちゃんを抱きしめて顎を持ってキスしてケシュアちをたんのうした。
「……ティインさ……」
ケシュアちゃんをキスから開放した時崩れ落ちそうになったので抱き上げると窓の外からピンク色の春の夕焼けの光に照らされた。
昼飯を食べそこねた瞬間だった。
こうなったらケシュアちゃんを……というわけに行かないか……
キスで腰抜ける純情可憐な恋人をどうに育てて行くのか少しにやけた。
ところでもしかしたら俺はお気に入りの社員食堂翡翠の海であの親ばかな店主にこれから交際を妨害されるんだろうか?
ま、まさかな?
俺の予想は悪い方にあたりケシュアと結婚するまで……いやケシュアと結婚しても店主の妨害と言う名の攻撃は続いた。
義母がそのたびにあの八本足で義父を止めてくれたが。
ま、まあ戦闘訓練になるしケシュアの事愛してるからいいか……それから孫娘を翠家の女性部屋に勧誘しないでください、孫ラブの戦闘狂とバトりますよ。
未来はともかく今は猫ロンロンを拾って被ってる彼女とコンビニいって買いもんだな。
「ティインさん大好きなのでーす」
「ああ、俺もだ」
可愛い彼女を赤ちゃん抱きに抱き上げて廊下に落ちていたおかもちを片手に俺はコンビニに急いだ。
とりあえず特大オニギリでも買うか?
それを腹に入れたら甘ーいケシュアのキスをデザートにして……
色々あったが充実な休みだった。
にまにましながらそう思った。
駄文を読んでいただきありがとうございます♥