からっぽちゃん
あるところに、からっぽちゃんが住んでいました。からっぽちゃんのお家は木の上にありました。朝になりました。からっぽちゃんはリスでした。朝ごはんの木の実を食べて、木の枝を行ったり来たりして遊びました。
「なんか……違う」
ある日のこと。からっぽちゃんのお家は洞窟でした。夜になりました。からっぽちゃんはコウモリでした。洞窟の天井に逆さになってぶら下がっていたからっぽちゃんは、外に出て低く飛んでいました。
「うーん……違う」
ある日のこと。からっぽちゃんのお家は海の中でした。からっぽちゃんはタコでした。のんびり八本の足で泳いでいると大きな魚がやってきたので、からっぽちゃんはスミをはいて姿をかくしました。
「やっぱり……違う」
ある日のこと。からっぽちゃんのお家は草原でした。からっぽちゃんはライオンでした。立派なたてがみを付けて群れを引きつれていました。日が沈んだのでメスのライオンは狩りに出かけました。
「……違うー」
ある日のこと。からっぽちゃんのお家は牧場でした。からっぽちゃんはウシでした。柔らかい草を食べると乳しぼりをしてもらいました。からっぽちゃんは「もぉ〜違う」と言いました。
からっぽちゃんは、いつもからっぽでした。何になってもからっぽでした。ある日、からっぽちゃんはイヌでした。イヌ小屋から顔を出して「くぅーん」と鳴きました。
空の上で神様が地上を眺めていました。
「やっと見つけた!」
神様は、からっぽちゃんをずっと探していました。からっぽちゃんを下界におくるとき、大事なものをあげるのを忘れてしまったからです。神様は、からっぽちゃんが眠ってしまったことを確かめると、そっと手を伸ばして、からっぽちゃんをすくいあげました。そして小さな光る玉をからっぽちゃんの胸に押し当てると光る玉は、すぅーと消えてしまいました。”シャンシャン”鈴のような音色がしました。
「忘れたお詫びにスペシャルプレゼントを付けたよ」
ある日のこと。からっぽちゃんのお家は土の中でした。からっぽちゃんは球根でした。たくさん根っこを生やして春が来るのを待っていました。土の中から顔を出したら、そこはどんなところでしょうか。そして、からっぽちゃんはどんな花を咲かすのでしょうか。
◇◇
春になりました。風車が見える公園にたくさんのチューリップが咲き誇っています。そのなかにひときわ目立つチューリップが咲いていました。それはまだ誰も見たことがない、青いチューリップでした。まるで、空の色を吸い込んだような、やさしい青色でした。
「チューリップだよ! ワタシの名前はチューリップ!」
からっぽちゃんは、もう、からっぽではありませんでした。