表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編集

からっぽちゃん

作者: さゆみ


 あるところに、からっぽちゃんが住んでいました。からっぽちゃんのお家は木の上にありました。朝になりました。からっぽちゃんはリスでした。朝ごはんの木の実を食べて、木の枝を行ったり来たりして遊びました。

「なんか……違う」


 ある日のこと。からっぽちゃんのお家は洞窟でした。夜になりました。からっぽちゃんはコウモリでした。洞窟の天井に逆さになってぶら下がっていたからっぽちゃんは、外に出て低く飛んでいました。

「うーん……違う」


 ある日のこと。からっぽちゃんのお家は海の中でした。からっぽちゃんはタコでした。のんびり八本の足で泳いでいると大きな魚がやってきたので、からっぽちゃんはスミをはいて姿をかくしました。

「やっぱり……違う」


 ある日のこと。からっぽちゃんのお家は草原でした。からっぽちゃんはライオンでした。立派なたてがみを付けて群れを引きつれていました。日が沈んだのでメスのライオンは狩りに出かけました。

「……違うー」


 ある日のこと。からっぽちゃんのお家は牧場でした。からっぽちゃんはウシでした。柔らかい草を食べると乳しぼりをしてもらいました。からっぽちゃんは「もぉ〜違う」と言いました。


 からっぽちゃんは、いつもからっぽでした。何になってもからっぽでした。ある日、からっぽちゃんはイヌでした。イヌ小屋から顔を出して「くぅーん」と鳴きました。


 空の上で神様が地上を眺めていました。

「やっと見つけた!」

 神様は、からっぽちゃんをずっと探していました。からっぽちゃんを下界におくるとき、大事なものをあげるのを忘れてしまったからです。神様は、からっぽちゃんが眠ってしまったことを確かめると、そっと手を伸ばして、からっぽちゃんをすくいあげました。そして小さな光る玉をからっぽちゃんの胸に押し当てると光る玉は、すぅーと消えてしまいました。”シャンシャン”鈴のような音色がしました。

「忘れたお詫びにスペシャルプレゼントを付けたよ」


 ある日のこと。からっぽちゃんのお家は土の中でした。からっぽちゃんは球根でした。たくさん根っこを生やして春が来るのを待っていました。土の中から顔を出したら、そこはどんなところでしょうか。そして、からっぽちゃんはどんな花を咲かすのでしょうか。



◇◇

 


 春になりました。風車が見える公園にたくさんのチューリップが咲き誇っています。そのなかにひときわ目立つチューリップが咲いていました。それはまだ誰も見たことがない、青いチューリップでした。まるで、空の色を吸い込んだような、やさしい青色でした。

 

「チューリップだよ! ワタシの名前はチューリップ!」

 からっぽちゃんは、もう、からっぽではありませんでした。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] このお話は青いチューリップありきだったのかなぁ。それとも書き進めていくうちにたどり着いたのか、興味津々です。言葉のリズムとテンポが好き。生き物のチョイスも絵本的で素敵です
[一言] 唐瀬さんからおススメ頂きましたので、早速読ませて頂きました。 凄く考えさせられる…… そして、心に染み入る素敵な童話ですね! トトは元保母だったし、小学校で読み聞かせのボランティアもしており…
[良い点] とても癒されました。 いろんなおとぎ話に囲まれてた小さい頃を思い出して。 [一言] 不思議な響きのタイトルに惹かれてたどり着きました。 やさしい文章を読みながら絵本のイメージがわいてきて…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ