ブルーマンデー妄想癖
東京の四月は過酷だ。
全国から右も左も分からぬ人間がこれでもかと集まってくる。
卒業を期に新入社員として入社後、本社にて2週間の研修。
高校を卒業して専門学校や大学への入学に
単純な人事異動での転勤もあるだろう。
この時期人間達のうねりが一気に都心へ向かう電車内に集中して、
春の朝は殺伐としている。
しかし数週間もすると研修組は本来の自分の居場所へと戻り、
この地に根をおろした者は満員電車の所作を覚え始め、
飛躍的に混沌は日常化を加速させてゆく。
従来からの在京組は『やれやれようやく楽になってきた』
などと安堵の笑みを零すが、その実ラッシュが消滅した訳ではない事はよく理解している。
しかしそれとは逆行して丁度その時期、私の機嫌はすこぶる悪くなるのだ。
それは 日常のクズっぷり!にだ。
少し持論におつきあい願いたい。
通勤ラッシュの地獄は年々酷くなるばかりだ。
都心に経済活動を集中させた偉い人たちの失策だろう。
(その失策加減は花粉症と似ている。花粉症患者は国策によって疾患した指定難病としてその不利益に対しなぜ集団訴訟を起こさないのか?花粉症ではない私には理解できない)
こんな非人間的な状況に大きな声もあげずに、何十年もコツコツと通勤している民族も世界中で希有なサイレントピープルなんだな。
しかしもの言わぬ東京の人々が品行方正かと言えばそうではない。
私の機嫌が悪くなるのはまさにこの部分なのである。
痴漢やスリ等といった輩は別として、
誰もが満員電車を嫌うにも関わらず、あまりにも怠惰な振る舞いをするやつらが多すぎる。
もう一度言う。
これを日常として割り切り暮らす事を決めた民なのであれば、その車内の過ごし方に対して個々の責任と公共性の側面を強く感じるべきだと。
人の背中にスマートフォンを押しあてメールを打つ女。
せわしく動く指先を見ると乗車率300%の車内でパズルゲームに熱中している男。
かたや人の乗り降りが有るにも関わらずドア前から動かないハイミスに、
インナーフォンから漏れる強烈なリズムを楽しむフェスバカ。
あなた達がつり革を掴む事で、私に寄りかからなくても良いはずだ。
何人もの体重を支えているのでどうしても揺れた際には隣の人にもたれてしまうが、
尋常ではない形相で身体を固くこわばらせる中年の男。
経済新聞を広げ読むロートルのカフスボタン。
鼻がぼとりと落ちそうな位の香水の匂い。
私がここまで痛快に言い切るには理由と自信がある。
それはこの東京中の満員電車ピープルの中で最も自分がどうすれば良いかを真剣に日々考え実行している人間だからだ。
私は身体をよじらせながら常に人に触れない努力を怠らない。
私は自分がどの角度で立てば最も周囲に失礼が無いかを考え行う。
私は鞄を人様に当てぬ様に待つべき高さを常にコントロールする。
満員電車は誰もが嫌なはずだ。
だからこそ公共性が優先されるべきであろうと常に考え、つり革には必ず捕まり、スマートフォンや文庫本はいじれる状況下でしか取り出さない。
世の満員電車ピープルに告ぐ、
車内で君達が興じるなにかしらの器具をつかったその行為と言うモノは、
それらが出来得る状況下であれば、いくらでも好きにすればいい。
それは君の自由だ。否定しない。
だがその満員の車内でするべきことかどうかを少しだけ考えてみて欲しい。
今君がいるその状況は、君が暇をつぶす行為を出来得る状況下なのかい?
今君がいるその状況は、君が恋人や友人とチャットをする状況下なのかい?
都心へ向かう通勤を、渋々ながらも日常だと受け入れた不幸な民なのであれば
どうかこのismだけは理解しておいて欲しい。
さて、ここからがこの話の本題なのだが、
私はどのようにしてこの苛立を押さえているか?を紹介しよう。
ここからは私の人間性の小ささが痛快に表現出来でいると思う。
私はそのクズ共に対し、それぞれにあった報復を妄想する。
今、目の前にいるこのバッタみたいな顔をした女には、ベタにバッタになってもらおうじゃないか。
想像してごらん?イマジンさ!
突然の白煙と共にその女はバッタになってしまうのだよ。
周囲の乗客は突然の事に驚き、中にはパニックを起こす者まで出始める。
『ここに居た女性が急に消えた!』
そんな声が周囲からあがるが私には聞こえているのだよ。ふふふふふ。
電車の床面を気が狂わんばかりの感情ではいつくばる女バッタの声をだ。
カフカの虫は虫側の話だが、この話は虫にする側の話だ。
私は女バッタの脳に直接話しかける。
『君はどうして今バッタになったかわかるかい?君はこんな満員電車の中で自分さえ良ければイイとの考えでずっと僕の背中にスマートフォンを押し当てながら誰かと今夜の合コンについてチャットしていたよね。私は背中が気になって何度も振り返ったじゃないか!でも君は気づいて居ながらもかまわず続けたよね。私が君のために我慢すれば良かったのかい?そうはいかないよ、だって私は君の何でもないからね。それは甘えと言うものだよ。だから君にはバッタになってもらったんだ。だって君はとってもバッタみたいな顔をしてたからさ。』
バッタ女は懇願する
『本当にごめんなさい、言い訳できないけどとにかく元の姿に戻して欲しい、それからきちんとお詫びさせてもらうから、お願いします。これじゃ会社にもいけないし。。。』
『すまないけど僕は次の駅で降りるんだ。あとは自分で考えて欲しいな、じゃ!』
(どうだい?僕の仲間達よ!こんなにも痛快な妄想ってあるかい?今度は君のトルチョックな妄想も聴きたいな)
バッタ女は私の鞄に必死にしがみつき一緒に電車を降りてくる。
『あんた、こんな事をしてただで済むと思ってんの?大変な事になるわよ。警察に言うわ、あなたは立派な犯罪者よ、刑務所にいくわよ!』
『ねぇ君、それは一体どんな罪状になるのか教えてくれないかなぁ?あなたをバッタにした罪かい?証人は居るのかい?では私がそうしたと言うのならば一体どんな方法であなたをバッタにしたんだい?』
私はこの台詞をこれまでに何度妄想した事であろう。
イメージとしてはこの台詞がこの話のクライマックスなのだが、
この後の尾ひれも少しだけサービスとして書いておこう。
『なぁに、私も鬼じゃないよ。君が明日から満員電車内での振る舞いに細心の注意を払い、自らの所作を律すると言うのであれば今回は元の姿に戻してあげよう。ただし、今此処で君を元の姿に戻してしまうと君は丸裸でこのホームに立つ事になるがそれでもいいかい?じゃ戻すね!』
白煙があがった。
これまでに私は、
ブチブチ蜘蛛専務、ダンゴムシ関西人妻、出世魚ジョニー、
ラブラドールレト千登勢、下北沢ヘラブナJK、女蛭子能収、
(この女蛭子OLは最終的にこのままで良いと言い放ち、蛭子さんとして今も生きている。)
古くはプリングルスの顔職人などの人造人間を作り出し、
軒並み改心させていった。
もしも君が満員電車の中で私をみかけたら所作に気をつけた方が良い。
それ如何によって君はハエやミミズ、蛙に、蝶などに変えられてしまうからね。