↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第六章「教導者時代:諸国編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

449/529

第六十二話「アシュタルの焦り」

前半がザック視点の一人称。後半がアシュタル視点の三人称です。

 三月二十八日の午後三時頃。

 敵が襲撃してきた。幸いなことに最も恐ろしい漆黒の魔族は姿を見せていないが、コウモリの翼を持つ翼魔族に似た男が魔物たちを率いていた。


 今回のために新たに開発した最強の光属性魔法“光神の雷霆《ライトニング・オブ・ルキドゥス》”を使用したが、その男には全く通用せず、傷一つ与えることができなかった。


 それでも咄嗟に目標を変え、一つ目巨人(サイクロプス)にダメージを与えることに成功した。更に痛みに暴れ回るサイクロプスにより、四手熊(フォーアームズベア)にも大きなダメージを与えている。


 そのサイクロプスだが、敵の魔法によって動きを止めた。死んでいるのかは不明だが、少なくとも無力化には成功している。

 ボクシングに例えるなら、第一ラウンドはロックハート家がポイントを取った形だ。


 しかし、漆黒の魔族との決戦用に用意した魔法が、ナンバーツーである翼魔族の男にすら効かなかった。その事実が心に重く圧し掛かっている。


 サイクロプスと四手熊を排除したものの、まだ大物の地竜(ランドドラゴン)が残っている。

 地竜は全長十メートル、体高三メートルほどの巨大な魔物で、見た目は西洋竜の翼がない感じだ。

 強靭な顎と鋭い爪、頑丈な鱗を持ち、火や冷気など属性を伴ったブレスを放つものもおり、二級相当の魔物の中でも危険度は高い。


 その地竜が巨体に見合わぬ速度で迫ってくる。

 後方にいる俺が指示を飛ばす。


「剣術士は前に! だが正面から当たるな! 岩を上手く使え! 槍術士は横に回り込め! 弓術士は妖魔を牽制しろ!」


 更にリディとシャロンに対し、


「大魔(グレーターデーモン)を狙うぞ。リディは光の矢(シャイニングアロー)、シャロンは燕翼の刃(スワローカッター)で牽制を頼む。輝ける隼《ブリリアントファルコン》で止めを刺す」


 二人から同時に「「了解」」と返ってくる。


 大魔は妖魔を引き連れ、地竜の後方に浮かんでいる。その距離、約五十メートル。

 大魔自身は魔法を使う素振りを見せていないが、妖魔たちは闇の槍(ダークランス)を放ち始めた。


 敵の頭目は更にその後方に浮かんでおり、俺たちの様子を眺めているだけで特に手出しをする感じはない。俺たちを侮っているのか、それとも何かやろうとしているのかは不明だが、こちらにとっては好都合だ。



 呪文を唱え終えたリディが大魔に向けて光の矢を放つ。

 いつもより魔力を込めたのか、眩い光が空に弧を描く。


 正面から当たると思った瞬間、大魔は突然出現した漆黒の盾でそれを弾いた。

 見た感じでは収納魔法(インベントリ)からではなく、闇属性魔法で作ったもののようだ。


 その間にシャロンのスワローカッターも放たれていた。それは妖魔に向かってまっすぐ飛んでいき、大魔は余裕の笑みを浮かべて地上の戦況を眺めているように見える。恐らく、俺たちの魔法は盾で何とかできると考え、地上の支援を優先しようと考えているのだろう。


 シャロンの放った魔法のツバメが妖魔の目の前で軌道を変えた。

 その軽快な動きはツバメそのもので、翼を翻して急降下しながら速度を上げ、大魔の真下で垂直に上昇する。


 その動きにそれまで余裕の笑みを浮かべていた大魔も驚く。動揺をしたのか、慌てて身体を捻り、先ほどの漆黒の盾を召喚した。しかし、スピードを上げた魔法のツバメの動きに追従できない。


 大魔の右側をすり抜けるように飛ぶ。鋭い刃の翼がその翼の薄膜を切り裂いていく。

 更に上昇していき、曲芸飛行のように翼を翻して急降下に移った。

 急降下に入ると翼を折り畳むようにして加速し、大魔の死角から首筋に体当たりする。ツバメは大魔の首に突き刺さった後、消滅した。


 大魔は何が起きたのか理解できず、首筋に右手を持っていく。

 そして右手を見つめ、どす黒い血が噴き出していることに気づくと、慌てて魔法を発動しようと精霊の力を集め始めた。


 負傷した大魔に俺のブリリアントファルコンの魔法が襲いかかる。

 大魔は自らを守ろうと妖魔を盾にしようと周囲を固めさせようと、


「何をしている! 我を守れ!」と指示を出す。


 しかし、俺の魔法の隼は本物以上に俊敏だ。妖魔たちはその動きに翻弄されて右往左往するだけで針路を塞ぐことができない。


 危険を感じた大魔は本能的に漆黒の盾を顔の前に出した。

 それを予想していたかのように、俺の隼は妖魔たちの前で大きく右に迂回する。その速度は時速百キロを超え、美しい軌道を残しながら大魔の背中に激突した。


 この一撃で大魔の命運は尽きた。

 首を切り裂かれ、更に背中に致命的な傷を負った大魔は物理法則に従って墜落していく。妖魔が助けようと手を出すが、そのまま二十メートルほど落下し、地面に激突した。

 大魔はそのままそこで動かなくなり、妖魔たちも大魔が死んだと確信したのか、攻撃を再開した。



 俺たちが大魔たちと戦っている間に祖父たちも善戦していた。


「正面は儂らが受け持つ! ロッドの班は左回り込め! ウォルト! ベアトリス! 尾に気をつけながら後脚を攻撃するんじゃ!」


 祖父の命令に即座に反応する。

 祖父はアダマンタイトの剣に炎を纏わせ、構えている。その後ろにはバイロン・シードルフが祖父を守護するように立ち、巨大な両手剣に魔法を纏わせていた。

 シムたちもそれぞれの剣を構えて祖父の命令を待つ。


 地竜は祖父たちのことを煩わしげに見るものの、気にすることなく進んでくる。


「行くぞ!」という祖父の声で五人が一斉に動く。


 地竜もただ待っているだけではなかった。

 祖父の剣を脅威に思ったのか、足を止める。そして、頭を上げると、威嚇するように大きく口を開ける。その口は人間を丸呑みできるほど巨大で、鋭い牙が唾液でぬらりと光っていた。


 祖父は一気に距離を詰め、地竜の下顎目掛けて剣を振るった。

 そして、鋼を弾くと言われる竜鱗(ドラゴンスケイル)をいとも容易く斬り裂く。

 地竜はその痛みに狂ったような咆哮を上げ、身体をくねらせる。長い尾が鞭のようにしなり、そのあまりの速さに後方から攻撃しようとしていた槍術士たちが巻き込まれた。


 達人であるベアトリスとウォルト・ヴァッセルはギリギリのところで回避に成功したが、死角から襲われたイーノス・ヴァッセルと従士のエディが尾の一撃を受けた。

 イーノスは十メートルほど吹き飛ばされて大の字になって倒れ、エディも同じように大きく吹き飛ばされ岩に叩きつけられる。二人ともピクリとも動かない。


 直撃を免れた従士長のウィル・キーガンと従士のルークが助けに行こうとするが、ウォルトが「先代様の命令を忘れたのか!」と叫ぶ。

 ウィルは「しかし……」と反論しようとしたが、祖父の言葉を思い出し地竜に向かった。



 後方にいる俺ものんびり観戦していたわけではない。

 大魔を倒した後、敵の頭目である翼魔族らしき男が前に出てきたため、牽制の魔法を放ち続けていた。


 最強の光属性魔法である“光神の雷霆《ライトニング・オブ・ルキドゥス》”が効かなかった相手であり、他の魔法が効くとは思えないが、以前見た闇の巨人を召喚されると厄介なため、嫌がらせのため攻撃を行っていたのだ。


 俺とシャロンが魔力(MP)消費量の少ないスワローカッターを使い、リディが旋風の刃(ウィンドブレード)を放つ。

 何度か命中しているようだが、全くダメージを与えられない。まるで見えない壁でもあるかのように当たった瞬間、魔法が消えてしまうのだ。


 それでも牽制の効果はあるようで、煩わしげにこちらを見ている。更に妖魔に命じ、俺たちを攻撃し始めた。

 その攻撃は手元に置いてあるミスリルコーティングの盾で防ぎ、ヘクターたち弓術士が弓で逆襲することでこう着状態に陥っていた。


 イーノスとエディがやられたが、今のところ互角以上に戦えている。しかし、こちらには敵の頭目を倒す術がない。

 更に前線で戦う祖父たちも地竜を抑えているが、巨大な魔物を相手にさすがの祖父も一筋縄ではいかないようだ。


■■■


 魔将(アークデーモン)のアシュタルは余裕の笑みを浮かべているものの、内心では苛立ちを覚えていた。


(こやつらは何者なのだ? ミスリルやアダマンタイトの武器をこれほどまでに持っている組織は神(あるじ)からも聞いておらぬ……それ以上に不可解なのはあの魔術師たちだ。エルフは分からぬでもないが、あの人族は異常すぎる。最初に撃たれた光属性魔法も神の力を借りた我でなければ、危ういところであった……)


 彼は大魔(グレーターデーモン)たちが倒されたことを知り、邪魔者を排除するため、持ちうる最大の戦力で出撃した。

 虚無神(ヴァニタス)に以前のような不安定さはなく、共に出撃することは可能だったが、忠実なる臣下として主の手を煩わすことをアシュタルはよしとしなかった。


 しかし、それは決して油断していたからではない。

 彼の有する戦力は一万人規模の騎士団であっても壊滅させることが可能だ。

 ロックハート家の正確な戦力は分かっていなかったが、常識的に考えて五十人以上であることはあり得ない。

 その程度の戦力に対し、過剰ともいえる戦力を投入した。これは自らの戦力を損なうことなく、大魔や妖魔を仕留めた者たちを殲滅するためだった。


 それだけの戦力を投入しながらも、すでにサイクロプスと四手熊が脱落し、地上戦力は地竜と遅れている多頭蛇竜(ヒドラ)のみになっている。

 サイクロプスは唯一の目を潰された衝撃で制御が効かなくなり、暴れ回るだけの存在となったため、闇属性魔法で麻痺させている。


 四手熊も瀕死の状態だが、元々生命力の強い魔物であるため、放置しているに過ぎない。

 両方とも敵を殲滅した後に、治癒魔法を使って回復させればよいと考え放置しているが、今の戦いに役に立たないことに変わりはない。


 眷族である大魔が倒され、妖魔たちもいつ撃ち落とされるか分からない状況であり、ヴァニタスの計画に支障が出かねないと考えていた。


(このままでは神の計画が遅れることになる……この失態を挽回するにはあの魔術師を捕らえ、我が配下に加えるか、神の贄にするしかない。面倒なことだ……)


 そう考えるものの、ヴァニタスが何を考えているのか、彼自身はっきりとは理解していない。

 これはヴァニタスが計画のすべてをアシュタルに伝えていないためだ。ヴァニタスは伝えることにより、神々に自らの戦略が漏れることを恐れていた。


 ヴァニタスは黒魔族のサウル・インクヴァルの身体を奪っており、世界への干渉という点では既に限界を大きく超えている。

 つまり、この世界の神々も自らの力を使う権利を得たことになり、計画への直接的な干渉を行うことができる。


 このような状況で情報が漏えいすれば、神々が妨害してくることは火を見るより明らかで、現状で最も使える配下であるアシュタルにすら、計画の全貌やルナとザカライアスという特異な存在についても伝えていない。


 アシュタルに伝えているのは戦力を増強し、交通の要衝である大都市ペリクリトルを奪取するということだった。ペリクリトルを手に入れた後は住民たちを眷属化し、侵略の先兵とするとだけ教えられていた。


 ちなみにヴァニタスの計画だが、当初はリッカデール周辺で優秀な冒険者を拉致して傀儡(くぐつ)とし、その傀儡を使って冒険者ギルドに浸透する。ギルドの情報網を使って月の御子(ルナ)を探し出すというものだった。

 いかに邪神と呼ばれる存在であっても、この世界の神々の加護を持つルナの居場所を正確には掴めなかったのだ。


 そのためにリッカデール周辺で騒ぎを起こし、冒険者たちが調査に来るように仕向けるつもりでいた。

 しかし、昨年の九月の調査で優秀な冒険者たちを失い、冒険者ギルドは調査に二の足を踏んだ。更にザカライアスらが現れたため、計画の修正を行わざるを得なくなった。


 修正された計画ではザカライアスを捕らえて眷族化し、ルナを手に入れるというものだ。

 ザカライアスがルナを守護していることは当然知っており、彼の知識の中からルナの居場所を探る。更にルナがザカライアスを思慕していることから、その感情を利用して自らの降臨先にしようと考えたのだ。


 アシュタルはヴァニタスがすべてを語っていないことに気づいていたが、絶対的な服従を誓っており、疑問は全く感じていない。

 但し、盲目的に従うだけでなく、ヴァニタスが力を欲していることを気づいており、それを助けるために成すべきことを考えて行動している。


 アシュタルは大魔と妖魔を倒した存在が計画の邪魔になると考えて独断専行した。ヴァニタスもアシュタルが動いたことに気づいていたが、自らが動けば世界への干渉となるため、黙認するしかない。


 アシュタルは戦況が芳しくないため、自らも戦闘に加わろうとしたが、ザカライアスらの魔法により攻撃に加われない。

 そして、ついに浮かべていた笑みが消え、苛立ちを外に出す。


「妖魔ども何をしているのだ! 敵が牽制してくるなら、こちらも同じことをすればよい!」


 妖魔たちにザカライアスらへの攻撃を命じるが、魔法を防ぐ盾と弓術士たちによる攻撃で効果が上がらない。

 焦れたアシュタルはそのまま一気に百m(メルト)ほど上昇し、魔法の射程外に逃れる。しかし、ザカライアスとシャロンの魔法は執拗で、通常の魔法の射程を無視して攻撃してきた。


「ええい、鬱陶しい!」と叫ぶと、更に上昇していく。二百メルトほど上昇したところで、ようやく魔法攻撃が届かなくなる。


 そこでニヤリと笑い、闇の精霊の力を集めていく。

 地上ではエルフの女性が自分を指差して叫び、二人の魔術師が慌てて魔法を放とうとしていた。


「間に合わぬわ」と呟くと、集めた闇の精霊の力を魔法に変える。


 アシュタルは右手を上げると、集めた力を一気に解放する。

 漆黒の球が右手の上に現れ、徐々に大きくなる。最初は三十cm(セメル)ほどであったものが、十秒ほどで五メルトを超えた。

 アシュタルはもう一度笑みを浮かべると、それを地上に向けて叩き付けるように放つ。


 漆黒の巨大な球は徐々に加速していき、地上から五十メルトほどの高さで唐突に割れた。そして、数百個の球となって敵に降り注ぐ。その一つ一つが五十セメルほどあり、禍々しい力を孕んでいることは誰の目にも明らかだった。


 実際、小さくなった球であってもオーガクラスの魔物を一撃で戦闘不能に陥らせるほどの威力を誇る。

 誘導こそできないものの、攻撃範囲内に満遍なく降り注ぎ、確実に敵を仕留める魔法だった。

 膨大な魔力を持つ魔将だからこそできる力技で、ザカライアスらに畏怖と恐怖を与えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。